第13話 エクストラダンジョン:海底洞窟
メロの案内で、海底洞窟に入る。
洞窟は、本当に海の底にあった。
メロが潜水の魔法をかけてくれたので、酸素の問題はなし。いくらでも潜れる。
探していたときはサンゴに覆われていて、パッと見で洞窟だとはわからない。
「ベップおじさん。あっち」
ミラベルが、入口らしきポイントを見つける。
わずかに明かりがついていたため、発見できたらしい。
入口に入ると、一気に視界がひらけて、明るくなる。水の中でもない。発って進むことができるようだ。
「この内部だけ、異次元につながっているのです」
「よし。酸素の心配はないようだな」
レベル制限で装備できなかったアイテムで、ミラベルを守っている。
それでも足りなかったら、バフでもなんでも撒く。
オレの意気込みに反して、とんでもない怪物が集まってきた。
巨大なカメや、イカの顔をした魔導師など。後は、空を飛ぶ魚どもだ。
いきなり、強敵が現れたな。入口の時点で、モンスター部屋だったのか?
「思い切っていけ、ミラベル」
「うん! ハートンファー!」
先端がハートになったトンファーで、モンスターたちを殴る。
見た目はファンシーで女の子っぽいが、効果はてきめんだ。
一撃で、モンスターが沈んでいく。
ミラベルには、シールドは持たせなかった。レアを持っていなかったからだ。
全身装備は、最高等級レジェンダリークラスもあった。一方で、盾にはロクな等級がない。ミラベルのクラスでは、装備できないものも多かった。
なのでミラベルの装備は、ステッキの二刀流に。
片方はレジェンダリーの角笛。もう片方はトンファーである。
トンファーは、攻防一体の武器だ。
「防御もできる武器がほしい」と頼んだら、メロが用意してくれた。
人魚の世界では、メジャーな道具らしい。沖縄発祥の武器だからか?
二刀流にしたのも、「攻撃こそ最大の防御」なんて武闘家みたいな前のめりの理屈ではない。
「オレが全力で魔法障壁を作ればいいだけ」と、結論付けたのだ。
常に魔法の防御フィールドを展開できる腕輪を、両腕に装備している。
オレはその腕輪に、最高クラスのバフをかけているのだ。
ただしオレの魔力は、常に三分の二を消費している状態である。
とにかく誰も死なせないことが、オレの役割だと考えた。
ミラベルが、イカ魔導師と対決する。
魔導師の放つ氷の矢を、トンファーを回して防ぐ。
前進して、みぞおちにキックを見舞った。トンファーキックなんて、実物では初めて見たな。
だが、肉弾戦に弱かったらしく、イカ魔導師は消滅した。
あとはカメだが、微動だにしない。
しかし、どんな魔法を当ててもビクともしなかった。
【絶対防御】だと? そんなスキルを使う相手なんて。
「ベップさん、あそこを!」
カメの後ろに、大きなサンゴの扉が見える。
コイツ、ボス部屋を守っているのか。
「ええい、どけ!」
ボスを倒さないと、人魚が困るだろうが!
オレは、特大の火球をぶっ放す。
ラスボスにすら通る、最大級の魔法だぜ。
しかし、ダメージは微々たるもの。しかも、すぐに再生しやがった。
さすがに【絶対防御】持ちは、倒せないか。
「ベップおじさん、どうしよう?」
「大丈夫だ。手は考えている」
こういうことは、ラスボス前にもあった。
倒せない敵が道を塞ぐ場面のときは、戦闘以外の要素がある証拠である。
「なんかの仕掛けがあるはずだ。探そう」
オレたちは散らばって、ダンジョンを開けられそうなスイッチを探索する。
だが、なにも見つからない。
こんなとき、メロの弱点探知が役に立つのだが……ん?
