【完結保証】異界侵略の魔女と剣聖の忍軍。舞台は日いずる国・石山本願寺戦争。魔法と忍術にて見事いつか死ぬ為に相死相哀す

アヌビス兄さん

序章 乱世に取り残された里

第1話 いつの世も平穏という物は突如として奪われ、そしてそれらを語られる時、歴史という。語られぬ物語、石山本願寺の大合戦に魔女がいたなど誰が語れようか?

 戦国の世、魔王として恐れられていた織田信長は、数多の火縄を持って、石山本願寺を落とすべく最期の戦いの指揮を信長自ら立つ事となった。


 僧侶を焼き、侍でない人々を斬り、それはまさに阿修羅の道、王道とは程遠い覇道とも呼べるような道のりであった。 

 数多の命を散らし、数多の命を奪った。魔王と呼ばれようと終わらせなければならない戦がそこにあった。


「者共聞けぃ! 我らは魔女なるうつけ共と自らを神と名乗り、農民に武器を持たせた破戒僧共に誅を与える! 頼もしい事に、羅志亜忍軍、そしてその魔女も我らと共にある。恐れるな!敗北は己の中にあると知れぃ!」



 石山本願寺の戦い。織田信長が何故、十年もかけて攻めて落とそうと、必死にしつこく戦を続けたかは諸説ある。

 魔王たる信長が神すらも越える為?

 政治に宗教が関わろうとしたことを危惧した為?

 一向宗の財力を信長が狙って?


 否。

 断じて否!

 

 信長はこの日の本に異世界から来た脅威。

 魔女を生かしてはおけなかった。死者を動く屍。縛り歪シュヴァリエとして死人兵共を操り、弓よりも火縄よりも遠くを狙い、大筒よりも広域の破壊を起こせる魔法なる邪法を相手にこれを倒せずは、天下どころか世界が終わる。

 何度となく破れ、何度となく工夫し、信長は多くの準備をしてきた。


 信長の指揮の中で大きくわけて重要な役割は三つ。

 対村上水軍とその魔女の撃破し補給を絶つ、そして数の有利を無視する屍を縛り歪として操る不死身の軍とそれを操る魔女の撃破・・・・・・最後は信長の行く手を阻む、

 最強の敵、雑賀孫市率いる、雑賀衆とそれを加護する最強最悪の魔女・ヒリト・ガーベラの撃破。


 それに対抗する為に信長は下げたくもない頭を下げて、何度となく痛い目を見せられてきた忍の里・羅志亜らしあ忍軍に戦ってもらう事となった。


 彼らは一人の魔女の国の少年を保護している。それこそが切り札。

 この物語は、その羅志亜忍軍が石山本願寺、最期の闘いに出向くまでの物語である。

 謎多き石山本願寺戦争、歴史上・・・・・・魔女がいた事は語られなかった。

 いや、語ってはならなかった。

 誰が信じるだろう? 神通力のような力を使い回し、火縄を何発受けても立ち上がる人間の事を・・・・・・語れるハズがなかった。


 そして・・・・・・信長が魔王と呼ばれる由縁がここに繋がる。魔女殺しの武将、そんな異様な戦において歴史上に残る事ができなかった足利義輝が愛した忍び達。

 羅志亜忍軍が確かにそこで生きていた事、それを誰かに覚えていて欲しいから・・・・・・


 魔女の国最後の生き残り、凡才でしかない僕、ラウラ・ノブリスが綴る。


                ★


御大おーだい、まーた信長のウツケが、兵よこしてますよ」


 南蛮人からもらった望遠鏡を覗きながら、二階建ての低い天守閣の奥でひょうたんに入れた麦茶を飲みながら横に髪を結った少女。額に胸当てに肘、膝と必要最低限の急所のみを守るような防具。

 あとは動きやすそうな着物に袖を通している。絵に描いて飾っておきたい程均整の取れた顔つきは里でも街でも評判の美人娘。


 その少女はこの里で忍頭を意味する御大おーだいと呼ばれる。季節の風を感じ、本日の夕餉の事でも考えながらいつも通りの指示を出す。


「適当にあしらっておけ、念のために子供だけは奥に・・・・・・どうせ狙いは米じゃろう?わけてくれと頭を下げればワシ等とて鬼ではない。が、力で奪おうというのがどうにも我慢ならん」

