第19話 キョーコ覚醒

 緑色のウロコを持つオロチから、紫色の体をしたヘビ人間が抜け出てきた。オロチの牙を抜き取って、二対の短剣として装備する。

 オロチの身体が消えて、赤い霧となった。

 霧が、ヘビ人間に取り込まれていく。

 

 まさかボスが、人間形態に変わるとは。

 

「ベップおじさん、オロチが脱皮したよ!」


「身体が小さくなったのに、強くなった感じがするです!」


 キョーコの見立ては、間違いじゃない。


 凶悪な力が、ビンビンに伝わってくる。


「くるぞ!」


 オレは、二人の前に立つ。


 ヘビ人間が、双剣でオレに切りかかった。


「ジャストガー……!?」


 オレは、一本の短剣しか防げない。


 もう一本の剣が、オレの腹に突き刺さる。


「おじさん!?」


 盛大に、オレは後ろへ飛んだ。

 おかげで、ダメージは最小限に抑えられている。

 といっても、毒ダメージで動けない。

 マヒというか、石化? 身体が重くなったような感じがする。


「大丈夫、おじさん!?」


「平気だ! 気を抜くなよ!」


 エリクサー症候群なんて、言っている場合じゃない。

 ミラベルのために溜め込んでおいた回復剤を、自分に使う。


 大事な推しのために、取っておいたのに。

 許せん。



「もういっちょ!」


「わたしも!」


 また、双剣が襲いかかってきた。今度は、ブーメランのように飛ばしてくる。


「不規則だから、ちゃんと相手の動きを読んで!」


「はい! ジャストガード!」


 ミラベルのジャストガードで、短剣がヘビ人間に向かっていく。

 

 うまい。相手に当たるように軌道を変えるとか、オレでもなかなかできない芸当だぜ。


 だが、ヘビ人間も短剣を蹴り飛ばして、ミラベルへと打ち返す。


「敵も【ジャストガード】してくるよ!」


「冷静に対処して!」


 この攻撃は、かわすように指示を出した。

 オレも、受け止めるだけにする。

 

 ジャストガード同士の戦いは、相手のほうが有利だろう。

 武器を操る力が、あるのかもしれない。


「やべえ!」


「キョーコちゃん!」


 ヘビ人間が、まっすぐキョーコへと向かっていく。


 キョーコはなぜか、ヒザをついたまま動かない。


 オレがダメージを受けてから、ずっとだ。

 

 どうしたってんだよ?


「……失せよ」


 ヘビ人間が、ふっとばされた。

 キョーコの放った圧によって。


「どうしたんだ、キョーコは?」


 キョーコの身体が、白いオーラをまとう。


「妖狐の領域に入ったお主は、もう逃げられぬぞ!」


 見たこともない速度で、キョーコが鬼火を連発する。

 その目は、オレたちの知っているキョーコではない。


 ヘビ人間が、短剣を二つとも戻して鬼火を払う。

 だが、さばききれない。剣も、破壊されてしまった。

 

「わが友垣を傷つけた罪、己の身をもって償うがよい」


 青白い炎が、ヘビ人間の真下から吹き出す。


 あれだけ強固だったウロコが、青い炎によって焼け焦げていく。

 モードチェンジをする際、攻撃力に全振りして防御を犠牲にしていたか。どおりで強かったわけだ。


 炎の柱に焼かれて、ヘビは消滅した。




 

【クエスト達成】



 おめでとうございます。ヤマト地区のボスを、討伐しました。

 封印は守られ、今後目覚めたとしても、オロチは世界を支配するほどの力は発揮されません。

 

 



 唐突に、クエストログが出てくる。

 

 イベント終了の条件って、覚醒したキョーコがボスを倒すことだったのか。


「はわ? みなさん、大丈夫なのですか?」


 キョーコが、もとに戻った。


「疲れたときは、おいなりさんを食べるです」

 

 うん。いつものポンコツである。

 よかった。


「あのモードは、いったいなんだ?」


「おじいちゃんからは、あまりあの姿は人に見せないほうがいいと言われたです。使いすぎもよくないのです。戻ってこられなくなるのです」


 そうか。ならば、あまり力を発動しないほうがいいのかもな。




【デートイベントフラグ成立】



 イベントを攻略したことにより、デートを楽しむことができます。

 また、イベント後に特典を得られます。



 *

 


 そうだった。

 キョーコとデートができるんだった。


「みなさん、お時間がありますですか? 花火大会があるです」


 オロチを倒し、神社に平和が戻ったことにより、お祭りを行うらしい。

 

 なんと、浴衣を貸してもらえるそうだ。

 

 ミラベルの浴衣、見ないわけには行かぬ!

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