第10話 妖狐乱舞、忍の力、魔法の力。正面より正々堂々と激突せり

 羅志亜の忍達はフェリシアの襲来に備えて、半日交代で任にあたる事となった。フェリシアは恐らく再び上空からやってくる。もし、そうでなかったとしても何らかの魔法を使ってこの里にくるハズ。ラウラは魔法を探知すると動く魔道具を簡易的に作り、それを里の至るところに配置。そしてそれが動くと鈴が鳴り、旗が上がるようになっている。工作の得意な忍達とラウラが考案した防犯装置。


「しかし、こんな物にかかるのか?」

おれも奈々の言う通りだと思うな。ラウラがいる事を知らぬわけではない、何か対策を」

「してきません」


 ラウラは何処か少し悲しそうに二人の意見をバッサリと切り捨てた。

 それには確固たる根拠があった。


「僕は僕の故郷で、何者にもなれない者と言うレッテルを……わかりにくいですよね。そう言われてきたんです。フェリシア姉さんは片や天才。僕なんてとるに足らないとそう思っています。そしてそこが、フェリシア姉さんの弱点になります」


 フェリシアは広域の魔法で里を焼き尽くしに来ると考えられた。やってきたフェリシア相手に多面からの手裏剣やクナイ等の忍具攻撃。そしてとある場所まで誘導。


「そこでおれと一騎打ちだな。腕がなるわ」

「えぇ、小狐さんは油だまりにフェリシア姉さんを落とすまでの時間を稼いでください」

おれが斬っても良いのだよな?」

「小狐。黙っておれ、自分の仕事を全うせい」


 小狐はあのフェリシアには借りがあった。

 それ故に全力で戦いねじ伏せたかった。最初の日は奈々樹と小狐は昼の番。夜は修羅と甲丸を筆頭にした忍達でフェリシアを待つ。いつくるか分からない。されど、フェリシリアはその日の晩にやってきた。

 リンリンリンと鈴の音がなり、旗が立つ。


「東の森だ! 東の森からやってくる。ラウラ殿を起こしにいけい」


 一人が奈々樹の家に向かうと、準備をしている奈々樹とラウラの姿。東の森に向かうと、確かにふわふわと上空に浮いているフェリシア。ゆっくりと向かってきているのは……


「やっぱり特大の炎を落とすつもりだ。小狐さんが寝ているので、今回は甲丸さんがフェリシア姉さんを……」


 頷く甲丸だったが大声が聞こえる。


「待て待てぃ! あいつはおれの獲物だ。俺がやろうぞ!」


 結局昼の番をしていた忍達も皆起きてくる。それに奈々樹は苦笑しながら言った。


「血気盛んな奴らよ。まぁ、しかし今日きてくれたのはこちらも都合が良い。皆。昼間働いていた者は唐辛子入りの兵糧丸を齧って気つけにせいよ? 戦中に寝たらワシが直々に殺してやる」


 そんな冗談にどっと笑いが溢れる中。

 今から自分たちの里が燃やされようとしているのに冷静な忍達にラウラは笑う。


「ほんと凄い人たちですね。ではこちらの当初の作戦時以上の人数がいますので手はず通り、高い木からの罠と、皆さんの一斉攻撃をお願いします。あの魔法は撃たせません。誘導地点まできたら小狐さんをフェリシア姉さんの高さに飛ばしますので、どうかあの魔法を止めてください」


 小狐は腰に二本の刀を挿し、狐のお面を斜めに被り八重歯を見せる。


「ガッテン承知のすけだ!」


 フェリシアが里の一番端からやってくる。それに合わせて高い木に設置された罠が発動。大量の忍具がフェリシアを襲う。


「全く、嫌になる。原始人のこんな罠で私を殺せると本気で思っているのかしら?」


 そんな時、フェリシアの頬を何かがかすめる。じんわりと熱くなり、痛みが後から来る。


「やられた。痛いわね」


 無数の忍び達がフェリシアに攻撃を仕掛ける。向かっている進行方向を変えさせようとしている事が目に取れたが、フェリシアは笑った。


「ほんと賢しいさかしいわね。でも私は進路を変えない。届かない凶器を好きなだけ投げなさい。あなた達の住まいが灰になる様を見せてあげる」


 あと少し、この里を一瞬で焦土とかせるほどの炎は作れなかったが、建物を全て吹き飛ばすほどの魔法力が集まっている。その光景を想像してフェリシアは嬉しそうに笑う。

 そしてその笑顔が……固まった。


「よぉ、あばずれ。来てやったぜ。この小狐様がなぁ!」


 フェリシアは大きな木の丸太に座って浮いているのに対して、小狐は背中にタコを貼り付けて飛んでいる。


「信じられないけど、ラウラの魔法ね。そんな不細工なゲリラカイトで飛ぶなんて……まぁいいわ。ここまで来たなら遊んであげる」


 シュコン! 


 小狐は刀を抜いた。そして斬り込む。思ったよりも空中で動けている小狐に舌打ちするとフェリシアは叫ぶ。


「暗黒の剣よ私に従え! ブラック・セイバー!」


 何もないところから黒い剣を抜くと小狐の刀を受け止める。が……小狐はそれを燕返し。深くは斬れなかったが、浅くもない。


 ブシュ!


