第20話 勇者の妹と浴衣

 お祭りの日を迎えた。

 神社の隣にある民家で、ミラベルが着付けをしてもらっている。

 ここは、キョーコの実家だ。

 

「えへぇ。ベップおじさん、似合うかな?」


 ミラベルが、浴衣姿でオレの前に立つ。

 朝顔と金魚が、ブルーの浴衣に映えている。

 いいな。金魚柄! あまり女子の浴衣なんて注目していなかったのだが、推しの浴衣となると気になってしまう。


 しかも、ミニ浴衣! 

 膝丈とはいえ、ミニの浴衣はミラベルの健康的な足を映えさせる。


 ミラベルは、オレを殺す気なのか?

 オレには、目の毒だぜ。 


「ワタシのお古ですが、似合っててよかったです」

 

 キョーコも、浴衣姿で出てきた。こちらは、花火柄である。こっちもいいな。夜に、赤い花火が浮かんでいる。


「お祭りはもう、始まっているです。行くです」


 キョーコに連れられて、神社の中へ。

 こういうとき、神社が家ってのは便利だ。住んでいる人からしたら、プライベートもへったくれもないんだろうが。

 


「おお、たい焼きだ」


 アツアツのたい焼きを、みんなで頬張る。


「おいっし」


「はいです。ここのたい焼きは、シッポまでアンコがぎっしりですぅ」


 ミラベルもキョーコも、幸せように食べていた。


 わたがしと、りんごアメを買って、祭りを楽しむ。


 射的やくじ引きをしつつ、たこ焼きとラムネを持って、山のてっぺんへ。


 神社の私有地があって、そこのベンチで花火を独占できるという。


 待ちきれないのか、ミラベルは駆け足で頂上を目指していた。


 森の中で視界の悪い中、オレも後へ続く。


「おおおおお」


 視界がひらけた瞬間、特大の花火が打ち上がった。


「きれい」


 たしかに、美しい。


「すごい。おいしい。わあ花火キレイ。たこ焼きおいしい」


 たこ焼きを食べつつ花火を見ているので、ミラベルの感情がせわしない。 

 しかし、ミラベルはどこかさみしげである。

 大事なものが消えていくような感じが、常に漂っていた。

 不安な気持ちをかき消すかのように、たこ焼きに手を伸ばしているような。

 

「えっと、この力は、お二人に預けよとのことなのです」


 キョーコが、胸に下げていたネックレスをオレに渡す。


 形は、狐面のロケットだ。


「おじさん!」


「うむ」


 狐面が割れて、光となる。


 光が、キツネ耳の女性の姿を取った。

 キョーコをグッとオトナにしたような姿に。


『このたびの働き、見事だった。これで余も、天へ還れるというものだ』


 頭の中に、声が響いてきた。


 声の正体は、キョーコの中に封じられていた土地神だという。


 おそらくキョーコに取り憑いていた存在は、最後の力をもってオロチを封じたんだな。


 頭に入ってきた情報によると、第一形態はジャストガードで攻撃を防ぎ切ってもらい、第二形態では一対一に持ち込んで初めて、オロチを倒せたという。

 偶然とはいえ、奇跡のような偶然が重なったと。


 キョーコをサポートが必要なくなったので、元の仕事に戻るという。


『お主たちに、この力を授けよう』


 二つの光の玉が、キツネ耳女性の手から放たれた。

 

 ホタルほど小さい光の玉は、オレたちの身体の中に吸い込まれていく。


 新しいスキルが、ステータス画面に追加された。

 

 これは……【スキル合成】だ!



 スキルを合体させる力が、とうとうオレたちにも備わったわけか。

 おそらく実装されるだろうと、オレは思っていた。

 まさか、ここで手に入るとは。


『オロチ退治を手伝ってくれて、礼をいう。ささやかだが、我が力を受け取るがよい。キョーコには、もう必要のない力だ』


 最後に連発の花火が打ち上がって、一瞬青空になる。


 同時に、キツネの魂が天へ登っていった。


 ミラベルが見せていた悲しみの正体は、これだったのか。


 キョーコも空を見上げながら、「今までありがとうございますです」と、土地神に手を振った。



 翌日、オレたちは船を乗り継いで北を目指す。


 向かう先は雪山地帯の【シバルキア】である。


 しかし、そこでとんでもないトラブルに巻き込まれるとは、オレは考えてもいなかった。


(第四章 完)

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