幕間・日本最古の温泉は日本中にある
第12話 物語の区切りに湯をつかるのは戦国乱世から今も変わらず
フェリシア討伐の後、身体中が痛いという小狐。そしてラウラの療養をと考えた結果、奈々樹はこう提案した。
「有馬の湯にでも浸かりに行くか?」
温泉。それが嫌いな女子はいない。そしてラウラは、この前、小狐やテトと一緒に浸かったあの天然自然の湯浴びの事かと思ってラウラは提案してみた。
「お湯なら僕が魔法で沸かしましょうか?」
それに、奈々樹と小狐はけらけらと笑う。
一体何事かと思ったラウラだったが、奈々樹が話してくれた。
「ワシ等も湯浴び場では温めた湯で身体を洗い清めるが、なんというか温泉と風呂とでは違うのだな。天然の薬湯とでもいえばいいのかの? とにかく体の芯まで温まり、不思議と翌日には元気一杯じゃて」
ラウラも奈々樹が言っている事に関しては覚えがあった。確かにあの温泉、傷の治りや魔法力の回復がはやくなったような気がした。しかし、少し疲れたような気もしていた。
それを代弁するのは小狐。
「温泉に浸かると体がふにゃふにゃになるからなっ、ものすごい疲れて、治癒をはやめておるのかもな」
「……それって魔法と同じです!」
ラウラは二人に回復の魔法について説明した。
回復の魔法という物は本人の自己治癒力を魔法により高速進行させているので、死にかけている場合等は諸刃になる時があるのだ。魔法という物は存在しないが、この世界の人たちも自然と共存し、その力を借りている。
魔女達とさして生活様式は変わらないのだ。
「しかし、魔法という物は本当に便利だな」
「うむ、まさか。ワシも飛べるとは思わなんだ」
ラウラの箒に三人乗りで有馬の温泉へと向かう三人、小狐がフェリシアとの闘いにおいて空高くに飛び上がった時、皆驚きつつも何人かはこう思った。
羨ましいなと、そして顔色にも声にも出さなかったが奈々樹もまた空に飛んでみたいと思っていた。一番後ろに座っているがその顔がニヤけている。
「おい、ラウラ。饅頭食うか? あと奈々も……おおっ! 奈々がすげぇ笑っとる!」
「……どうにもいかんな……楽しいの。魔法とはなんと凄いものか、これはテトにはまだ過激すぎるから連れてこんでよかったの」
二点間の距離を飛んで移動するという物に関して走るよりも圧倒的に早い。が、当然の事ながらラウラも少し疲れている。
「あと半分ぐらいだが、そこの茶屋で一休みにせんか? あと帰りはこんなに飛ばさなくてもよいからな」
下に見える茶屋に降りると、一人の青年がお茶をしていた。奈々樹達は頭を下げて、対面側に座る。
「こんな山奥の茶屋によういらした。有馬の湯かい?」
小狐が、足を洗いながら頷き、お品書きを眺める。そこで珍しい名前を見た。
「のぉ、奈々。この銅鑼焼きとはなんぞ?」
忍頭として外の国や町によく行く奈々は物知りだが、その名前を聞いて少し自信がなさそうに答えた。
「なんじゃろうな? 惣菜焼きみたいな物かの? 食べてみればわかるだろ。ばあ様、この銅鑼焼きを三つ頂けるか?」
「はいはい、只今」
目の前の青年が三人をガン見している事に関して閉口するが、ラウラは奈々樹も小狐もかなりの美人なので、ついつい見てしまうのもしかたがないのかもしれないと思う。
ちなみに、奈々樹が頼んだ銅鑼焼きであるが、織田信長が好物だったというお菓子、餡子を両サイドで包む物はこれよりもっと後、400年から300年後に開発されるのだが、この時食されていた銅鑼焼きとは、フナ焼き、所謂クレープのような物だったと予想される。あるいはそれを関東の桜餅のような形状に巻いたお菓子だったかもしれない。
本作ではこの後者のお菓子を銅鑼焼きと定めている。
「……なんか凄いのが出てきたぞ」
「うむ、小狐。ちとでかいな」
今まで土産の菓子と言えば饅頭や団子が相場だった二人は、皿にめいっぱい乗って、中に豆餡とたっぷり上からハチミツをかけてあるそれにおののいた。
「なんだか、僕の世界のホットケーキみたいなお菓子ですね」
ラウラはこれに近い物を食べた事があるというので、奈々樹と小狐はどうやって食べるのか、じっと見つめる。見られたまま食べるのは気まずいなと思ったが、竹楊枝で切り分けて一口大にするとラウラはパクりと食べる。
口元を隠して食べるのでその所作に目の前の青年は「ほぉ、美しい」と独り言。奈々樹と小狐もラウラの真似をしてそれをパクりと食べる。今まで味わった事のない甘さが二人の脳を刺激する。
「……のぉ、小狐。この菓子」
「言うな奈々、
お互い、あまりの甘さと美味さに腰を抜かしそうになっていた。それを食べていると麦飯を炊き終えた茶屋のばあ様が三人のところにくると話した。
「少し前に織田の殿様が上洛したろ? それからこれを出すようにと、織田の殿様は甘い物が大好物らしいんだよ」
少し前は甘い物は女子供が食べる物、酒飲みは甘い物なんて食べないとよく言ったものだが、戦国武将はお酒も好きだが、とにかくお菓子が好きだった。
