第17話 制服で、ジャストガードの練習

「ベップおじさん、どうかな?」


 少し恥ずかしげに、ミラベルが更衣室から出てきた。


「おおおおお」

 

 着替え終わったミラベルを見て、オレは息を呑む。


 ミラベルが着ているのは、魔法科学校の制服である。

 白を基調とした、セーラー服だ。

 スカートの長さが膝丈とか、完璧ではないか。

 ヘタにギャルっぽいミニスカにしないあたり、ミラベルは人のツボを心得ている。


 ミニスカなら、なにも制服である必要はないからな。

 制服に必要なのは、ある程度の理性なのである。

 白セーラーは、ただでさえ着こなしが難しい。

 ヘタに短くすると、イメクラになっちまう。

 

  

 勇者の装備もよかったが、少女といえばやっぱり制服だよな。

 目の保養になる。


 なお、制服は【イリュージョン】効果を受けない。つまり、【勇者装備】には見えない作りになっている。


「おじさん、この制服すごいよ。着ているだけで魔力を制限されるんだよ。魔法の訓練をするために開発されたんだって!」


 たしかに、魔法攻撃力が、一〇分の一まで下がっていた。


「制服を着て、街で暴れないようにするためかもな」


 学生ともなると、イキった生徒も出てくる。

 異世界だろうがゲーム世界だろうが、例外ではないのかもしれない。

 おそらく、そんな生徒たちを制御するために、この制服は存在しているのだ。

 

「まあミラベルはオトナだから。そんなマネなんかしないよな」


「えへへ。そうだよ」


「よし。じゃあふたりとも、特訓だ」


 グラウンドを借りて、実戦を行う。

 内容は、ミラベルとのタイマン形式だ。

 

 やはりというか、キョーコは魔法の使い方においては一流だった。

 しかし、物理攻撃とのコンビネーションともなると、難しい。


 今どきの魔法使いは、物理戦闘も自力でこなす必要がある。


 キョーコには、それが難しいようだった。


「前に出るのは、怖いか?」


 オレが聞くと、キョーコは首をブンブンと横に振る。

 恐れているわけじゃないのか。


「おじいちゃんに習ったせいか、『魔法使いは後方支援』というクセが染み付いているのですぅ」


 杖を持ちながら、キョーコが縮こまる。


 対するミラベルは、【ジャストガード】の練習に明け暮れた。


 キョーコが撃ち出す火球の連続攻撃【鬼火】すら、すべて角笛バトンで打ち返す。

 少し教えただけで、すぐに対処した。


「ジャストガードって、今後も必要になってくるかな?」


「オレはそう考えている。あのタイミングで、ジャストガードからの追撃が必要になる敵が現れたからな」


 今後の敵は、単純なレベリングだけで勝てそうになさそうだ。

 きっと技術的な要素も、必要になってくる。

 だったら、覚えるに越したことはない。

 

 この六日間、厳密には半年分の時間を、有効活用させてもらう。


 さらに、相手は「オロチ」ときている。

 オレの記憶違いでなければ、オロチといえば多頭のモンスターだ。

 複数回攻撃してくるのは、目に見えている。

 だったら、ジャストガードかカウンターは必須のスキルだろう。


 とまあ、ミラベルの育成方針は見えてきた。


 あとは、キョーコなんだが。


 メロならサポートに徹してもらい、相手の力量や弱点の分析役を任せられた。


 だがキョーコは、伝説の英雄の孫だ。

「育成してくれ」ってことは、オロチ戦における大事な戦力なのだろう。

「キョーコの攻撃でしかダメージが通らない」とかは、勘弁してもらいたい。

 といっても、これってフラグなんだろうなぁ。


 なんたって二日経っても、一向に進展がないんだもの。

 狩り場に連れて行ったり、新しいスキルを覚えさせたりしてみたが、どうにもこうにも。


「ぜえ。ぜえ。みなさん、強すぎですわ」


 四つん這いになりながら、キョーコは肩を上下させる。

 

 そもそも半年そこらで、強くなれるわけがない。

 ゲーム世界で言うのはナンセンスだが、これはゲームではないのだ。

 単に敵を倒しまくって、レベルアップというわけには行かないか。


 難しい。どうやって勝つんだよ?


 見た目が九尾のキツネっぽいから、キョーコはもっと強い目のキャラだと思っていたのだが。

天才ではあるが、実戦はからっきしというのは。


「ちょっと待て」


 オレは、キョーコの使う【鬼火】に着目した。


「お前さん、このスキルはどこで覚えたんだ?」


 ファイアボールを複数同時で撃てるスキルを求めて、オレは魔法科学校じゅうを歩き回った。

 しかし、それっぽいスキルは見当たらなかったのである。

 先生にも話を聞いて、図書館なども調べたのに。


 これがあったら、ミラベルにも使わせてやりたかったのだが。

 

「これは、自分で魔法を合体させて、編み出したのですが?」


 マジかよ。天才現る。いや、元々天才だったか。


「そうか。スキルって、合体させることができるのか!」


 その発想はなかった。


 ちなみに、ミラベルの使っている【ハートビート】や【ピンクサンダー】は、ユニークといって、上位のスキルである。


 スキル同士を合体させるなんて、オレの記憶にはなかったな。


 そんなことが、可能だとは。


 しかし、ちゃんと調べてみると、【スキル合体】はキョーコ固有の特技らしい。


 とはいえ、これを活用すれば、活路を開けるかも。


 どうして、これに気づかなかったのか!


「キョーコ。お前がいれば、オロチに勝てるぜ」


「本当ですか?」


「ああ。オレが育成を間違えなければって条件付きだが」


 とにかく、キョーコがカギだ。

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