「ですよね-! あと、御大おーだい。また里の侍かぶれが決闘申し込みにきてますよ?」


 望遠鏡を覗きながら乾物の魚をかじり、もう一つの報告。

 御大おーだいと呼ばれた少女はもう片方の報告に関して頭を抱える。


小狐ここか、あやつもちゃんと忍になってくれればどれだけ良かったか・・・・・・侍の何がいいんじゃろうな? 忍の方が格好良くないか?」

「はぁ・・・・・・産まれた時からこの里ですからね。自分」

「ヤシキ。とりあえず見守り続けておけ、ワシは小狐の相手とついでに信長のうつけ軍と遊んでやろう」

「行ってらっしゃい。お気をつけて」


 そう言って麦飯を食むヤシキに御大はぴょんと階段を一降り。二階建ての小さな城。羅志亜忍軍の城。ラシア城。ここはとある人物の寝所としても使われる場所だった。

 だが、その人物はもういない。室町幕府第十三代征夷大将軍だった足利義輝。


 本来は義輝の直属の命にて必要であれば戦ですら行うはずだったが、窮地の義輝は羅志亜の民を動かさず壮絶な最期を遂げた。この集落は目的を失った戦闘集団の成れの果てなのだ。守るべき人はいないが、せめてもとこの地に居座り守り人となる事を決めた。

 

「我が城は今日も主張せずに美人だな。ワシは好きだぞ!」


 そう言って麦茶を一飲み、そんな御大に向けて飛ばされるクナイ。それを上半身の動きだけで避ける御大。そしてため息をつきそうになる。毎度毎度命を狙いにくる同じ里の自称侍を名乗る忍の少女。


奈々樹ななき! ここであったが百年目! この大侍の小狐様がその首・・・・・・」


 綺麗な黒く長い髪、そして同じ日の本の人間ではない端正な顔立ち、長い手足。そして腰に刀。

 御大は今し方呼ばれた通り奈々樹と言う。そして彼女とは違った美少女がラシア城を出た門前に立っている。名前は小狐、海に小舟とともに流されてきた赤子を当時の御大、奈々樹の父に拾われ娘のように育てられた。

 ようするに奈々樹の妹にあたる。


「小狐、良い所にきた。信長のウツケ侍共が攻めてきている。落とすぞ?」

「まてぃ! 奈々樹。おれとの闘いはどうなった?」

「あぁ、それな。じゃあワシと小狐とでどっちがウツケの侍を倒せるか競争せんか?」


 腰の刀に触れながら、う~ん、う~ん。

 と考えてから開眼する。そしてその辺の葉を咥えて頷いた。


「よし! のった! では参るぞ! 狛犬剣術の錆にしてくれるわ!」

「なんだそれは?」

おれの我流剣術だ」

「そうか、まぁくれぐれも怪我せんようにな?」

「馬鹿にするな! おれは奈々樹を倒す侍なんだからな!」


 そう言って俊足で信長軍の兵が野営を組んでいる所に飛び込んだ。里でも群を抜いた脚をもつ小狐。そして生まれ持った体幹の良さ。先制の手裏剣にクナイ、さらには鎖分銅を投げつける。それも全部致命傷になるところを狙わない。


「うわ! また出やがった! なんなんだこのガキは!」


 それを眺めながら奈々樹は感心する。


「何処の世に手裏剣やクナイを使う侍がいるのかの・・・・・・しっかし、ワシが言うのもなんだが良い忍に育ったの。小狐。あのおねしょをしておった小童がのぉ・・・・・・」


 次々に信長の兵を倒していく小狐を見てキセルで一服。

 麦茶を一飲みしてからゆっくりと腰を上げて地面に落ちている折れた弓矢の矢を拾うと小狐が大暴れしている中にゆっくりと歩む。奈々樹の目的、侍大将がいる場所へとゆっくりと歩む。この茶番を終わらせる最善の一手。要するに奈々樹達羅志亜の民と戦をするには兵力が少なすぎるし、この進軍には止め方があるのだ。


「柴田ちゃん、ばか殿のお仕事ごくろーさん」


 甲冑に身を包んだ武将は真顔で奈々樹を見ると、口元が緩んだ。そして人払いをさせると酒を見せる柴田ちゃん事。

 猛将・柴田勝家。


「奈々樹丸殿も、おうきゅうなった。先代にも手を焼かされたが、今は美しゅうなった奈々樹丸殿を見に来てるようなもの。しかしあの童、恐ろしく強くなったのぉ」

「ワシの自慢の忍じゃな。できれば小狐に御大の名前を譲りたいのじゃが、あやつは侍になりたいと世迷い言を申しましてな・・・・・・これも柴田ちゃんが馬鹿みたいに攻めてくるからじゃ。侍の刀を見て、小狐はかっこえぇと何度もガキの頃から申しまして、責任とってくれんかの?」

「ははっ! これは一本取られたわ」

「怪我した侍は、手当をして茶でも飲んで帰るとよい。まぁたまには柴田ちゃん、普通に遊びにきてくれよぅ?」


 上目遣いにそう言われて柴田勝家は苦笑するしかなかった。御大とはいえ、くノ一、色香で惑わす術も会得している。


「じゃあそろそろ柴田ちゃんええですか?」

「そうですな」


 壊れた矢を持って、それを柴田勝家の首に近づける。そしてすぅと息を吸うと奈々樹は叫んだ。


「ええい!みられい!敵将討ち取ったりぃ!」


 以前から里を攻めていた年期の入った侍達はようやくかと、若い侍達は何事かと思いながら自分達の親たる武将が捕まっている。これでこの戦は終わり、奈々樹は柴田勝家を離すと言う。


