第18話 決戦のとき

 いよいよ、オロチとの決戦を迎える。

 

 いくら「一日でゲーム内時間の一ヶ月を費やす」と言っても、しょせんは一週間だ。

 マジで、あっという間である。


 しかし、やれるだけのことはやった。


 スキルの見直しと調節は、完了している。

 プレイヤー自体の腕も、磨いたつもりだ。


 残念ながら、まだオレとミラベルは、スキルの合成はできない。

 キョーコ固有の、特性のようだ。


 これでうまくいかなかったら、オレのせいだな。



「ベップおじさん、勝てるかな?」


 ミラベルは制服から、勇者モードになっている。

 制服に付与された「魔法攻撃力 一〇分の一」なんていうハンデを背負っては、まともに戦えない。


 キョーコも、制服を巫女服に変えている。

 あれが本来の正装か。


「参りましょう」


 キョーコは、鬼火を周辺に数個、浮かび上がらせた。


 なんだ、あの鬼火のデカさは。

 まともに育て上げたら、あんな力を発揮するのか。 


 オレにできることは、圧倒的に少ない。


 ミラベルたちのがんばりに、結局は賭けるしかなかった。


 このコンテンツは、そういうルールなのだ。


 オレはまともに、手出しはできない仕組み。


 ヒロインたちを育成して、見守る。


 主人公はオレだが、あくまでも主役はヒロインたち。


 本当に、学園モノの教師になった気分だぜ。

 こんなに、もどかしいものだとは。


 学園近くの山から、オロチが起き上がってきた。


 とりあえず、学校の生徒たちには「とにかく逃げろ」と教えてある。

 市民の安全を守ることも、学徒の役割だと。

 敵を倒すことより、逃げる・人を逃がすことを優先しろと、叩き込んだ。


 見たところ、彼らは優秀ではある。しかし、いざというときには参戦しないんだろうなと考えたのだ。


 結論から言うと、オレの予想は大当たり。


 他の生徒たちは、見事に戦力外となっている。

 彼らの力は、三ヶ月時点で頭打ちになったのだ。

 ポンコツなキョーコを見捨てて他の生徒を育てたとしても、彼らは一切成長しない。応用もできないようだった。


 ミラベルとキョーコだけを見ていれば、よかったのである。

 

 想像通りだ。ここはゲームだな、と思う。



 学園すら丸呑みにしそうなくらい、オロチはでかい。

 オレが思っていたのと、同じような姿をしていた。

 オロチは、頭が七本もある。正確には、七本しかない。


 イメージとしては、頭がもう一本あるように思えたが。

 

「懲りずによく来たわね」


 また、イクスとかいう魔王の分身体が現れた。

 やはりオロチの復活は、イクスが絡んでいたか。


「頭の一つを誰かさんが抑え込んだせいで、まともに力を発揮できないの。けど、まあいいわ」

 

 イクスは、あのじいさんのことを言っているのか。


 おっ。クエストログが。こんなときに、なんだよ?




 

【条件達成】


 理事長を助けたことにより、オロチの弱体化に成功しました。


 また、キョーコを育成したことにより、オロチはさらに弱まります。

 



 

 あのじいさんを手伝ってやらなかったら、イベントが失敗に終わるのだろう。

 完全体のオロチと、戦う羽目になっていたってわけだな。

 


 オロチは見た目こそかわいらしいが、元々がコブラのためか毒々しい。



「ベップ・ハスヌマ。あなたはあたしの警告を無視した。手加減はしないから、そのつもりで」


「望むところだぜ」


「オロチ、あとは頼んだわよ」


 イクスが、その場から消える。 


 またオレとミラベルを分断する、ってわけじゃなさそうだ。



 オロチとの戦闘が始まった。


「いきなり、デカいのをぶちかませ。キョーコ!」


「はい。行くです。鬼火!」


 キョーコが鬼火を、コブラの表皮に叩き込む。

 

 しかし、まったくダメージが通らない。


「じゃあ、こっちはどう? ハートビート!」


 今度はミラベルが、ハート型の火球を角笛から撃ち出した。


 ミラベルの最大火力を持ってしても、コブラにダメージは入らない。


 これは、なにか法則があるな。それを考えないと。 


 巨大な首のノドが膨れ上がり、口から毒液の弾が吐き出される。


「いちかばちか! ジャストガード!」


 まずはオレが実験体になって、試す。

 これで受けきれなかったら、終わりだ。

 ミラベルでも、この攻撃は防御できないことになる。


「よし」


 両手持ちの杖で、どうにか攻撃を弾くことができた。

 オレも鍛えてきたってのもあるが、どうにかジャストガードは通るようである。


 コブラの頭が、空いたままになった。吐き出した毒液をまた飲み込む羽目に。


 しかし、ダメージが入った感じでもない。


 これもダメか。

 まあ、自分の毒でダメージが入るとかは、おかしいもんな。

 

 複数の頭が、連続で毒の弾丸を撃ち出す。


「ミラベル! ジャストガードしまくって!」


「はい!」


 オレとミラベルで、ジャストガードをして攻撃を無効化する。


 そのスキに、キョーコが攻撃をできれば。


「キョーコちゃん、お願い!」

 

「はい、ミラベルさん。いくです。鬼火」


 コブラの口に、キョーコが鬼火を打ち込んだ。


 鬼火を飲んだコブラが、苦しみだす。


「よーし! ダメージが入ったぞ!」


 そういうことか。


 ジャストガードをされたら、口が空いたままになる。

 そこへ、決定打を打ち込むわけだ。


 オレとミラベルで、ジャストガード役を引き受ける。

 キョーコには、砲台になってもらおう。


 どうもオロチは、頭が小さい順から体力が少ないようだ。七本が独立した生き物らしい。

 一つずつ、オロチの頭を減らしていく。

 


 一つだけ残して、ようやくオロチの頭をほぼすべて潰せた。


 しかし、オロチが人間形態に変化する。


「第二形態があるのか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る