 肩からドクドクと血を流すフェリシア。小狐の使う剣術に、そして自分の魔法で壊れない小狐の刀を見て恨めしそうに叫ぶ。


「魔法防御を武器に使うなんて……」 


 小狐は勝機を感じた。再び刀を構えてフェリシアに斬りかかる。魔法による通信がラウラから小狐の脳裏に届く。


(小狐さん、気を付けてください。フェリシア姉さんは魔法剣の使い手です。剣術もかなりの腕前ですので……その)


 剣士であると言う事。それに小狐はペロリと舌を出す。


「お前剣士なんだってな? おれに見せてみよ。この狛犬剣術の錆にしてくれる」

「魔法防御をかけただけのただの剣で調子に乗って、名乗りなさい! 私は無差別なる呪い・フェリシア・アーティファクト。炎の妖精イフリートに愛された魔女よ!」


 黒い剣に炎が灯る。

 それを見て小狐は面倒だと思いつつもその申し出に乗った。


「羅志亜忍軍、副忍頭。そして最強の侍。小狐だ。いざ尋常に……」


 丘のようにとはいかないが、小狐は突き主体のフェリシアの剣術を捌き切っていた。


「これが異世界の剣術か? 実につまらん。その辺のチャンバラをしているガキでももう少しマシだぞ」


 フェリシアは小狐の刀を魔法剣で破壊しようと思っていたが、小狐は刀を剣にぶつける事を嫌っていた。単純に刃こぼれを気にしてなのだが……


「ラウラに何か入れ知恵されたらしいわね」

「は? 何を言うておるか知らんが、その剣でよく今まで生きてこられたものだな? 覚悟せいよ?」


 事実、フェリシアの剣技は何一つとして小狐に通じない。小狐が体の一部のように刀を使い、防戦一方のフェリシアの隙を小狐が見逃さないわけがない。片手で刀を振るうと小狐は懐から手裏剣を投げる。


「おい、ラウラ。このあばずれ、斬っちまっていいか? 同じ舞台に立てばおれの敵ではない」


(ダメです小狐さん、フェリシア姉さんの力は剣術ではなく……)


「魔法なのだろ? おいあばずれ! 見せて見ろ! おれに通じぬ貴様の魔法とやらをな!」


 小狐があっかんべーと舌を出す姿を見てフェリシアは流れる血に触れ、そして唇を噛む。誰が見ても悔しがっている。それに小狐はざまぁみろと見下しているとフェリシアは呟くように言う。


「いいわ……忍者と言ったわね? 小娘」

「小娘ではない、おれは小狐だ」

「どっちでもいい……原始人の分際で、私に傷をつけて……こんなクソみたいな魔法で私に……私の血はよく燃えるのよ?」

「は?」


(まさか……小狐さん逃げてください! フェリシア姉さんはファミリアを使うつもりです!)


「ふぁ? ふぁみ? 何じゃそれは?」

「そうよ。使い魔、イフリートよ私の血と命をあげるわ! 力を全部貸しなさい! デビル・ウィッチ化を!」


 小狐の目の前でフェリシアは燃える。炎に包まれる。その姿を見て小狐は驚きはするが恐れはしない。


おれは魔法なんてものは知らんが、それは使って良い力とは思えん……いずれにしても斬り捨てる!」


 再び両手で刀を持ち構える小狐にフェリシアは突進する。そんなフェリシアに向けて小狐は完璧な間合いで刀を振った。


「手応え!……何だ?」


 炎を切ったようだった。そして小狐に炎がうつる。小狐は炎の高温でフェリシアの姿がうまく捉えられない。


「なるほど、攻守優れた魔法ということか」

「そうよ。私クラスの魔女でなければこの力は扱えない。死になさい原始人。貴女のその後ろの飛行を手助けしている物。火に弱そうね?」


 障子紙で作られたタコを背にしている小狐。そのタコに火が移る。デビル・ウィッチと化したフェリシアの動きは炎のように速く。小狐が次は煮湯を飲まされる番だった。


「貴女達、原始人が住処を奪われる様を上から見て楽しんであげようと思っていたけれど、貴女はここで殺すわ。この高さから落ちたら、もう助からない」

「貴様、奈々樹の武器攻撃を受けた際、その姿になってことなきを得たのか?」


 フェリシアの話を遮って小狐がそう言うので、少し苛立ちながらもフェリシアは言う。


「そうよ。貴女達原始人相手に私がこの姿を二度も取ろうとは思わなかった。これは裁きよ! 貴女達咎人への神からの裁き」


 燃えるタコ、それに小狐がどうしようかと焦っている様子に満足してフェリシアは攻撃にでた。


「泣き叫んで命乞いをしてみなさい!」


 炎に包まれた剣が小狐を襲う。小狐はタコが燃え落ち、姿勢制御もままならない。万事急須。小狐は言われた通りに命乞いをした。


「……どうか、命だけわぁ!」


 ニヤリと笑うフェリシア、そして小狐もまた同じく不適に笑う。


「なーんてな。おれは侍。命乞いなどせんわ」


 深々とフェリシアの腹部に小狐の刀が突き刺さる。小狐はタコを切り離してタコ無しでも浮いているのだ。


「……どうして?」

「マヌケめが! おれはもとよりこんな物なくともラウラの魔法で自由に動ける。が、貴様は忍の術中にはまったのだ! これがなければ、お前達の言う原始人は空を飛べぬと、勝手にな! まぁ、これが奈々の策というのがちと気に入らんが、ここまで騙された貴様を見て笑いを堪えるのが必死であったわ。バーカ!」


 小狐は刀から手を離すと糸のついたクナイ、手裏剣をフェリシアに向けて突きさす。


「ラウラ、降下させよ! 作戦成功だ!」


 一気に地上に落ちる小狐。そして返し付きの忍具が突き刺さったフェリシアもまたそれに引っ張られ地上に落下する。

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