第12話
善太郎の探偵事務所へと向かった僕と仁美は、早速「ハートのストレートフラッシュ」について整理することにした。
明智警部の話によると、被害者の身元はこんな感じらしい。
・被害者
・年齢 35歳
・職業 大手ゲーム会社のゲームクリエイター
・遺体の状況 胸部をナイフで刺した上で「♡3♡4♡5♡6♡7」という並びのトランプが置かれていた
――こんなところか。京都で「大手ゲーム会社」ということは、恐らく
別に、そんなことはどうでも良くて――僕と仁美は「ハートのストレートフラッシュ」に着目した。当然、善太郎もそこに着目している。
トランプの並びを見つつ、善太郎は話す。
「仮に、オレが犯人なら――事件はここで打ち止めだ。なんせ、ストレートフラッシュが出来上がっているからな」
善太郎の言葉に、僕は頷く。
「そうだな。ストレートフラッシュ以上の役を見立てて殺害するなんて――あり得ない」
仁美も、僕の言葉にそっと頷いていた。
「そうね。――これ以上犠牲者が出ないことを願うためにも、ここは明智先輩のお父さんの力を借りようかしら」
しかし、善太郎は――仁美の言葉を拒絶した。
「流石にそれはやめてほしい。――親父、相当追い詰められているからな」
「お父さんが追い詰められている? どういうことよ」
「ああ、長岡天神駅で遺体が見つかった時はただの殺人事件として処理していたが、こうも同一の手口による殺人が発生すると――流石の親父もお手上げだ」
「明智先輩は、お父さんに協力しないの?」
「しない。――オレはオレで、独自に事件を解決したいからな」
「もう、見栄っ張りなんだから。――仲悪いの?」
仁美の指摘に対して、善太郎は――少し俯き加減に答えた。
「――正直、仲は悪い。ただ、親父に対して未練があるのも事実だ」
「未練?」
「そうだ。オレが探偵事務所を開設したのは――今から12年前ぐらいだっただろうか。立志館大学を卒業してから、就活を諦めたオレは『探偵で食っていこう』と思ったんだ。もちろん、資格は持っているぜ? それで、叔父が持ってたビルの最上階に『明智エージェンシー』っていう探偵事務所を開設した。親父が京都府警の警部だったから――事件解決の協力はどんどん行ってたぜ?」
「でも、それで上手くいっているんだったら未練なんてないじゃないの?」
「いや、あるんだ。――仁美は、キツネ男の事件を覚えているか?」
「覚えているわよ。明智先輩が解決したからね」
「それなんだが――オレはキツネ男を追ううちに親父と喧嘩してしまった。多分、自分の息子が『
そうだったのか。――父親がいるって、羨ましいな。僕はとうの昔に父親を
僕は、善太郎の話に同調するように話した。
「それで、キツネ男を捕まえたことを契機として――父親、つまり明智警部と
「その通りだ。だから、この事件で――オレは父親との関係を修復したい」
そんな簡単に行くわけがないだろうと思いつつ、矢っ張り――善太郎と明智警部の関係修復は応援したい。そこで、僕と仁美にできることはあるのだろうか?
