第15話 瀬戸内海の海神、村上水軍。魔王を滅する為、魔女と結託し、禁忌の力、魔法戦艦にて大海を地獄と変えん

 織田の軍勢は大阪湾の木津川付近でありえない物をみる。

 信長は南蛮から貰い受けたを覗き、そして一言。


「あれが魔法とやらか……実に不敬だ。鉄砲隊まえぇ!」


 見たこともない船が織田の持つ強靭無比な戦船を破壊していく。船に大砲のようなものがつき、それから放たれるのは炎の光線。それは運河を焼き、地上にまで被害を与える。その船より声が響く。


“織田の軍よ! 負けを認め投降せよ! これは魔女・アビゲイル殿よりタワまった。魔法戦艦。村上の水軍は今世界を手にする力を手に入れた! それでも恐れるのであれば死に急ぐといい“


 強敵だとは思っていた。されどこの村上水軍。海上、水上の戦を根底から変えた。魔法戦艦と呼ぶその船は矢や火縄などを受け付けない。それなのに、船首からは炎の光線。

 そして……あまりにも無慈悲なのが……


“織田のうつけめ! 神の怒り、ぷらずま・らんさぁを受けるが良い!“


 信長は再びスコープを覗く。


「なんだあれは?」


 村上水軍が魔法戦艦と言っているその船の甲板から尾の先まで何かがぱかっと開く。それは……金属の矢尻のように見える。ゴクリと唾を飲んだ信長は、いや、信長という先をみることができる男だからこそ気づいたのかもしれない。


「皆、退避! 雷を纏った矢尻が直に飛んでくる」


 それはありえない情景だった。雪山行軍をした時も、敵の罠にかかり、大勢の兵を失った時も、壮絶な戦さ場を経験してきた信長ですら言葉が出ない。三百の戦船を用意し、数多の火縄を持って倍以上の数の村上水軍を迎え撃つ手筈であった。その信長の兵法は正しかったハズ、少なくとも5分には持ち込めたと思っていた。そして魔法戦艦より響く声。愛らしい少女の声。


“信長公、どうかな? 我らがリヒトを跳ねのけ、結果魔女であるボクらを敵に回した感想。ねぇねぇ? どんな気分? 子分が動かない生ゴミになったのはさぁ?“


 信長を守ろうと前にでる美少年・蘭丸を傍に寄せて信長は叫ぶ。


「やはり魔女の仕業か! この俺もまさか用意した三百の船が一撃で落ちるとは思いもしなかった。あまりにも醜悪だが、見事と言っておこう。そして何故俺を殺さなかった?」


 信長達が乗る船のみ残してある事。それは偶然ではなくわざとなんだろうと信長も理解していた。


“君がリヒトに震え、あの時協力をしなかったこと、永遠に後悔させる為、ボクはグリムガーデン。この魔法戦艦を作りし者。もっと、もっと殺したい。もっと命を食べたいんだ“


「外道めが……」


 そう言う信長だが打つ手なし、そんな中伝令が入った。伝書鳩が運んだ文を持つ兵。


「お館様、柴田殿がこのような文を……」


 信長はその文を読んで、目の色を変える。そこには柴田勝家の字で、羅志亜の里にて、強靭無比なる魔女が羅志亜忍軍により討ち取られりと……


「ぐりむ何某とやら、この勝負預ける……俺を生かして返した事。後悔……いや、お前のような戦狂いにはこう言ってやろうか? 次は楽しませて殺してやろう」


 信長の挑発。本来であれば怒り、生かしては返さないところ、信長はこのグリムガーデンという魔女についてどんな人間かを瞬時に理解していた。


“あはは、あははははははは! 信長公、いい! いいよ! さすがリヒトに喧嘩を売っただけはある! どんな手を使うつもりかは知らないけど、次は君も君の兵も全員地獄に送ってあげる“


 信長達の船は惨めなる惨敗。どれだけの兵を失ったか……信長は考えていた。木造船ではあれらの攻撃に耐えられない。とはいえ、金属の船だとしても甲冑をきた武者の鎧がバラバラになっているのを見てあまり意味はなさそうだと……


「羅志亜の里へ行く。準備をせい!」


 

 羅志亜の里、そのラシア城一階会議講堂はピリピリとした空気が流れていた。いつも小競り合いを仕掛けてくる織田軍の頭領。織田信長が、柴田勝家、そして槍持の蘭丸。そして長い癖毛にはだけた着物をきた謎の女性を引き連れて座っている。


