第30話 最終話 ずっとそばに

 ガマンの時間は、終わりだ。

 こっちから、仕掛ける。


「ミラベル、相手の動きを封じつつ、突進。できるか?」


「やってみるよ、ベップおじさん!」


 オレと一体化したミラベルは、スイスイと敵の攻撃をすり抜けていく。


「ちょこまかと!」


 イクスコムが、大蛇のような形をした魔力のムチを振るう。


 オレはミラベルを誘導し、ギリギリのところでかわす。

 何度も受け切っているから、動きはわかっている。

 連発されても、オレたちには当たらない。


「光の剣よ!」


 ミラベルがキャンディケインで、突きの構えを取った。


「イクスコムの後ろにいる、魔物をやっつけて!」


 ミラベルが、攻撃を放つ。


 しかし、キャンディケインはイクスコムを狙わない。


 後ろにある、ヒュドラの形をした魔力の塊に突き刺さった。


「なにをするのっ!? ぐうううああああああ!」


 胸を抑えながら、イクスコムが苦しみだす。


「なにをした? イクスコムは、コイツじゃないのか?」


 オレは、ゴスロリ衣装を着た少女を指で指し示す。


 だが、ミラベルは黙って首を振った。


 しゅわわわぁ、と、イクスコムの身体が霧になっていく。


「あれは、本体じゃない?」

 

 ミラベルは、イクスコムの本体がわかっていたんだな?


 戦いが終わったのか、オレはミラベルと分裂した。


「おお。元に戻った」


「ビックリだよ。でも、ベップおじさんと一緒だったから、安心して戦えたよ」


 改めて、ミラベルがオレの手を取る。 

 

「こっちだよ。ついてきて」


 オレはミラベルに導かれるままに、イクスコムの城の中を歩く。


 寝室らしき場所に、オレたちは辿り着いた。

 

「本物のイクスコムは、この中にいるよ」


 ミラベルは、扉を開ける。


 そこには、アンティーク調のベッドに横たわる、イクスコムそっくりの女の子が。


「よく、ここがわかったわね。驚いたわ」


「だって影が、こっちの部屋まで伸びていたんだもん」

 

 ミラベルが種明かしをすると、イクスコムは「ふん」と鼻を鳴らした。


「具合が悪いの?」


「いいえ。すこぶる元気よ。ただ、外に出回れるほどの体力がないだけ」


 なので、依代を作って魔王の手伝いをしていたという。


「魔王アバドンは、さっき勇者に倒されたわ。おめでとう。これで世界は平和よ」


「うん。じゃあね」


「え、ちょっと待ちなさいよ。トドメをささないの?」


 イクスコムが、半身を起こした。

 

「どうして? 世界は平和になったじゃん。だったら、わたしがイクスコムと戦う理由なんてない」


「ワタシが魔王の座を引き継ぐとか、考えないの?」

 

「だったらさ、とっくに魔王になってるじゃん」


 立ち上がろうとしたイクスコムが、ガックリとうなだれる。


「それも、そうね。ワタシには偉大なる父ほどの腕力もカリスマも、持ち合わせていないもの」


「悪い魔王になることは、ちっとも偉大じゃないよ。イクスコムは、自分がなりたい魔王になればいいんじゃない?」


「ワタシを見逃せば、悪い魔王になるかもしれないのよ? それでも、見逃すの?」


「イクスコムは、そんな魔王になんかならない」


 オレはミラベルに頼まれて、世界樹の実を作る。

 

「どうぞ」


「いいの? もらっても」


「おいしいんだから」


 ミラベルは、世界樹の実をイクスコムに差し出す。

 

 呆然としながら、イクスコムは実を手に取った。


「あ、ありがとう」


 満足気に、ミラベルは立ち去る。


 オレも、ミラベルについていった。


 暗かった空が、晴れ渡っていく。


 


【完全攻略 達成】



 おめでとうございます。

 本作の完全攻略を、達成できました。

 これで、世界は本当に平和になります。

 魔王の脅威も、去りました。



 クエストログからも、祝福される。


 だが、最後の一文が気になった。


 



 これで目標は達成されました。

 あなたは、元の居場所に帰ることができます。

 帰るときは、いつでもピーディーを呼んでください。

 



 そうか、目標が達成されたもんな。

 オレは、帰らないと。


「どうしたの、おじさん? 空なんか眺めちゃって」

 

「なあ、ミラベル。お別れの時が来た」


「え!?」


 ミラベルが、驚きの声を上げた。


「実はオレは、こっちの世界の住人じゃない。だからコトが済んだら、元の世界に変える必要があったんだ」


「そこって、どんなところ?」


「遠い。すごく遠いところだ。一度別れたら、一生会えない」


「イヤだよ! ベップおじさんと別れるなんて!」


 ミラベルから、強く引き止められた。

 

 

「わたし、ベップおじさんと結婚する!」


 最推しからの、逆プロポーズとか。最高かよ! 


