第19話

【梅田の家電量販店でトレーディングカードを偽造か 中国人を逮捕 朝売新報】

 令和6年1月27日、梅田のイシバシカメラにおいて人気トレーディングカード『バケっとモンスター』のレアカードを偽造したとして、中国国籍の男が逮捕された。

 中国国籍の男は『バケっとモンスター』の最高レアカード「ディアルキアス」を偽造、販売していた。

 現在、『バケっとモンスター』のトレーディングカードは高値で取引されており、最高レアカードに100万円以上の価値が付くこともある。「ディアルキアス」のレアカードは75万円で取引される事があり、男は偽造カードを1000円で客に売りつけていたという。

 トレーディングカードの購入に関するトラブルは後を絶たず、消費者庁にも複数件の相談が寄せられている。今回の偽造事件を受けて、警視庁と消費者庁では「対策を強化したい」というコメントを寄せている。

 *

 ――これだ。具体的な名前は書いていないが、玖院が蒐集していた資料にある犯罪組織と事件が一致している。

 オレは、このトレーディングカード偽造事件を元に玖院が持ってきた資料と事件の時系列を照らし合わせる。

 令和5年9月頃:四条河原町で高級時計店襲撃事件が発生。

 令和5年11月頃:難波で違法薬物密売事件が発生。

 令和6年1月頃:梅田でトレーディングカード偽造事件が発生。

 令和6年2月頃:神戸で女性の刺傷事件が発生。

 令和6年4月~:大阪市内から京都市内にかけて連続殺人事件が発生。

 ――資料によると、高級時計店襲撃事件と違法薬物密売事件、そしてトレーディングカード偽造事件は解決しているらしいが、刺傷事件と件の連続殺人事件に関しては未解決である。ただ、一連の事件に「爆龍」が絡んでいるのは確実に言えるだろう。オレはそう思った。

 後はどうやって「爆龍」を捕まえるかだが――どうすればいいんだ? オレが考える手立ては「虱潰しに阪急京都線に警官を配備すること」だが、現実的に考えてそれはあり得ない。だとすれば、矢張り――組織の壊滅だろうか?

 色々考えた末に、オレは「爆龍の壊滅」を考えた。どうせこんなことを考えても無駄だと思うが、やるだけやってみるしかないか。

 こう見えて、オレは武術に長けている。空手と柔道、そして剣道を習っていたのだ。中でも空手に関しては師範から「免許皆伝」の称号をもらっている。

 そうと決めたからには、オレは「爆龍」のアジトについて調べることにした。

 アジトを調べた結果、どうやら京都市内――それも、四条河原町にヤツらのアジトがあるらしい。

 四条河原町というのは、普通に考えると「京都一の繁華街」である。しかし、裏を返せば「京都市内で一番治安が悪い場所」でもあるのだ。なんというか、欲望にまみれていて、それでもって悪意に満ちている。――要するに、吹き溜まりのような場所なのだ。

 *

 夜の四条河原町は危険なので、オレは昼間に「爆龍のアジト」へと乗り込んだ。花街だった頃のなごりで「」が立ち並ぶ中で、四条河原町と祇園の中間にある裏路地に入り込む。

 どう考えても「危ない」と感じる店の入口――アジトの入口で、オレは怪しげな人物を見つけた。オレはその人物の背中を追いつつ店の中へと乗り込むが、周りを「人相の悪い人物」に取り囲まれてしまった。

 明らかに日本語じゃない言語――中国語で話しかけてくる爆龍のメンバーに囲まれたオレ。どう考えても「詰み」だろう。そう思っていた。

 しかし、リーダーと思しき男がオレに対して話しかけてきた。中国語は分からないので適当にあしらっていたが、オレの言動は却って男を刺激してしまう。

 このままだと、オレの一生はここで終わってしまう。そう覚悟した時だった。

「――爆龍のメンバーで間違いないな?」

 どう考えても警官と思しき人物――突然、親父が乗り込んできたのだ。

 親父はナイフを突きつけられたオレを見ながら、リーダーに対して「彼を解放しろ」という旨の中国語を話してきた。

 そして、あっさりとオレは解放された。

「善太郎、ここから先は私たちに任せるんだ。――お前はもうこの事件に関わるな」

 親父がそう言うので、オレは仕方なくアジトから脱出した。

 でも、帰る前にこれだけは伝えたかった。

「親父、オレはどうすればいいんだ?」

 当然だが、親父の答えはあっさりとしたモノだった。

「――とりあえず、お前の友人に伝えてくれ。『爆龍は私の手で壊滅させた』と」

「分かった。――伝えておくぜ?」

 そう言って、オレは全速力でアジトから去っていった。バイクを忘れてしまったので、帰りは命からがら事務所まで戻ることになってしまった。この点に関しては、オレの計算ミスだと思っている。

