第三章 船旅と人魚と水着回

第9話 水着の天使  

 オレたちは、海の都ナコンベルルにたどり着く。


「潮の香りが、気持ちいいね。ベップおじさん」


「だな。ミラベル。ここで、装備の見直しもしておこう」


 これまでの道中で、結構な資金が貯まっている。

 サクラーティ姫を助けたことで、報酬も得ていた。いらないといったのだが、「旅の路銀が必要だろう」と持たされたのである。

 

「海は、はじめてなんだ。こんなに、大きいんだね」


 初めて海を見たというミラベルは、実に楽しそうだ。


 オレはリーマンともなると、海へ行く機会も減る。

 当時は目的もなく、海ではしゃぐ気にもならなかった。

 謝恩会でのバーベキューも、断っていたくらいだし。


 でも、こんな天使と一緒に海を満喫できるなら、毎日でも海に通いたい!


「服装も、夏っぽいスタイルにしようよ。おじさん!」


「おお、それは楽しそうだな」


 ちょうどいいショップを見つけたので、着替えることに。


 ミラベルは、白いショートパンツに変えた。

 上も、長袖から半袖に着替えている。

 

 生地が減ったことで、防御力は少々落ちた。だが、敏捷性が上がっている。

 そんな仕様に、なっているんだな。

 ちゃんと、考えられている。


「他にも便利そうなアイテムがないか、見ていこうよ」


「そうだな。じっくり見ることで、新しい発見があるかもしれんし」


 ミラベルと一緒に、他のショップを見て回った。

 港町だけあって、サンゴや貝殻のアクセサリが並ぶ。

 逆に、金属類の装備品はあまり見かけない。潮で、サビつくためだろうか。


 あるショップに、ミラベルが立ち止まる。


「おじさん。水着が置いてあるよ!」


 水着のサンプルが、店頭のショーウィンドウに飾られていた。

 どうやら、水着を仕立ててくれるようだが。

 

 いいなあ。泳ぐ展開があるってわけか。


「ウチの街にも川があるから、一応水着はあるんだよね」


「それはいいな」


「でも、シンプルなワンピースしかなくてさ。こんなオシャレなのはないんだよね」


 ミラベルが唯一持っている水着は、紺色のワンピースだという。


「最高じゃないか」


 つい本音を漏らす。


 だって、この容姿でスク水とか、完璧すぎる。

 適度に細く、適度に凹凸のある少女が着るスク水ほど、尊いものはない。

 家宝にすべきなくらいだ。

 

 とまあオレが妄想にふけっている間に、ミラベルはとっとと水着を買いに店へ入ってしまった。


 おっとイカン。オレも続いて店にインする。


「どうかな?」


 さっそくミラベルは、サンプルを着せてもらっていた。

 

 店にあるのはあくまでも試供品で、売り物ではない。寸法を測って、仕立てるという。


 ミラベルが着ている水着は、水玉のビキニだ。

 フリルがついていて、少女らしさを際立たせている。

 セクシー路線ではないため、布面積が案外広いのもいい。


 鑑定してみると、水着でも装備品として扱えるようだ。

 防御力も高い。


 店員にその旨を聞いてみる。


 これら水着は、いわゆる【ビキニアーマー】として扱えるらしい。

 露出が多いのに、高い敏捷性のおかげで海での戦闘も楽になるという。

 

 スリングショットとか着たら、マッハで着替え直させようと思っていたが。


 ミラベルはちゃんと、女の子の感性を持っているようだ。


 オレとしても安心である。


「いいな。それでいいんじゃないか?」


「このタンキニと、悩んでるんだよねぇ」


 ミラベルは、もう一枚の水着に着替える。


 こちらは青白ストライプのタンキニだ。

 後ろから見るとビキニに見える、セパレート水着である。

 こちらも、露出は控えめな方だ。

 とはいえ……。


「さっきの水玉の上に、ラッシュガードタイプの救命胴衣を着たほうが、かわいいかと」

 

「ラッシュガード! その手があったね」


 水着といっても、そのまま海に入れるわけじゃない。

 船にも乗るんだから、いずれ救命胴衣を買わないとイカン。

 ならば、ラッシュガードタイプで代用すればいい。


 ミラベルは、水玉ビキニとライフジャケット、U字型に担げるタイプの浮き輪を購入した。


 オレは短パンと、同様に黒地のライフジャケットを。


 その後はショッピングを再開。

 ミラベルは、青色のネックレスを手に入れた。


 武器も見に行く。

 海で効果的な武器といえば、やっぱり槍なんだろうけど、そんないかにも「武装!」って感じの武器は、ミラベルには似合わないんだよなあ。敵もかわいらしいから、あんまりゴツゴツした装備にはしたくない。

 

 もっと、女の子っぽいアイテムは……おや?