 でも、受けていいものだろうか。


 なんらかのバグが、発生してしまうんじゃ。


 オレは、どんな被害を受けてもいい。


 しかし、ミラベルに危害が加わるのなら、オレはこの場に留まるべきではないだろう。


「ピーディ!」


 オレは、ピーディを呼んだ。



「どうしたの、帰る決心はついた?」


「ああ」


 別れは名残惜しいが、仕方ない。


 バグの可能性がある以上、オレはこの地にいられないんだ。



 オーロラのような光に包まれ、オレの身体が天へと昇っていく。


「ミラベル、さようなら」


「待って! おじさん!」


 ミラベルが、オレに手を差し伸べた。

 

 だが、光の壁に阻まれる。


 さらば、ミラベルよ。

 次は、続編で会おう。








「はあああ」


 元のアパートに戻ってきた。


 うん。身体も元通りである。


「惜しいことをしたなあ」


 推しからのプロポーズを、断るなんて。


 オレは、頭を抱える。


 もうあんなモテ期は、一生来ないんだろうな。


 いいんだ。

 ゲームの中でなら、オレはモテモテだから。


 ミラベルにだって、ゲームの中でならいつでも会える。


 ピンポーンと、チャイムが鳴る。


 出前か、勧誘か?


「はい」


 インターホンの画面を見る。


『おじさん、ここだって聞いたんだけど?』

 

「ミラベル!」

 

 なにが、起きているんだ?

 どうして、ミラベルが現実世界に!?


『ベップおじさん、会いに来たよ』


「待て待て! どうやってきたんだ?」


『なんか妖精さんが眼の前に現れて、お願い事をひとつだけ叶えてあげるって』


 オレに会いたいと、ミラベルは願ったという。


「だけど、見知らぬ土地で大変なことになるぞ!」


『おじさん、なにを言ってるの? おじさんのおうちって、ウチの隣じゃん』


 なんだと?


 オレは、外へ飛び出す。


 玄関を開けると、見知った街が目の前に拡がっていた。


 ゲーム画面で見た、「始まりの街」が。


 さらに視線を下ろすと、たしかにミラベルがいる。


 オレは自分の家を再確認した。



 アパートだったはずが、部屋の中だけが変わっていて、外観はゲーム内でのオレの家になっている。


「ピーディ!」


 オレは、ピーディを呼んだ。


「なに、ベップ?」


「どういうことなんだ? 元の世界に戻ってきたんじゃないのか?」


 どうして、自分の家が、ゲームの世界に?


「なにを言っているの? あなたが自分で勘違いしたんでしょうが。あたしは元の居場所に帰れるとはいったけど、地球に帰れるなんて、一言も言っていないわよ?」


……たしかに。


 ログを見返しても、ピーディの言葉と同じことが書かれていた。

 

「じゃあ、オレはここにいていいんだな? ゲームの世界に」


「そうよ」


 だから、部屋ごと呼び戻したという。


「ミラベルにも、お願いされたことだし」


「ミラベルが?」


「あんたに、もう一度会いたかったんですって」


 オレは勘違いで、勝手に自分の世界に帰ってしまった。


 だが、ミラベルが「オレを呼び戻してほしい」と、ピーディにお願いしたらしい。


 オレがいなくなって悲しんでいたミラベルを、ピーディは不憫に思い、願いを聞き届けたという。


 そこまでミラベルは、オレのことを思ってくれていたのか。


「ミラベル……オレも、会いたかった」


「おじさん、今日からおじさんのおうちに住むから、よろしくね」


 オレは、ミラベルを抱きしめた。



(おしまい)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゲームの世界に転移して、攻略不可だった最推し「勇者の妹」と旅に出る! 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画