「ベップさん。あいにくカメの弱点も、扉につながるすいっちも見つかりませんでした。ですが――」
メロが、サンゴの壁をどけた。そこは引き戸になっていて、脇道が広がる。
「隠し通路は見つけました」
「でかした!」
カメは多分、ただのトラップか。
もしくは、別の通路から遠回りして開けるタイプの扉なんだろう。
この通路を抜けた先の仕掛けを動かし、また戻ってくるのかもしれない。
脇道を抜け、終点にあったらせん階段を登っていく。
また、モンスター部屋に入った。
このパターンは。
「やっぱりだ」
すべての魔物を倒すと、スイッチが床からせり上がってきた。台座に乗った大きなボタンが、部屋に出現する。バラエティ番組みたいな演出だな。
押すと、「ズズズ」となにかが動く音が。
「どうやら、扉がわずかに開いたっぽい」
戻って確認すると、やはり扉が開いている。片側だけ。
「反対方向も、動かすぞ」
オレは反対のサンゴをどけて、隠し通路を見つける。
同じように、らせん階段を登った。
「おお!」
今度はモンスター部屋ではなく、中ボスのような敵が。
三叉の槍を持った、半魚人だ。サイズは、三メートルは超えているだろう。
「あれは、水の精霊です!」
精霊は執拗に、ミラベルへ攻撃をしてくる。
まずい。一番レベルが低いやつを、攻撃するタイプか。
ミラベルもトンファーで応戦するが、相手の動きが早い。
ダメージは通っていないが、ミラベル側も攻撃がしづらそうだ。
両者、膠着状態に。
「ミラベル! くそ!」
こうなったら、こっちにヘイトを集めるか。
オレも、戦闘に参加する。
「お前の相手は、こっちだ! 【アイスバー・アタック】!」
アイスキャンディーに似た氷の柱で、敵の顔面を殴り飛ばした。
敵のターゲットが、オレに移る。
攻撃を避けつつ殴り続けていると、急に敵が立ち止まった。
三叉の槍を顔の前に掲げ、力をためている。
大技が来るか。
三叉の槍から、雷撃を撃ち出す。
「おおっと!」
オレは、アイスバーで雷を打ち返した。
魔法攻撃が反射し、敵に特大のダメージを与える。
なるほど。そういう仕組みか。
あの雷撃を反射しないと、攻撃は通らないっぽいな。
「ミラベル、今のうちに装備変更! キャンディケインに戻して!」
「わかった!」
この敵は、まともに打ち合って勝つタイプじゃない。
オレがミラベルに指示を出した。
その間に、再び水の精霊が力を溜め込み始める。
また、敵が雷撃をしかけてきた。
「今だ。キャンディケインで弾き返せ!」
「はい!」
ミラベルが、キャンディケインの傘を開く。
傘が魔法を反射し、精霊にダメージを与えた。
今のが致命傷になったのか、精霊が点滅して消滅する。
二つ目のスイッチを押して、カメのところに戻った。
扉を塞いでいた巨大カメが、いなくなっている。
今度こそ、ボス部屋が開いたようだ。
洞窟の奥は、遺跡になっていた。
ここに、海賊どもを操っているやつが。
入口を守っていたカメが、遺跡の中央に座り込んでいる。
あれが、ボス格に違いない。
だが、カメの甲羅に乗っているヤツのほうが気になる。
「へーえ。こっちに来るヤツなんて、いたんだぁ」
そこにいたのは、ミラベルと同じくらいの少女だった。
漆黒のレオタード姿で、メスガキっぽい。
コウモリの翼が背中にあり、悪魔のシッポが生えている。
いかにも、「魔族」っていでたちだ。
「珍しいね。これもピーディの差し金のようね」
ピーディ!
久しく聞いていなかった名前だったが。
ピーディとは、オレをこのゲームの世界に連れてきてくれた、ゲームマスター代理だ。
「となると、あんた転移者なのね? どおりで、強いわけよね。こんな弱い女の子を、このエクストラダンジョンまで導けるんだもの」
「お前は、何者だ?」
ピーディを知っているようだが。
「あたしは、イクス。イクスコム・アバドン」
アバードンっていえば、このゲームのラスボスの名前じゃないか。
「そっちのおじさんは、察知がついたようね。そうよ。あたしは魔王の別個体よ。娘って言えばいいかしら?」
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