第11話 第一章 魔女と忍、未知との遭遇 これにて完結

「来るぞ! 小狐を羽布団のところに落とせ、魔女を油だまりに!」


 油だまりに落として魔女を燃やしてしまおうというのが作戦。

 物凄い速度で地上に落とされた時、身動きが取れない魔女が取る行動は、身体能力を向上させる魔法を何重にもかけて激突の衝撃に耐える。その為、油だまりに落とす事は容易い。そうラウラは忍の皆に伝えた。


「まさか、小狐さんがフェリシア姉さんをデビル・ウイッチ化させた事は驚きました。あの状態は防御も大きく上がっていますが、今回に限り炎に包まれたフェリシア姉さんはそれが命取りになります」


 地上で小狐を受け止めようと羽布団を用意している忍達。

 そして少し遠く離れたところで巨大な手裏剣を組んで待機していた修羅は聞く。


「この小狐ちゃんが、昔作った何の役にも立たない大きな手裏剣。この出番はなさそうねぇ?」


 油だまりに落としても多分、フェリシアを倒しきれないとラウラは話していた。そこでトドメに小狐が子供の頃に作った無意味すぎる超巨大手裏剣。

 大空魔手裏剣。これを魔法の力で飛ばしてフェリシアに叩き込む。


「いえ、何がおきるかわかりませんので、修羅さんはそこで待機を継続してください。いつでも投げられるように」

「了解」


 空から小狐が落ちてくるのを見て、奈々樹が叫ぶ。


「皆のもの、発破用意!」


 岩を壊す発破に火をつけて……

 小狐がドスンと羽布団でキャッチされる。それに遅れて燃え盛る何かが落ちてくる。それが油だまりに……それに合わせて皆が発破を投げる。


「全員退避! 伏せよ!」


 耳を、鼓膜を破壊する程の大きな音ともに油だまりが爆発炎上する。流石にこの爆発と火の中で助かる人間などいない。そう羅志亜の忍は誰しもが思っていた。


「これは、何事じゃ!」


 その大声の先には性懲りもなく織田の軍がまたちょっかいをかけに来ていた。もうじき日が昇る。炎の柱を見てそこに忍達が集まっている。柴田勝家の姿を見て奈々樹が叫ぶ。


「織田の方! 今、我々羅志亜の忍びは、魔女なる敵と会敵中。すまぬが! 遊びには付き合ってられぬ! 帰られい!」


 いつもの小競り合いを遊びを表した。

 そして帰れと言われた。それには侍達は黙ってはいられない。


「理由は知らぬが助太刀致す!」


 頭数が増えた。近づこうとする織田軍に奈々樹は再び叫ぶ。


「助太刀感謝する! されど、近かず、飛獲物ひえものにて待機なされい! 魔法なる邪法を使う者、何がおきるか分かりはせぬ!」


 奈々樹がそう言っても織田軍は理解できず。何名かは突撃してくる。それにチィと舌打ちする奈々樹。


 ゴォオオオオ! 


 火柱が立つ中から、ふらふらと満身創痍。されど生きてフェリシアが立っている。


「原始人……原始人が……」

「ヒィ、化け物!」


 目が合った鎧武者をフェリシアは焼き殺す。ふらふらとフェリシアは向かってきた織田軍の武者達に何らかの液体……それはフェリシアの血液をかけ、それは轟々と燃える。


「撤退、ひけぇ! 羅志亜の忍は何と戦っておるのじゃあ!!」


 小狐は耳をホジホジと指で掻きながら呆れる。先ほど、奈々樹がそう言ったのを無視して突進したから死んだ。これで分かったであろうとそんな目で見ると、織田軍の指揮が叫ぶ。


「弓だ! 弓で射れい!」


 皆弓を構えてフェリシアに放つ。が、フェリシアの体の炎が弓を通さない。奈々樹も指示。


「各々! ありったけの手裏剣を投げつけよ!」


 クナイに手裏剣、小刀までも持っている道具は何でも投げつけた。が、フェリシアの炎の壁をどれも突破できない。織田軍は今まで羅志亜を攻めた時には絶対に使わなかった種子島を用意した。


「撃てぇ!」


 ドン! ドン! と良い音を鳴らす。小狐もあの種子島の威力に関しては身をもって知っていた。

 これならあるいはと思ったが、火縄銃すらフェリシアは受け付けない。そうなると頼みの綱は修羅と、大空魔手裏剣。そしてラウラの魔法力。奈々樹がラウラの元に行き、自分が時間を稼ぐので修羅と共に切り札を切るように指示をした。


「あの魔女の纏う炎を突破し、奴を討つにはあの馬鹿げた手裏剣とそれを飛ばすラウラの力が必要になろう。なぁに、時間はワシが作る。頼んだぞ! ラウラ」


 ラウラが修羅の元へ走り、奈々樹がフェリシアを牽制する為に持っている忍具を使い対峙する。奈々樹の得意とする糸を使った誘導忍具が炎で焼かれる。フェリシアはあまり前が見えていないようで、熱い息を吐きながら炎を飛ばす。それをかわしながら奈々樹は自らの手裏剣を投げてみて、それがフェリシアに届かない事をその目ではっきりと見る。


「これならどうだい?」

「小狐!」


 小狐は燃やされて死んだ武者が持っていた槍をフェリシアに向けて投げる。奈々樹と同じく、小狐も気づいた。フェリシアは炎の風を纏っている。その障壁が重さが足りない忍具を通さない。槍なら十分な重さがあるが……小狐の遠投では届かない。


「おぉおおおおおお! よけろ! 忍頭、小狐ぉ!」


 二人が見た後ろで、巨大な槍を投げる甲丸。羅志亜忍軍最強の怪力を誇る槍使い。大の男二人でようやく持ち上げる事ができる槍を一人で振り回す甲丸が投げた槍はフェリシアの炎の障壁を抜けたが……刃の部分が持たなかった。


「ごっ……」


 されど、巨大な槍の柄に突かれフェリシアは大勢を崩す。今こそ勝機! それを修羅も見逃しはしない。ピィイイいいい! と指笛が聞こえる。それは待避しろと言う意味。甲丸と他忍達、そして奈々樹と小狐もまた離れる。


 ザザザザザザ! 何かが駆けてくる音が響く。そして……


 ブゥウウウウン!