色々と考えつつ、僕は善太郎が淹れてくれたコーヒーを飲む。――少し薄い。
テーブルに置いてあったロシアンクッキーをつまみつつ、僕は改めて「ハートのストレートフラッシュ」の謎を解くことにした。
「話をハートのストレートフラッシュに戻そう。今までの事件と違うのは――絵柄が揃っていて、なおかつトランプが順番通りに並んでいることだ。善太郎は、この件に関してどう思っているんだ?」
善太郎は、僕の質問に――曖昧な答えを出した。
「被害者は女性。名前は『真壁ひかる』。――つまり、そういうことだ」
「そういうことって言われても、まったく分からん」
「だから――ストレートフラッシュは『真壁ひかる』の見立てなんだよ」
「――ああ、そういうことか」
ワンペアが一橋徹也、スリーカードが三平康介、ならば――ストレートフラッシュは真壁ひかるってことか。被害者が女性ということで、カードの絵柄もハートで統一されている。ここから導き出される答えは――名前の見立てでポーカーの役を成立させていることか。どうしてそのことに気づけなかったのだろうか。
僕は、善太郎の意見に対して――同調した。そして、持ってきたダイナブックを鞄から出した。
「――善太郎、仁美、これを見てほしい」
そう言って、僕はダイナブックの画面上にトランプを表示させる。
「一橋徹也と三平康介、そして真壁ひかるの見立てをそれぞれ並べる。えっと――一橋徹也が『♤2♡2♧8♢Q♤7』、三平康介が『♢8♤8♧8♢A♤J』、真壁ひかるが『♡3♡4♡5♡6♡7』だな。――この並びから、ハートのストレートフラッシュをベースとして数字を並べ替える」
そう言って――僕は重複を排除した上で順番通りにトランプを並べた。
♡2♤2♡3♡4♡5♡6♡7♤7♧8♢8♤8♤J♢Q♢A
仁美は、トランプの並びについてある「規則性」に気付いたらしい。
「――足りないカードがあるわね」
当然、僕は仁美の指摘に答える。
「足りないカードは――9、10、Kか。9はともかく、10とKはロイヤルストレートフラッシュを成立させるのに必要だ」
「でも、9がないのは気になるわね」
「――休なし?」
適当に言った僕の言葉に対して、仁美は――反論した。
「いや、そこは『給なし』じゃないの?」
「ああ、なるほど。――給なし、つまり給料がないってことか。この事件の犯人は、非正規雇用の人間だろうか?」
僕がそう言うと、善太郎はなぜか納得していた。
「エラリー、お前の推理はなかなか良い線を行っているな。――しかし、オレは『数字の9』を見立てから排除した理由についてある『可能性』を考えた」
「可能性? 教えてくれ」
「いいぜ? 中国では、『9』は縁起のよい数字として好まれている。だから、殺人事件に使うのは縁起が悪いって判断したんだろうな。ほら、9は中国語で『久』と発音が同じだからな。麻雀の役に『国士無双』っていう最強の役があるだろ? 1と9にまつわる全ての牌と東西南北、そして白牌と発牌と中牌を並べると成立する役だ。――中国人、本当に『1』と『9』が好きなんだな」
「つまり、一連の事件は中国人による犯罪であると言いたいのか。――あっ、そういうことか!」
あることに気付いた僕は――思わず大声を出してしまった。善太郎と仁美は、突然の大声にビックリしている。当然だろうか。
「『そういうこと』って、何よ?」
「オレも気になる。教えてくれ」
2人に急かされたので、僕は――ようやく「爆龍」のことを説明した。
「ああ、一連の事件を追っている中で、僕は『爆龍』という中国系犯罪組織の存在を知ったんだ。分かっていることは――中国人で構成されていることと、彼らが京阪神エリアで暗躍していることだけだ。メンバー等の詳細は分かっていない」
仁美は、納得した表情を浮かべている。
「なるほどねぇ。――もしかして、私たちってその『爆龍』とかいう犯罪組織を敵に回しちゃったって訳?」
「それはどうだろうか? まだ分からない」
僕と仁美の話に、善太郎が口を挟んだ。
「爆龍? ああ、アイツか。知ってるぜ? 親父――というよりも、組織犯罪対策第一課が追っている犯罪組織だろ? 親父から話は聞いていたが、まさか――一連の殺人は、本当に『爆龍』による犯罪なのか?」
善太郎の質問に――僕は当たり前の答えを返した。
「確証は持てないが、ほぼ『爆龍』による犯罪であると見て良さそうだ」
僕がそう言うと、善太郎は――所謂「野球漫画で目が燃える」表情をしていた。
「ふ、ふはははははっ! 燃えてきたぜ! 明智善太郎、大復活だっ!」
多分、気が鬱ぎ込んでいた善太郎にとって――「爆龍」をとっ捕まえることは、千載一遇のチャンスなのかもしれない。
ただ、「爆龍」がどこでどんな動きをしているのかは――僕たちに分かるはずなんてない。分かるはずがないからこそ、探偵の出番なのか。
――そういう訳で、僕と仁美は完全復活した善太郎の
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