【完結保証】異界侵略の魔女と剣聖の忍軍。舞台は日いずる国・石山本願寺戦争。魔法と忍術にて見事いつか死ぬ為に相死相哀す
第2話 来たれるは絶えぬ事なき魔女の願望、望まず迎えるは日の本。一陣のそよ風は突風なり、嵐なり忍の里に吹き荒れる
第2話 来たれるは絶えぬ事なき魔女の願望、望まず迎えるは日の本。一陣のそよ風は突風なり、嵐なり忍の里に吹き荒れる
ベリル・ラウンカー上空。
そこには五人の少女達が箒にまたがり、彼女等の眼前に同じく箒に乗って浮かぶ少年と見つめ合っているそんな情景。
人知れず魔道を研鑽し次世代へと引き継ぎ、時にその力を頼る正しき王の魔術師として力を与える彼ら、歴史にその一族の名は残らない。
それは、ウィッチ。人々に魔女と呼ばれた存在。
精霊の声を聞き、風や水を友とし、炎と雷を調伏する。
それが当然、普通の魔女としてのあり方であった。それは当然であり誰も疑わなかった・・・・・・されど世代が変わるにつれ考え方が変わる。何者にも負けぬ大いなる魔力を持つ自らを見てその力を表舞台で使おうと、使いたいと五人の魔女は自らの魔女の国。
ベリル・ラウンカーに対してクーデターを起こした。
狙う物は常世の宝玉と呼ばれた今までの魔女の国でため込まれてきた強大な魔力が籠もった宝石。その力を使えば異世界に行けるとまで言われている。その事件を起こした主犯は魔女の国・女王の娘、リヒト・ガーベラ。
「なんの真似だ? ラウラ」
その人物を姉と慕い、そして止めようとする者が一人。魔女の国では対した力もない、素質もない平凡なウィッチの少年。
ラウラ・ノブリスは大声で叫んだ。
「リヒト、アビゲイル、ゼジルさん、グリムガーデン、フェリシア姉さん。みんなやめてよ! こんな事しないでよ!」
自らの師を、家族を、思い出の場所を彼ら、最強の世代と言われたウィッチ達は自らが育った国をその強大な魔法で破壊しつくす。それは何一つ慈悲を感じる事のできない圧倒的な破壊だった。人々は皆魔法で眠りにつき、その魔法が効かない者は直々に殺害する。
「ラウラ、邪魔をするな。この騒ぎはこの魔女の国、果てはこの世界の為でもある」
「何言ってんだよリヒトぉ!」
「ふむ、まぁ知らぬ方が良い事もあるか。今宵、妾はここにいる馴染みの者どものと、世界を殺す。全てを犯す、神々を穢す・・・・・・そして我々は魔女が統治する別世界に行く、かつて錬金術やらを極めた者が行ったと言われる世界だな。そうだ! お前さえ良ければ、妾達とこんか? ラウラよ」
そう言って手をさしのべるリヒト。歴代最強の魔女と言われた彼女は、常世の宝玉を持ったベリル・ラウンカーの魔女王。自らの母親を殺害し、その宝玉を奪った。そのリヒトと他最強の魔女を相手に魔法の才能は凡才でしかないラウラは逆立ちしたって勝てるハズはなかった。だが・・・・・・苦しむ同郷の者を見て、怒った。
産まれてはじめて、叫んだ。
「彗星の暴走神よ! 我が意に従い眼前の敵を滅ぼせぇ!」
ラウラの放てる最大の呪文。その魔法相手にリヒトはやや驚き、「ほぉ」と、他魔女達はラウラを「くすくす」と小馬鹿にしたように笑う。
空をふさぐ程の雷の魔法。それを前にリヒトは指一本。
その指一本でラウラの最強呪文を消し去った。
正確には常世の宝玉の魔法力として吸収。
「皆の者、開くぞ! 異界の門が! この里にいる魔女の命を吸って常世の宝玉は大呪文を完成させる」
黒い小さなゲートはようやく人一人入れる程の大きさに、そしてそれは広がる。そこに突入していくリヒト達。
「ま、まてぇ!」
ラウラは追いかけた。自慢の箒に乗って止められるわけもない彼女等を・・・・・・ラウラが突入した際、一人の女性が待っていた。
「フェリシア姉さん・・・・・・」
「ラウラ、君は私達からすれば弟みたいな存在だった。だが、これからのリヒトに君はいらない。君はここでこの世界と共に星に潰され死んでいけ・・・・・・ブラック・セイバー!」
黒い剣を持ったフェリシアはその黒い剣でラウラを一閃。胸が切り裂かれ、そして墜落していく・・・・・・これが死なんだとラウラは薄れゆく意識の中で涙を流した。
「小狐! もっとコショウをもってこい! なんならワシの・・・・・・ええい! へそくりだ! これでありったけ買ってこい! 酒もだ!」
五月蠅い。
でも懐かしい・・・・・・昔はこんな風に・・・・・・僕も・・・・・・身体が・・・・・・熱い、痛い!