「貴様等は今から捕虜だ! 我が里は捕虜を殺さぬ。怪我をした奴は並べ!」


 傷薬を塗り込み、炊き出しをした飯を喰わせて帰らせる。帰りに柴田勝家はいくらか金を払って行こうと言うがそれを奈々樹は断った。


「これは戯れ遊びじゃ。そして遊んだあとに皆で飯を喰うた。ただそれだけじゃ。それに、柴田ちゃんのところのお館殿が本気でくればこんな小さな里、一溜まりもない・・・・・・あの織田のウツケは馬鹿だが愚かではない・・・・・・何か、考えがあるんじゃろ?」


 織田信長は定期的にこの里を攻める。それは羅志亜の里の忍びの力を測るように、あるいは力が衰えないように・・・・・・何等かの目的があったとしても、羅志亜の忍はどこにもくみさないと奈々樹は付け足し話が纏まったところで小狐がぴょこんと顔を出して奈々樹にたずねる。


「奈々樹、今回はおれの勝ちで良いのか?」

「あぁ? あぁよいぞ・・・・・・小狐の勝ちでいい」

「むぅ、なんかふに落ちないぞ」


 小狐が喚くのを聞き流し、奈々樹は

二人して並びながら背の低い城に戻ろうとした時、幼い里の幼女がとてとてと走ってくる。

 それに小狐は手を振って幼女を抱き上げる。


「おう、テトか、どした? 腹減ったか? 麦の多いにぎり飯ならあるぞ?」

「ここ! 奈々樹様。あっちに人! 変な人が倒れてるの! テトが見つけたの! きて!」


 奈々樹と小狐は顔を見合わせて頷くと走る。


「テト、その倒れておる奴はどこだ? もしかしたらおれがぶん殴った織田のウツケの兵かもしれん・・・・・・」

「うむ・・・・・・そうなら、ウチで休ませて柴田ちゃんの所に送ってやらんとな」


 二人がテトに呼ばれて行った先で見た倒れている人。見た事のない髪の色に、見た事のない瞳をした少年。死んではいない、小さく息をしているが大けがを負っているし、かなり危ない状態だった。


「な、なんだこいつ・・・・・・狐憑きか? それとも鬼や妖怪変化の類いか?」

「異国人だな・・・・・・昔港街に行った時にワシは見た事があるぞ・・・・・・それにしても酷い怪我じゃ。小狐、唐辛子こしょうをもってこい。それと腰の刀置いていけ」

「は?何故だ、刀はおれの命」

「黙れ! 命がかかっておる。置いてゆけ、薬缶と水と綺麗な布ももっていこい。あとあればでいいが、酒も」


 チッと舌打ちすると小狐は走って荷物を取りに行く。その間に奈々樹は火打ち石で火を炊き、小狐の置いていった刀を熱する。赤くなるまで熱すると奈々樹は倒れている少年の口を開けさせて、奈々樹は自分の小手を咥えさせる。

 そして優しくテトに言った。


「テト、悪いが少しこのおの子の身体を押さえておいてくれ」

「奈々樹様・・・・・・何するの?」

「傷を殺す」


 そう言ってジュっ! と音がした。少年は気絶していたハズなのにあまりの熱さと痛さで叫び暴れる。


「いぎぃいいい!」

「テト、抑えろ! ワシはこいつが舌を噛まんようにする」

「奈々樹様、この人かわいそう」

「テトは優しい子じゃ。でも、傷を殺さんとこやつが死ぬ」


 奈々樹は思いっきり傷口を焼き、痙攣する少年をさする。このまま意識が飛んで帰らぬ人にならぬように、そして大荷物を持って戻ってきた小狐。


「よう戻ってきた。コショウは?」

「ほれ、あとムカデとミミズもおったから持ってきた」


 ムカデは毒虫だが、気付けになる。唐辛子をすり潰した中に少し混ぜてお湯に溶かして飲ませる。唐辛子の辛さとムカデのわずかな毒で少年は無理矢理覚醒。

 気を失い呼吸困難になる事を防ぐ忍の薬。


「沸かした湯にミミズを入れて熱冷ましを、怪我で熱があがるのを防ぐのによい。小狐はさすがだの。ワシの直々の弟子なだけはある」


 それを聞いて小狐は一瞬何を言われているか分らずに固まり赤面する。


「お、おれは侍だ! 忍になんてならん!」


 小狐の大声を聞いて異国の少年は「うぅ・・・・・・」と目を覚ます。

 この出会いがまさか、忍と魔女との初の出会いになるとは誰も知らなかっただろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る