「粗茶ですが……」

「八女の茶か」

「さすがはお茶にも精通した信長公です」


 お茶を配膳して回るのは羅志亜忍軍四天王の一人、修羅。その姿を見て信長は正直な言葉を述べた。


「お前、美しいな。俺の子を産まんか?」


 ぎょっとする修羅。そして微笑む。


「そんなお世辞を言われても困ります」

「いや、世辞ではない。誠に美しい。頭領の奈々樹殿も、そちらの小狐と言ったか?」


 小狐は信長に名前を呼ばれて驚きながらうなづく。


「お、おう! いかにもおれ己は小狐だ」

「俺の子を産まんか?」


 その言葉に小狐は真っ赤に顔を染め、奈々樹は爆笑。そして修羅は信長に殺意を向ける。


「頭領、このうつけ殺して良いですか? 小狐ちゃんを手篭めにしようだなんて……」


 修羅のその反応に怒りを表したのは蘭丸。


「貴様、女の分際で殿になんと言う口を聞くか!」


 刀を抜く、その刀に小狐が自らの刀で受ける。

 混沌とした状態の中、柴田勝家はため息を、もう一人の女性はお茶をズズッとのむ。


「蘭! 引かぬかぁ!」

「二人とも調子に乗るでない!」


 お互いの頭領による制止。信長と奈々樹は見つめ合い。そして笑う。お互い何かを知ったような風に。


「それにしても、信長公。ウツケと聞いていたが、中々に良い男だ。そして礼儀も品もわきまえておる。噂とはあてにならんな」

「奈々樹丸殿もまた、恐ろしく美しい。柴田があまり語りたがらなかったのがようわかるわ。はっはっは!」


 何度となく二人は殺気を飛ばし合う。それをお互いは受けながら、普通の茶飲み話をするような、そんな張り詰めた空気。


「しかし、こんな田舎忍の里に飛ぶ鳥を落とす勢いを見せる信長公が何用か? 里の飯はうまいが、信長公を驚かせるような珍味はないぞ?」


 そう言って草餅を一口食べる奈々樹。そんな奈々樹を見て信長は茶をのみ語る。


「単刀直入に言おう。魔女殺しをやってのけた貴殿らの助力を願いたい」

「なるほど、断ろう。我ら羅志亜の力、世に出してはならんと言われておってな」


 信長は目を瞑る。


「義輝殿か、良い男を失った。義輝殿の世であればあるいは俺も外の世界にと考えたが、義輝殿は甘かった。だから死んだ」


 チャッ! 


 信長の首元にクナイが向けられる。

 それは奈々樹。怒り、小狐が刀を抜くよりも早く。


「それ以上は言ってくれるな。上様は我ら羅志亜の全てじゃった。それ以上は信長公と戦になる」

「何も俺は俺の下につけとは言っておらん。その上様の遺骸が魔女に辱められているとすれば、貴様はどう動く?」


 それには奈々樹、小狐、修羅は驚愕する。義輝の遺体、それはとある僧侶によって手厚く弔われたハズ……その場にいながらずっと黙っていた少年が一言話す。


「シュヴァリエです。おそらく、義輝様は剣豪と聞いています。生前の強さはシュバリエの強さです……それを行ったのは多分……アビゲイル」


 信長は笑う。ほぼ自分の盤面で事が進んでいる事。見るからに偉人の少年を見て信長はとう。


「この者は?」


 どう答えるべきかと小狐達は思っていたが、奈々樹は正直に答える。


「魔女の少年。ラウラじゃ。此度の羅志亜の里に襲来した魔女を討伐するにもっとも功績を持った少年」

「魔女には男も女もいるだったのぉ」


 信長は魔女について何かを知っていた。元々、海外の文化に興味があった信長はそちら方面も精通していた。まだ奈々樹達が助力すると言っていないのに信長は話す。


「そうか、ならばこちらも手を明かそう。そして惨めな敗戦を語ろう」


 信長はいかにして自らが敗れたかを面白おかしく話す。それは親が子供に昔話でもするように、殺意を抱いていたハズの修羅ですらその話に引き込まれ、小狐は食い入るように話を聞いた。


「あれは神の戦船だな。だが、俺はあの船を攻略し、本願寺を叩く。その為に必要なものがこれだ」


 コロンと投げた金属の塊。それを手に持ち、奈々樹、小狐と首を傾げる。しかし、それに触れたラウラは驚いた。


「これ、オリハルコン……なんでこんな物が?」

「それがオリハルコンとやらかは俺は知らん……が、オランダから来た商人が俺に献上した物だ。曰く、魔物や魔術を寄せ付けない石とな。半信半疑だったが、此度の戦、魔女なる者が参戦してきた。もしやと思ってお守りに持って行ったが、この石を持っておった事で俺は魔法とやらの不意打ちを防いだ。この石、いや鉱物で作った船なら、魔女の作ったあの船に勝てる……とな? どう見る。魔女の男の子よ」



 信長に見つめられラウラは冷や汗をかく、明らかに異質な雰囲気を、言うなれば最強の魔女リヒトに匹敵する威圧感を感じさせる。そんな信長にラウラは答えた。


「信長様の仰ることは正しいです……オリハルコンは魔法封じの石として最上ランクの物質です。でも、船を作る程のオリハルコンなんて……」

「それを作るのがそこに座しているペテン師だ。名前を果心居士と言う。奇術師と言っておるが、遠方の技術屋知識を持っておる」


 信長に指さされたのは白い髪の女性。お茶を草餅を食べながらラウラと目が合うと片目をぱちくりと動かして挨拶する。


「ご紹介に預かりました。果心居士です。えぇ、今回信長公に無茶を言われまして、その合金を船一隻分用意しろとかなんとか……まぁ、作れなくはないけれど、場所は富士の樹海、そして普通にやってたら時間がかかる。それで助力をお願いしにきたわけです。鬼人の力を持つ忍の皆々様と、そして魔法なる未知の力をお持ちのラウラ様に……ね」


 立ち上がるとツカツカと果心居士はラウラに近寄る。小狐はすぐにラウラの身の危険を感じてラウラを守ように立つと果心居士は掌を見せる。小狐はなんだろうと見つめているとそれを握る。何も持っていない事を確認させてからポンと一輪の花を見せた。


「おおぅ! 魔法か? まさか、魔法なのか?」

「いいえ、これは種も仕掛けもある奇術です。お美しい羅志亜の忍者さん。お近づきの印に」


 凄い凄いと小狐は小さな子供のようにはしゃぐので奇術を見せた果心居士はやった甲斐があったと微笑む。一連の話を聞いて奈々樹が信長に尋ねた事。自分たちは何をするのか?


「富士の樹海にこの金属を作る特別な砂鉄がある事はおそらく毛利か、石山の阿呆共かが魔女らに教えよった。奴らよりも先に手に入れたい」

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