「これは、【キャンディケイン】か」


 一本のステッキに、オレは注目した。

 普通の杖に見えるが、傘の部分が殴打武器にもなるのか。

 なかなか、魔法少女っぽくていいじゃないか。

 

 オレはミラベルに、パラソル型のステッキをプレゼントした。


「これは開くと、魔法防御も可能になるんだ」


 傘をバサッと開くと、赤と白のコントラストが夏っぽい。

 

 パラソルの持ち手に、サクラ姫からもらった宝石もプラスする。


「ありがとうおじさん! かわいい!」


 


 

 後日、水着に着替えて、オレたちは海沿いを歩く。


 ああ、ミラベルがかわいい。新しく買った水着が、よく似合っている。


「さて、海型のモンスターを狩りに行こう」


「オッケー!」


 海沿いに巣食う魔物たちを、討伐に向かった。

 本格的に海の向こうへ行くなら、海に棲むモンスターの特徴を知る必要がある。

 オレもだいたい把握しているが、ファンシーな世界観に変わっているため、仕様変更もあるかもしれない。

 どんな変化があるか、知っておかないと。


 依頼は、【エナジーパール】を一〇個、回収することだ。

 エナジーパールとは魔石の一種で、水棲モンスターしか落とさない。



 さっそく、モンスターとエンカウントした。

 ビーチボールほど大きいフグが、地面に浮いている。

 

「魚が宙に浮いてる!」

 

「あれは、【岩石魚】だってよ」


 

 岩石魚が、口から岩を吐く。


 それを、ミラベルはケインを開いて防御した。


 複数の岩石魚に囲まれているが、ミラベルは敵の攻撃を見逃さない。

 逆に、ファイアボールを打ち込んで岩石魚の群れを撃退した。

 

 あんな戦い方、教えていないのに。

 成長目まぐるしいな、ミラベルは。


「これが、エナジーパール?」


 普通より小さいサイズの真珠を、ミラベルは拾った。

 真珠といっても、貴金属としての価値はない。

 ただ、魔法石としては使い道があるのだ。

 

 

「カニもいる!」


 エンカウントしたカニは、サーフボードくらい大きい。右手のハサミが、胴体と同様の大きさを誇る。

 

「あっちは、【パンチクラブ】だな」


 発達した右腕で殴ってくる、カニだそうだ。


「さっそく、いってみるか」


「うん!」


 パンチクラブの殴打攻撃を、ミラベルがキャンディケインを開いて防ぐ。

 さっそく、使いこなしているな。


「それ!」


 キャンディケインを器用に振って、パンチクラブを転倒させた。

 そのまま杖で、魔物をコツンと殴る。


 パンチクラブは、昇天した。


 この戦法も、教えていない。


 この子は、どこまで強くなるんだ?

 一応、ミラベルを守るためにオレはいるんだが。

 もう、教えることはなさそう。

 

 

「ベップおじさん! あっちに人が倒れてる!」


 傘をしまって、ミラベルが駆け出す。


 何事だ?


 海岸沿いを走っていると、たしかに人が岩場にしがみついていた。

 倒れているのは、女の子である。

 青い髪の少女が、モンスターに囲まれていた。

 これは一大事である。

 訓練としてミラベルに戦ってもらう、余裕なんてない。


「【アイスジャベリン・スプラッシュ】!」


 氷魔法の広範囲攻撃で、魔物たちを撃退した。

 

「大丈夫? しっかり」


 ミラベルが、少女を抱き起こす。


「ベップおじさん。これ」


 少女の足を、ミラベルが視線で指し示した。


 岩場にもたれていた少女は、人魚だったのである。

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