 祇園から四条河原町へと戻り、そしてビルのエレベーターへと乗り込む。

 エレベーターから降りて、オレの事務所――浅賀エージェンシーの看板が見えた。そこでオレは漸く安心した。

 そして、事務所のドアを開けると――中には見覚えのある人物がいた。

「――善太郎、どうして無茶なことをしたんだ?」

 中にいた人物は、紛れもなく玖院だった。

 *

 玖院は、オレに対して話しかける。

「経緯は善太郎の父親――浅賀警部から聞いた。そして、善太郎がうっかり爆龍に対して首を突っ込んでしまったことも聞いた。まあ、分かりきっていたことだが」

「じゃあ、なんで助けてくれなかったんだ」

「僕にそこまでの権限はない」

「権限って言われても、友人なら助けるのが性だろ? オレはそう思うぜ?」

「いや、僕にも僕の事情があるんだ。――察してくれ」

「仕方ないな。とにかく、後は親父が爆龍を壊滅させることを願うしかないってか?」

「そうだな。――スマホが鳴っている」

 玖院がそう言っているのを見て、オレのスマホも鳴っていることに気付いた。

 オレは、スマホのロックを解除させた。

 スマホの通知画面には、ニュース速報が入っていた。――数分前に入った速報らしい。

【速報 中国系犯罪組織『爆龍』のリーダーを逮捕 京都府警】

 その速報を見て、オレは――小さくガッツポーズをした。

 ガッツポーズをした所で、玖院が話しかけてくる。

「どうやら、父親はリーダーを逮捕したみたいだな」

「そうだな。――オレの出る幕、なかったのか」

 玖院は、オレの言葉に対して冷たく答えた。

「元々出る幕なんてなかったじゃないか」

 仕方がないので、オレはテンプレート的な答えを返した。

「そうか。――なら、仕方ないな」

 それから、オレと玖院は2人で笑っていた。どうせ笑った所でどうにもならないのが実情なのだけれど。

 *

 数日後、オレと玖院は事情聴取に呼ばれた。矢張り、爆龍のアジトに乗り込んだのが悪かったのか。とはいえ、取調室に座っているのは親父だったので気軽に話せることができた。

「えーっと、ここでは敢えて『明智君』と呼ぶべきか。君はどういう経緯で爆龍を追うことになったんだ?」

 オレは、悩みつつも――質問に答えた。

「まあ、友人の依頼ですね。オレには恵良李玖院という小説家の友人がいるので、頼まれたといった感じでしょうか」

「なるほど。――それで、隣にいる友人に聞きたい。君はどうしてこの事件を追っていたんだ?」

 玖院は、親父の質問に答える。

「最近、阪急京都線の沿線で殺人事件が相次いでいるが、僕はそれを『爆龍の仕業』だと疑ったんだ。件の殺人事件が発生する前に、神戸で女性を狙った刺傷事件が起こったのを目の当たりにした。幸い、女性は軽い怪我で済んだんだけど、その時に女性が『刺した人物は中国語を話していた』と言っていた。それで――調べるうちに爆龍の存在に辿り着いた。ただそれだけの話だ」

「なるほど。――よく分かった。とにかく、今後同様のケースがあっても、首を突っ込むことはやめたほうが良い」

「そうですよね。――すみませんでした」

 玖院は、親父に向かって謝る。――別に、謝らなくてもいいじゃないか。

 でも、矢っ張りやってしまったことは悪いことだし、京都府警や大阪府警も巻き込んでいることになる。謝るのは必然的だろうか。

 それから、事情聴取は2時間ぐらい続いただろうか。

 親父の「これで終わりにしましょう」という言葉で、オレと玖院は漸く解放された。

 *

 事務所に戻った所で、オレは玖院に質問をする。

「事情聴取で話したことって、どこまで本当なんだ?」

 玖院は、少し下を向きつつ――オレの質問に答えた。

「ああ、95パーセントぐらいは本当だ。ただ、5パーセントは嘘が混ざっている。まあ、嘘というか――誇張なのだけれど」

「そうなのか。――なんか、エラリーらしいな」

「そうか?」

「そうだ」

 オレがそう言うと、エラリーは笑っていた。普段、アイツが笑顔を見せることなんてないので、オレも釣られて――笑ってしまった。

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