第7話 第二のクエストログ出現

 ムーアクロフトの城に、お邪魔をする。


 廊下の肖像画には、たしかに第一王女の姿が。

 姉妹仲良く、肩を寄せ合っている。

 ドット絵だと、わかんなかったんだよな。妹の方は。

 ちゃんとビジュアルで見ると、かなり小さい子だとわかった。



「すまないが、姫様っていくつくらいなんだ?」


「もうすぐ、一一歳になりますじゃ」


 執事さんに質問したら、そう返答が。


 そりゃあ、攻略対象にはならんよな。

 ミラベルと比べても、かなり幼い。


 とはいえ、しっかりしてるよなあ。

 果樹園の管理もしつつ、戦闘もこなす。


「エラいね」


「サクラ姫はきっと、いいお妃様になるぜ。でも、ミラベルは天使だからな」


「もう、ベップおじさんったら」

 


 王の間に、到着する。

  

 先に姫が、王の間に入った。話を通してくるという。


「いいわよ」


 姫が扉から顔を出して、老執事が扉を開いてくれた。


 オレたちは、王様の前にひざまづく。


 第一王女の方は、いないんだな。

 勇者と会っているのか?


「話はさきほど、サクラーティから聞いた。娘を助けてくれて、礼を言う」


 まずまずの好印象をたまわった、といったところか。


「ただ、娘の護衛の件は、待ってもらえないか?」


 だよなあ。

 どこの馬の骨かわからん輩に、娘を任せられん。

 オレが王様でも、同じリアクションをするぜ。


「お父様、この方たちは強いわ。勇者に並ぶ実力を秘めている、可能性を感じるの」

 

「ふむ。してその方たち、たしか、勇者と同郷だそうだな?」


 王様に質問されて、ミラベルはうなずいた。


「はい。勇者はわたしの兄です」


 おお、と王の間じゅうがザワつく。


 これ、言ってよかったのか?

 とはいっても、信頼してもらうなら身の上を明かしたほうがいいよな。


 オレも、勇者の友人であると告げる。


 また、場内がどよめいた。


「それは頼もしい。娘の護衛を、頼めるだろうか?」

 

「いいんですか? 勇者の身内というだけで、決して勇者というわけではありませんよ」


「余は娘サクラーティの言葉を、信じることにした。お主たちは、娘が王族だから助けたわけではないと」

 

「そりゃあまあ、たしかに」


 オレに続いて、ミラベルも「おじさんは、困った人を見過ごす人ではない」と伝えてくれた。

 

「わかった。お主たちの人柄を信頼し、娘を任せることにした。よろしく頼む」


 正式な討伐依頼書が、オレの手に。

 

「は、はい……お?」


 手紙を開くと、なにやらクエストログが目の前に。

 ミラベルとの出会いのときと、同じである。




 

【クエスト:姫の護衛】


 サクラ姫と一緒に、魔物の配下をやっつけよう!


 見事倒したら、またごほうびのアイテムゲット!


 成功条件:野盗の討伐完了

 失敗条件:姫の死亡


 再重要案件:野盗団のバックにいる魔王の配下「アラクネ」の討伐


 


……だそうだ。


 なるほど。

 なにかイベントが起きたら、こういう形でログが出現するってわけね。

 

 どうやらイベント進行度が上がる、当たりの選択をしたらしい。

 


「こちらへ」


 王に呼び出されて、オレは王様の近くまで歩み寄る。

 まだ、なにかあるんだろうか?

 特にこれといって、オレに用事なんてなさそうだけど。


「してお主。余とどこかで、会ったことはなかろうか?」


 王が、オレのそばに耳打ちをしてきた。

 ん? バレてる?

 オレが元勇者だとわかって、王様は話をしていたってのか?