甘いは美味いだったのだ。バナナはオヤツに入りますか? という言葉があるが、戦国時代では果物はオヤツなので、当然バナナがあったとしたらオヤツに入るのである。
甘い物を食べて疲れが吹っ飛ぶと、三人は残り半分を進む。小狐が気分をよくして普段歌わない鼻歌なんかを歌う物だから、ラウラは思い出したかのように話す。
「小さいころ、見習いの魔女が花の精と春を探して旅をする話があったんです。それにでてくる花の精の姉妹に奈々樹さんと小狐さんは似てますね。少しだけ悲しいお話なんですけどね。お姉さんの方は一年中咲き誇るお花なんですけど、妹の方は春が来る前には枯れてしまう冬の花なんです」
二人はラウラのその話に耳を傾け、「妹の方はどうなるんだ?」と小狐が聞くので、ラウラは「また冬になった会いましょう姉様と言って散っていきます」
それは魔法という物はファミリアという精霊に力を借りるものなのだが、その精霊もまた等しく寿命があるという事を小さな子供に教える物語だったのだが……
「もののあわれというやつじゃな。いつしか、ワシ等も老いるし死ぬじゃろう。それまでに何をしてきたか、最期の時にしてやったりと思えれればそれはその人間の価値というものじゃな」
小狐が黙り、ラウラと奈々樹の話を聞いている。そして小狐は口ずさむように話した。
「
小狐は何処か自分の死期を悟って言ったのかもしれない。が、温泉を見て大興奮。
日本最古の温泉というとこの有馬以外に道後温泉、玉造の湯等。正直どれが最古かは分からないものがあるし、実際証明のしようがない。故に本作において羅志亜の里の忍達は周辺の地域の事しか知らないので、よその地方(国)の事までは分からないので人づてに聞いた最古の温泉という事で有馬を語る。
物申す! と思う方もいると思うが、了承願い、その刃を鞘に納めて頂きたい。
三人は湯治場にたどり着くと、脱衣所にて着物を脱いで奈々樹と小狐は先に温泉に向かう。先に湯治にきていたじいさまやばあさま達の中、小狐は既に仲良くなり、歌なんかを披露していた。
それに困るのが、ラウラだった。男女分け隔てなく裸で温泉につかっている。以前、小狐とテトと入った時は雨で身体がぬれていたという事を免罪符にしていたが……
年の近い二人の少女と裸で風呂に入るなんてラウラの世界ではいかがわしい店か、色を好むどこぞの王族くらいなものだった。
「おーい、ラウラ。はよう入らんか! きもちいいぞぉう」
と小狐が上半身を乗り出して言うので、すぐに後ろをむく。小狐はやんちゃでやや幼い雰囲気をだしているが、反面体つきはあと何年かすればあの修羅のようになるんじゃないかと変な事を考えちえたラウラ。
「……ぼ、僕はなんて事を考えているんだ!」
後ろからちゃぷちゃぷと音が聞こえる。そして声が聞こえた。
「ラウラ、大丈夫かの? 箒で長く飛んだから疲れたか?」
「いやそんな事は! あぁ……あああああ!」
振り返った先、そこには、妹である小狐より発育が遅れてはいるが、形も色も綺麗な奈々の二つの果実を前にしてラウラは声なき声をあげてぶったおれた。
「ぬぉお! ラウラが気絶しよった!」
と奈々樹の声が響く、そしてラウラはなんだか温かい、そんな中でまどろむ。自分は湯舟の中にいる。いつのまにか温泉に浸かっていたんだなとそう思い出す。
奈々樹と小狐の声が聞こえる。
「小狐、その下腹。そんな強くさらしを巻いて、湯治に来ておるのだから、傷口を湯にあてんか」
「いいんだよ。これはこれで」
二人の声に一気に、覚醒する。自分は温泉に浸かっていて、意識を失っていたから、小狐と奈々が左右から支えてくれているのだ。
温泉が濁ってはいるが、それが逆に……とてつもなくいかがわしくおもえる。ラウラはよそから見れば裸の美少女二人をはべらしているのだ。この世界の女の子たちはとても華憐で気高く強いのだが……恥じらいがやや足りない。それなのに……
「ふ、二人とも見えてますよ。恥ずかしくないんですか?」
それに奈々樹は少しだけ「おっと」と胸元を隠す、そして言われると小狐は今までなんの恥じらいもなく晒していたのに、だんだん顔が真っ赤になって、ラウラの頬をバチンとビンタする。
「ら、ラウラ。何を変な事を言っておる! 前にも言ったが
ラウラは、「ごめんなさい」と謝るが、なんで自分は叩かれたんだろうとそんな事を考えていた。極めつけは奈々樹の言葉。
「まぁ、小狐の身体はそそるものがあるからの。修羅は、やりすぎだが、ワシがもし男なら間違いなく小狐を嫁にもらっておった」
しゅぼっと火がついたように小狐がより真っ赤になる。
「お? 小狐ぉ。お前まんざらでもないと思っておるな」
「う、うるさい! うるさい! これも全部、ラウラが変な事を言ったのが悪いのだっ!」
と小狐がギンとした目でにらみつけるので、ラウラはもうこう言うしかなかった。
「ごめんなさい」
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