第24話 羅志亞の忍、魔女殲滅に秘伝の兵糧丸を用いて撃滅に参る

 奈々樹はラウラの魔法の加護を受けたのでそのまま飛び出した。いまだ魔法という物に半信半疑な修羅の為に身を挺してその実用性を見せる。


「そこからしあぁ!」


 ドン!


 奈々樹は本来本能が回避しようとするのを抑えて前に出た。それには連射できる火縄を持つスザクも戸惑う。

 奈々樹の前で火縄の弾丸は弾かれ、それが奈々樹を仕留めるには至らなかった。


「凄いのこれは! 雑賀の娘、覚悟せい!」


 ズバッ!

 一閃、奈々樹の小太刀はスザクの脇腹を裂いた。さすがは相手も忍の類の者。瞬間致命傷を避けて見せた。


「じゃが、結構深くは斬ったぞ。これで崩せる……修羅、何かおかしくないか?」

「忍頭、おかしいって……魔女ね?」

「あぁ、おらん」


 修羅が様子見していた時はこの雑賀衆のスザクと共にいたハズなのに、今やその姿は見当たらない。嫌な予感を感じていた奈々樹と修羅にスザクは語り出した。


「あの、あびげいるとかいう娘、あれは屍人を使う魔女だとほざいていた。私はこの通り、生者よ! この消えぬ火縄があれば一人で戦える。あやつはあやつの最強の手駒・黒騎士とやらを率いて他の羅志亜を殺りに行った。残念だったな! あの黒騎士とやら、とんでもなく強いぞ……それと私は、男だ!」


 こちらは囮だった事。そしてここを一人でどうにかできる戦局でもない事。そして羅志亜の戦い方として……


「忍頭、どうするの? 私は今すぐにでも小狐ちゃんの加勢に行きたいのだけれど?」


 それにクスクスと奈々樹は笑う。いくらか見積もっても普通にスザクを落とすのは骨だった。


「修羅、たまにはワシの相手もせんと嫉妬してしまうであろ? 小狐の方は魔女を一人味方につけた。しばらくは持つじゃろうて、確実に撃滅していく。我ら鬼人に喧嘩を売った報いは受けてもらわねばな?」


 両手に奈々樹は大量の忍具を取り出すとそれを見た修羅は上品に笑った。そして同じく大量の忍具を取り出す。両手にどれだけの手裏剣やクナイを握っているのか……


「あらぁ、忍具の扱いが里で下から二番目に下手っぴな忍頭が私の技を使えるようになったのねぇ……月日は怖いわぁ」

「一番下手な忍は誰じゃ?」

「そんなの決まってるじゃない。忍頭以外の全ての忍よ」


 要するに忍具を使わせたら歴代右にでる者がいないと謳われた羅志亜忍軍四天王・修羅が唯一認める忍具使いが奈々樹だった。


「一撃でいくぞい?」

「承知!」


 スザクの両横にたつ奈々樹と修羅。そしてその過剰とも思える程の忍具を解き放つ。それは遠くから見ていたラウラは鉄の流星が煌めいたように見えた。全ての死角を狙い回避する場所がないそれにスザクは叫んだ。


「精霊よ! 私の魂をくらい力とせよぉ! うぉおおおお!」


 回りながらスザクは火縄を連射する。その一撃は面の砲撃。奈々樹と修羅の忍具をはたき落としていく。


「でも通ったわ!」


 スザクの体は炎で燃え上がる。その威力に忍具の力は奪われ、致命傷を与えるには至らなかった。

 体が燃えている。髪は燃え落ち、もはや人としての姿も強烈な炎の前に見えない。


「な……貴様。そんな事をすれば」

「死など恐れぬ。貴様ら羅志亜の忍を一人でも殺せれば、孫市様は……お喜びに! これは悪魔との契約なのだ。あの魔女とやら、私がこうなる事を私に教えぬつもりだったのだろうが、力を得るという事はこういう事だ。この身体朽ちる前に貴様ら二人を灰にしてやる」