「人違いでしょう」


 さりげなく、ごまかす。

 

「まあよい。お主たちなら、娘の暴走を止められよう」


 ああ、そういうことね。


「は、はい。心得ました」


 不審がったサクラ姫が、「なんですの?」と父王を問い詰める。


「なんでもない。下がってよいぞ」


 オレは、退出を許可された。


「待って。お父様。この方たちに、お礼がしたいの。あの宝石をどうしようかな、って」


「おお。西の山で採掘されたという、あの魔法石か」

 

 なんでも、遠方の貴族が献上してくれたという。


「ゼイビアック。宝石をこちらに」


「はっ」


 老執事が奥に一旦引っ込んだ。厳かに宝石を持って、こちらに戻ってくる。


「ガッツリ大きいな」


 ピンポン玉くらいの大きい宝石が、赤いクッションの上に置かれていた。

 緑色に、暖かい光を放つ。

 魔法石と言うから、指輪サイズかなと思ったが。


「こんなデカい宝石、よく見つけましたね」


「はるか西方にて、長雨で不作にあえいでいた土地があってな。食料の援助をしたのだ」


 この魔法石は礼として、領主が献上してくれたそうだ。


「山でドワーフが採掘し、ノームが丹念に磨いたものだという」


 魔法石には数種類あり、これはそのうちの一つらしい。 


「拝見いたします」

  

 緑色に光る魔法石を、見せてもらった。


「たしかに、魔力増幅効果は高いようだな」

 

 だが、サクラ姫は魔法を活用するタイプの戦闘スタイルではない。

 よって、宝の持ち腐れとなっていた。


「サクラ姫。勇者には、これら宝石をあげなかったのか?」

 

「勇者には、お姉様が選ばせていたわ。勇者は、物理攻撃力の上がる方を持っていたわね」


 あちらには、もう提供済みってわけか。


「お姉様ってのは?」


「遠方に用事があって、そこにしばらく滞在するそうよ。勇者に、護衛をしてもらっているわね」


 ああ、社交界イベントか。


 そのタイミングで、オレは来たんだな。

 

「お姉様ばかり、ズルいわ。あたしも早く、オトナのレディになりたいわね」


「これ、サクラ。独断専行はダメだと、いつも言っておるだろうに」


 父王が、娘をたしなめる。


「けどお父様。あたしだって、戦えるわよ」


「それでも、民が心配してしまう。余も、心臓がいくつあっても足らん」



「仕方ないわね。では、護衛をよろしくお願いするわ」


 今度こそ、下がっていいらしい。


「お二方、客間が空いておりますが、いかがいたしましょう?」


 老執事のお誘いを受けた。


 かなり丁寧に、招き入れてくれている。


「どうする?」


 オレはミラベルに、意見をうかがう。

 

「サクラ姫とはお友だちだけど、遠慮しておくね」


 王族で寝泊まりはありがたいが、宿屋も満喫したいという。


「そうですか。では、せめてお夕食をご一緒できればと」


「ありがとう! おじいさん」


 そういえば、果樹園に行ってから、もう結構な時間が経っている。


 さっきもらった魔法石の説明も受けたい。

 

 まず先に、オレたちは宿を手配する。  


 その後、再び王宮へ。


 王様たち家族と談笑し、晩飯もおいしくいただいた。

 料理の説明を受けたが、高そうという感想しかない。


 最初のプレイとは、随分と違う。

 姫と二人きりで月を眺めるとか、社交界でダンスをするといったイベントはない。

 まあ、サクラ姫は攻略対象ではないからな。


 その後、客間へ通してもらう。


「武器に、その魔法石をセットしてみなさい」

 

 魔法石を、バトルハンマーにはめ込んだ。


「すごい。武器が強くなった気がするよ」


 属性魔法の浸透率も、かなりアップしていた。

 硬いボスにも、攻撃が通りそうだな。


「討伐は、数日後よ。宿まで、迎えを出すわ」


「ありがとう、サクラ姫」


「フフ。おやすみなさい」


 サクラ姫と別れて、宿に戻る。


 さて、今後はレベル上げをしてこいってワケだよな。

   

「蜘蛛型のボスとも、戦うからな」


 虫系がボスと聞いて、ミラベルがちょっと怖気をのぞかせる。

 

「うん。がんばるよ」


「ただし、ボスはクモだぞ。いけるか?」


「う、うん。がんばってみるね」


「その意気だ」


 それから数日間、オレはミラベルのレベル上げと、強化した武器のチェックを行う。


 サクラ姫のくれたアイテムは、ミラベルの力の底上げに役立った。

 防御力まで上げてくれているため、前のめりな戦いも可能に。


 ムリはさせないつもりだが、シビアな戦闘にも耐えられそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る