第16話 特訓イベント

「ありがとうございます。おひとつどうぞ」


 オレたちは、キツネ耳少女のキョーコから、おいなりさんを分けてもらう。


「うまい!」


「ほんとだ。めっちゃおいしい」


 こんな世界でも、いなり寿司を食べられるとは。


「ここのおいなりさんは、大人気なのです。そのため、すぐに売り切れてしまうのです」


 キョーコの印象からして、押しが強いタイプでもなさそうだ。


「学校の購買で食べられなかったら、スーパーで安いおいなりさんでガマンするのです。でも、小さいのです」


 しばらく、昼メシの時間を楽しむ。


「みなさんは、どのようなご用件で、この魔法学校に? 見ない顔ですよね?」


「ああ。オレは、特別講師ってことになっている」


 キョーコ専門の講師として、派遣されている設定だ。


「ミラベルは、見学だな」


 面白いスキルがヤマトの学校にあれば、習得してみるのもいいかもしれない。

 

「あんたは、理事長の孫だって聞いたが?」


「はい。おじいちゃんを知ってるですか?」


 キョーコが、温かいお茶で一息ついた。


 オレたちにも、お茶を振る舞う。

 

「理事長は、あんたを見守ってくれと」


「そうですか。おじいちゃんがいちばん大変なのに。ひょっとして、ここから少し離れた島で、会ったのでは?」


「よく知ってるな」


「実はそこは、オロチの頭が封印されている場所なのです。頭さえどうにかすれば、オロチはしばらくおとなしくなるので」


 オロチの頭を抑え込むため、理事長は傷ついた身体をおして封印を施しているという。


 どうも、オレたちが運んでいた物資は、封印用の道具だったようだ。


 そこまで、仕込まなければならないとは。


「おじいちゃんのおかげで、当分は封印が破られる心配はありません」


 再封印となると、また一度結界を解かなければならないらしいが。


「理事長からは、あんたを鍛えてくれとも言われたぞ。大丈夫そうか?」


「腕のたつ、魔法使いさんたちなのですね。ありがとうございます。こんな私のために」


「いやいや。オレたちこそ役に立つかどうか」


「ご謙遜を。おじいちゃんの、祖父の目は確かです。お二人に指導いただければ、私も強くなるかもしれません」


「そうか。といっても、あんまり期待しないでくれよな」


「はい。よろしくおねがいしますです」



おっ、クエストログが開いたぞ。



 


【クエスト:魔法学校で高い成績を】


 キョーコの成績を上げてください。

 目指すは平均点「八〇」点超え!


 ルール:

 

 座学と実技、両方の平均点を八〇点超えれば、オロチと戦う権利を与えられる。



 魔法学校は、「一日」で「一ヶ月分」の授業を受けたことになる。


 六日、つまり半年の間に、ノルマをクリアすること。

 


 補足:

 

 もし、キョーコがイベントをクリアできなくても、一応オロチ討伐はクリアになる。


 その際は、魔法学校の六割の生徒が犠牲になる。

 

 また、負傷者の中にはミラベルも加わることになる。

 オロチとの戦闘によって、永続的に右腕を失うことになり、今後のイベント攻略が困難になる。



 

……これは、まずいな。



「キョーコは、座学の方は何点くらいなんだ?」


「九〇点です。授業も試験も、免除されていますよ。なので、実技の方にすべて出席していいことになっています」


 バチバチ優等生じゃん。


 ならば、座学に関しては気にしなくていいと。


 というか、実技のほうがヤバイんだな。


「実技の方は、どんな感じなの?」


 ミラベルが問いかけると、キョーコは「三〇点です」と告げた。


 これは、ヤバイぞ。

 

「ちなみに、ミラベルのことは測定できるか?」


「できます。座学は八一点、実技は九五点ですね」


 つまりミラベルは、とうにオロチ討伐メンバーというわけか。


 オレはキョーコだけに、指導すればいい、と。

 

 ところで、と、オレはキョーコに尋ねる。


「制服は、余っているか?」


「購買に聞いています。今なら、空いていると思うので」


 みんなで、購買に向かう。


 嵐の後のように、購買の棚はすっからかんになっていた。


「あの、すいません。あまりの制服ってありますか?」


「あんなもん、着たいのかい? 物好きだねえ。まあ、余りもんでよければ着ていきな」


 制服を貸してもらう。


 ただ、特殊な細工が施されているらしい。敷地内どころか外で悪さをすると、学校にその連絡がいきわたるという。

 いたずら目的で着るのを防止する、仕掛けらしい。


 民間人が着用しても、いいわけだ。そんな縛りがあるから、自由に着てもかまわないわけか。

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