「あぁああああ!」
「意識が戻ったぞ! コショウを入れた酒を白湯で薄めてゆっくりとのませぃ!」
「奈々、こいつ、咽せて飲まんぞ」
「小狐。口移しで飲ませろ、お前接吻とくいじゃろ?」
「かー、世話のやける異人の男だな」
良い匂いがした。果物のような・・・・・・そして柔らかい・・・・・・何かが喉を通る。そして・・・・・・意識が戻ると共に呼吸が出来る苦しさ。
「かはっ!」
「起きた! あとはワシに任せぃ!」
女の子達の声、それを聞きながら僕はゆっくりと泥のように眠りについた。
僕の身体がゆさぶられる。
「んんっ」
「起きた! 奈々樹様、ここ! 起きたの!」
目を覚ました僕が最初に見たのは、小動物のように愛らしい少女と、凜としてとても綺麗な女の子と、彼女等の姉なのか、貫禄の中にも可憐さを感じる美女。甲乙つけがたい三人の女神。僕は多分、死んだのだろう。見た事もない衣に身を包んだ彼女等に……長い黒髪が綺麗な女の子は何かを口に含むと……僕の鼻をつまんで、この女の子は……
「ええっ!」
ちゅぽん! ラウラに口移しで何かを飲ませる。舌が絡み合う。三白眼の可愛い女の子とラウラは……き、キスを……そしてラウラは頭が熱くなり、同時に気が遠くなっていく。
「おおっ! 奈々樹。こいつ気を失ったぞ!」
「小狐、お前ニラでも拾い食いしたんじゃないだろーな?」
ようするに口が臭いんじゃないかと言われた事で小狐は怒る。奈々樹の口を自分の口でふさぐ。
「どうだ!
「まぁ、杏みたいな味だな」
べーと舌を出してそう言う小狐を見て奈々樹はクスりと笑う。そしていたずらっぽくこう言った。
「ということは、あれだの! この男子。小狐と接吻をして興奮してぶっ倒れたのかもしれんの?」
「はぁ? ……はぁ!」
よくよく考えたら異性とたっぷり接吻をした。それに小狐はしゅんと恥ずかしがる。そしてその恥ずかしさを追い出すように大声を出した。
「ばっ、ばっかじゃねーの!
「そのわりには、小狐。艶っぽいぞ」
「う! うるさい! うるさい! 奈々樹のばぁーか!」
実に語彙力の少ない罵りの言葉をわめいて小狐はどこかに走り去っていく。
その姿を見て奈々樹は思う。
「本当に、憂いやつだな。ワシの後はお前が御大をしてくれると安心するんじゃが……いや、どこか平和な土地に生まれればあの器量じゃ、男どもがほっておかなんだろうな」
遠い目でそう言う奈々樹を見つめる小動物のような幼女テト。まだ忍の技も学んでいない。森で遊び、自然や動物を友とし生きるという事をただ一生懸命に日々を過ごしているテトを見て奈々樹は抱きしめた。
「まったく! テトも憂いやつよぉ! この里の女子は皆、憂い。ワシが男でないことが悔やまれるわ!」
「きゃう! 奈々樹丸様くすぐったい……ねぇ! 起きてる」
「ん?」
テトに頬ずりしていた奈々樹は目の前の少年が目覚めてこちらをぼーっと眺めているその姿に奈々樹は微笑む。
「ようこそ。異人の少年よ! ワシ等の里。羅志亜忍軍の里じゃ! 助けを求める者は助け、牙をむける者にはそれ相応の報いを与える……ぬしゃどちらだ?」
「……僕は、ラウラです。ラウラ・ノブリス。その……魔女です」
奈々樹は顎に手をやると、ラウラの胸を触り、顔を触り……そして、ラウラの股間に触れた。
「な! 何するんですかぁ!」
「何がまじょじゃ! まぎれもない男ではないか! なかなか憂い顔をしておるから、ワシも騙されそうじゃったぞ!」
「魔女に性別は関係ないんです。そんなことより! あの……お姉さん」
「ワシは奈々樹丸。で、こちらがぬしの命の恩人。テトじゃ、礼くらいは言ってもよかろう?」
ラウラはテトと見つめあう。そしてラウラは微笑んだ。
「ありがとう。テトちゃん、君のおかげで助かったよ」
「えへへ、ラウラあんちゃん……テトがたくさん助けた」
奈々樹はひょうたんに入った麦茶をごくごくと飲むと、真顔で尋ねる。ひょうたんの中身を飲むかと聞く奈々樹の誘いを断るラウラ。
「異人がなぜこんな辺境の里で倒れておった? ラウラ。話してみぃ」
ラウラは奈々樹に語った。自分は魔女の国から五人の大きな力を持った魔女を止めにやってきた。それらは大きな大きな事件を起こすかもしれないとラウラは語る。
「噂に聞く、異国の戦船か?」
「いえ、強力な魔法です」
「マホウ?」
「はい、魔法ですよ?」
「忍術みたいなものかの? いまいちラウラの言うてることが分からん」
ラウラは少し考えるとテトと奈々樹の前で両手を合わせると呪文を唱える。
「精霊よ旅人の行く末を照らせ! ライトアップ!」
ポォとラウラの手の中から炎よりも明るい、強烈な光が放たれる。
「おぉ! とんでもなくまぶしいのぉ! なんという奇術……仙術? 魔術……妖術……とワシらが思っておるそれが……」
「わー! 明るい! 明るい! ラウラすっごぉい! マホウ! マホウ! すっごぉい!」
驚く二人の先で木からどさっと何かが落ちる。
「いたや!」
それは小狐。柿の木に登りながら柿をかじっていたところ、ラウラの魔法を見て腰を抜かした。その様子を奈々樹とテトは笑う。それにつられてラウラも笑う。
「傷がいえるまではワシの家で療養せい。あの小狐の昔話でも聞かせてやろう」
奈々樹の冗談に和んでいたが、ほんの小さな魔法をラウラが使ったことで……一人の魔女を羅志亜忍軍の里へ呼び寄せてしまうことを誰も、魔女であるラウラも考えてはいなかった。
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