 何か聞いた事のない異様で危険な音が響く。それが何かすぐに奈々樹達は分る。駆けてきているのは修羅。修羅はラウラを抱えて走っている。そして修羅の横を高速回転している大空魔手裏剣。

 本来人間が投げる事のできない通常の手裏剣の100倍はあろうその大きさ。

 その大空魔手裏剣がブゥウンンと嫌な音を響かせていた。


 修羅の横をについていく小狐と奈々樹。


「圧巻じゃの! これを小狐が作った時はとんでもない馬鹿だと思ったが使える時がくるとはな。しかし何故あそこから飛ばさなかった?」


 小狐も修羅の腕なら遠くからでも確実にフェリシアに当てれると思っていた。


「忍頭も見たし、経験したでしょう? あの魔女の周りの炎の壁、あれは厄介よ。この大きな手裏剣。よく見ると刃が鋸みたいになっているの。これを回転させたままぶつければ障壁も魔女もね? でも回転させるのはラウラ君を近くにいさせないと難しいらしいから、私たちが手裏剣についていく」


 それを聞いてラウラは謝罪した。


「すみません。僕の魔法力が弱いから」

「それは違うわぁ、ラウラ君。出来ることをみんなですればいいの。だから、今度謝るの禁止。いいわね? お姉さんとの約束よ?」


 大人の女。修羅は、奈々樹と小狐が言ってあげたかった事を正確に伝え、そしてラウラは自信に繋がる。


「はい!」


 そして確実にフェリシアを殺せる距離で修羅は叫ぶ。


「今よ!」


 ラウラは残りの魔法力を全部、大空魔手裏剣をフェリシアに飛ばす事に集中。そしてそれはフェリシアの炎の障壁を紙屑でも砕くように軽々と突き破り……


 ブゥウウウウン! 


 そして、ブシュウウウウ! 


 と水、いや血が飛び散る音が聞こえた。大空魔手裏剣はフェリシアの魔法防御を突破してフェリシアを切り裂いた。上半身だけとなったフェリシア。恨めしそうにラウラを見る。


「まさか……まさかよ……この身勝手である事を許された魔女……フェリシア・アーティファクトがこんな見知らぬ世界の、原始人とラウラ、貴方に殺されるなんて……考えもしなかった……脅威だなんて……」

「フェリシア姉さん」


 上半身しかないフェリシアは直に死ぬ。それを見た奈々樹は「修羅、介錯してやれ」そう言った時、フェリシアは上半身だけで浮かび上がった。そして手には黒いナイフ。


「ラウラ、貴方じゃ絶対にリヒトは止められない。あれは光の創造主。だから、絶望するよりも前に、私が逝くところに連れて行ってあげる! 死になさい! ラウラぁ!」


 最後の悪あがき、黒いナイフを突き立て突進してくるフェリシア。ラウラは魔法を使い切り、反応できない。修羅が手裏剣を、奈々樹が懐から鎖分銅を……だが遅い。


「……がっ……あっ……また、邪魔するのね? 原始人」

「往生際悪しだ。魔女よ!」


 小狐の持つ折れた刀がフェリシアの頭を突き刺し、フェリシアの黒いナイフは小狐の胸を掠っていた。

 皆、どっと安堵する。死際にフェリシアは言う。


「お前は……魔女の死の呪いにかかった……苦しんで、苦しんで……死ぬがいい……羅志亜の忍……小狐ぉ」

「なんだ、おれの名前を覚えておったか」


 バッス! 


 小狐はフェリシアの首を落とし、フェリシアを殺害する。

 ラウラは叫んだ。


「小狐さん! 傷を見せてください!」

「何だ? 大丈夫だ。刃は皮膚に届いておらん」

「魔女が死の間際にかける呪いは絶対に解けないんです! だから、もし少しでも不調があったら教えてください」

「分かった分かった! それより、片付けと飯を食って風呂に入って寝ようぜ……ん?」


 奈々樹達の前に織田の軍。侍達が全員整列して立っている。今あったことの説明を求められたので奈々樹は頭を下げる。


「此度のご助力感謝致す。詳しくは、夕餉でも食いながら、城でお話しよう。少し身支度など許してはもらえないか? 勝家殿」


 柴田勝家は、実際何の助力もできなかったが、奈々樹の申し出を了承する。皆、疲弊した忍達は体を癒し、風呂に入り、飯を食う。


「ねぇ、小狐ちゃん。一緒にお風呂に入りましょう!」

「いやじゃ……子供ではないのだから、一人で入れ」


 そう言って小狐は一人、風呂に浸かる。その湯船がうっすらと赤く染まるのですぐにでる。身体中を触り何処か怪我をした場所……あのフェリシアのナイフがかすったところだった。



「……何じゃこの傷……血が止まらん」

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