 手裏剣もクナイもスザクには届かない。そして彼女は大炎の怪鳥として、二人に襲いかかる。


「速い! そして避けるだけでは皮膚がや枯れるな……」

「名前の通りになったわね忍頭。目の前で見ても信じられないわ……これが現実の出来事だなんて」


 手の中で遊ばせている二枚の手裏剣。それが修羅の最後の武器なのだろう。かくいう奈々樹も今持っている小太刀が最後の武器。


「さて、困ったの……このくらい困ったのはいつ以来かの?」

「今川の軍が私たちを軍門に降らせようとした時かしら?」


 国取りでもする程の勢いでそれは襲ってきた。羅志亜の力の大きさと天下統一においてその有用性をいち早く睨んだ今川義元。


「ははっ! あやつ、臆病じゃが中々の知将であったな。そして修羅を嫁によこせという」

「忍頭やめて、鳥肌が立つわ……私は女の子以外とは楽しめないの」

「それにしてもたった一人、妖になった者か、あれはワシらではなく源頼光でも連れてこんと倒せぬのではないか?」


 伝説上の人物、源頼光。様々な妖怪を倒したと子供の頃から話を聞いていたが、今まさにその現実を前にしている奈々樹と修羅。


「どうするの忍頭?」

「一旦、ラウラと合流かの?」

「じゃあ、少しだけ私が引き付けてあげるわ!」

「すまんな」


 奈々樹はラウラに隠れているように言った場所に走る。そこでラウラが随分疲れている様子なのに気づいた。


「ラウラ、大丈夫かの?」

「えぇ、この山。僕ら魔女の魔法力を少しずつ吸ってます……」

「魔法はあと何回使えそうじゃ?」

「一回……無理して二回かな」

「あの加護、もう一回ワシにできるか?」


 青い顔をしてラウラは「やってみます」と奈々樹に魔法をかける。そして奈々樹は服の中に手を入れるとそこから丸い団子のような物を取り出した。


「これを食え、滋養競争に良いものをたっぷり入れとる。唐辛子もな! それをかじって横になっておれ」

「は、はい……あの、奈々樹さん」


 ラウラはあの永遠に撃てる火縄を使うスザクについて奈々樹に策を話した。それは当然、当たり前のお話。


「何じゃ? 手短に、修羅も流石に一人ではきつかろうて」

「無限は存在しません。それは魔法も同じです。あの人は多分、いえ必ず終わりがきます」

「分かっておるよ。じゃが、それを待っておったら小狐達が手遅れになる。じゃから、この加護を使って捨身の相討ちを狙いにとな。これなら生き残れる可能性がグッと上がるからの」

「……やっぱり奈々樹さんは凄い。僕に考えがあります」


 ラウラの説明を聞いて奈々樹は自分を凄い人物だと言ったラウラに対して逆に尊敬の念すら感じた。魔女達の国ではその素質を誰も見出す事ができなかったのかもしれない……が、この戦国の世において、ラウラはその才覚を現し出していた。


「分かった。ワシと修羅で誘導する。頼むぞラウラ」

「はい!」


 ラウラの作戦は至って簡単。川や水源があるところに誘導。近くにある小さな滝にスザクを向かわせてラウラの魔法で水を操りスザクの炎を殺す。ただ、それだけではラウラの魔法が負ける可能性があるので樹海の中、開けた場所で連れて行き、スザクの炎の威力を空気に触れさせて大きく燃え上がらせる。スザクの炎の勢力をできるだけ殺し、その間にラウラは滝へ向かう。勢力を上げるだげあげ、炎を殺せるだけ殺して滝へ、スザクとの決着の場所へ、それがラウラの作戦。


「ワシら忍と同じくらい、魔女とやらは森の事を知っておるのだな……これはひとつやられたわ、旋風が起きる開けた場所で火を燃えがらせるか」


 修羅に作戦を話す。すると、修羅は口元だけ微笑む。その作戦に乗ったという事。実質忍頭は奈々樹だが、それに意見できる修羅が乗ったという事はラウラの考えた作戦は最善の一手だったんだろう。


「あのラウラ君。男の子にしておくのが勿体ないわねぇ、あの可愛らしい見た目で女の子だったら、ご褒美に天国を見せてあげるのに」


 そう熱いため息を吐くので奈々樹は片目を瞑ってから苦笑する。それに意味はないだろうと思いながらも奈々樹は言ってみた。


「ラウラは童貞じゃろ? 修羅の手で男にしてやってはどうだ?」

「冗談言わないで忍頭……あら、空気を読まずに来たわよ」


 スザク、轟々と燃えるスザク。その火の勢いは収まるところを知らないようにすら見える。だが、蝋燭がいつか燃え尽きるように、永遠はありえない。


「無限はまやかしか、ワシは心のどこかで、羅志亜の里は永遠に楽しくおかしく続いていくものだとそう考えておったがどうやらそうでもないらしいの」


 かっ! 奈々樹はスザクの前に姿を見せる。さすがは雑賀衆は孫市の側近だけあり、いい反応で奈々樹に狙いをつけて引き金を引く。


 ばん!


「ちぇい!」


 奈々樹は小太刀で火縄銃の弾を弾く。それももうあと何回か行えば小太刀の刃が死ぬ。相手は近寄れず、連射できる火縄銃を持つ。その為、開けた場所への誘導。


「雑賀の小僧、こっちよ!」


 残り二枚の手裏剣を右、左と投げつける修羅。スザクの炎の前に忍具は通じないが、スザクは反応し、火縄銃でそれらを撃ち落とす。修羅の武器はこれでなくなった。


「らしあぁああ! しねぇ!」


 バン! バン!


 修羅は転がりながらそれを避ける。そして武器を使う名人修羅は滝の近く、川が流れている場所の黒曜石を拾うと、適当に叩きつけて即席のナイフ、飛び道具を作りそれを牽制に投げつける。どれだけ体制を崩しても立て直し、目的遂行に動く。羅志亜忍軍、武器に長け、諜報、潜入において右に出る者がいない四天王の一人・修羅の働きに奈々樹は麦茶を飲んで呟く。


「つくづく敵に回したくないの、修羅は」


 そう言って奈々樹はピンと糸を引っ張った。

 ズガン! 発破の音、火薬の匂い。

 修羅ですら気付かない内に仕込まれていた罠を発動させる。松の木をスザクに向けて落としていく、松の油でスザクの火が強くなる。


「樹海がまるハゲになるわよ。本当、ウチの忍頭はやることが派手ね」

「修羅、足は残しておるか? あとはまっすぐ走るぞ!」


 そう言った直後には奈々樹は走り出していた。それについていく修羅。速い奈々樹。あらゆる忍術・体術・武器術を極めているまさに鬼人と言った奈々樹を見て、先ほど奈々樹が呟いた事をおうむ返しのように修羅も呟いた。


「ほんと、忍頭を相手にするより、マシね。魔女も、雑賀の戦人も……」


 スザクは二人がただ逃げているだけに見えていた。実際攻撃は通じない。二人をようやく追い詰めたとそう思った時……奈々樹と修羅が同じ場所に飛び込む。


「ここで終わりだ! らしあぁ!」


 同じく飛び込んだ場所は、ザーと雨のような音、否。滝が流れている。そこに木の杖を持った少年が何かを唱えている。


「今じゃ! ラウラ! ぶちかませぃ!」

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