第8話 忍術無双、忍の里に襲来せし魔女。有象無象の前に地獄を見る
「ラウラ、テトを連れて離れておれ、魔女とやら侍とどちらが強いか見せつけてくれるわ!」
シャコンと小狐は刀を抜く。
そして空中から小狐を見下ろすフェリシアを見つめながらラウラに尋ねた。
「
「小狐さん、ダメです! フェリシア姐さんは、魔女の中で逸脱して、リヒトに匹敵する強力な魔女です」
強いという事。
ならば小狐は燃える。未知なる力を持った魔女なる者を討つ事ができれば自分はあの戦場で恥じた事をやり直せるようなそんな気がして……刀の及ばぬ範囲にいるフェリシアに小狐は叫ぶ。
「降りてこい! 正々堂々と戦わぬか!」
小狐の言葉を聞いてフェリシアは口に手を当てて笑う。魔法を使えぬ原始人がわめているくらいに見ていた。
「ラウラ坊や、こんな世界にきて、弱小の魔法で何をしようというの?」
小狐を無視してそう言うフェリシアにラウラは叫んだ。
それは少しばかりの期待を込めて。
「フェリシア姐さん、僕はリヒトを止めたいんだ! 魔法は大々的に使ってはいけない、こんな魔法の使い方はおかしいよ! フェリシア姉さんはリヒトと一緒にいないのは、フェリシア姉さんはリヒトの考えに賛同しなかったからでしょ? 力を貸してよ!」
小狐はチッと舌打ちする。
ラウラは優しい世界で生きてきたのだろう。誰をも信じる事ができる素直で優しい人間。そしてそれは愚かだ……小狐にはこのフェリシアがどのタイプの人間がある程度把握できた。
それは忍として小狐が育てられてきたから人間の裏を読む、心を読む、それゆえ、このフェリシアという人間はおそらく自分の私利私欲の為にしか生きる事ができない醜悪な人間。
「ラウラ坊やは少し勘違いしているね? 私は確かにリヒトの魔女が統治する国を作ることには興味がないね。そして私はリヒト程ではないにしても十分な魔女としての素質を持っている。ラウラ坊やとは違ってね。だから私は次元の門を潜るまではリヒトに協力をした。後は自由にやらせてもらう。この世界には魔法がない。魔法があればこの世界の原始人は奴隷にできる。美味しい物を食べて、欲しいものを奪って、魔なる女。魔女らしい生き方ができるでしょ? 私は好きにさせてもらう。そして殺し損ねたラウラ坊やを見つけてしまったので、私は坊やをここで殺していく、はい問答終わり。そしてさようなら」
最悪だとラウラは思った。リヒトと別行動をしているフェリシアを仲間に引き入れる事ができればあるいはリヒトに対抗ができたかもしれない。が……そのフェリシアも結果としてはラウラの敵になった。
「どうしてフェリシア姐さんは僕を殺そうと言うの?」
「リヒトを止めにいくというのだろう? 無理だ。はっきり言う。私でもあれには勝てない。できない事をしようとする奴を見ていると反吐が出るんだ。リヒトの幼なじみか知らないけど、分をわきまえない子が私は嫌いなの。これで本当に話は終わり、さっさと死になさい」
ボゥと炎を手に灯らせ、それをフェリシアは投げる。
そんなフェリシアの魔法に対してラウラは両手を前にして魔法を凌いで見せた。
「小狐さん、テトちゃんを連れて、逃げて……僕は弱いからあまりもたない」
「馬鹿かラウラ、
小狐は少し嫌な顔をすると手裏剣にクナイを取り出しそれを空中にブンと投げつける。
もちろんフェリシアには届かない。
「ほんとお馬鹿なお猿さん。ラウラ共々燃え尽きなさい……あっ……」
一体何が起きたのかフェリシアにはわからなかった。背中が熱い。背中に触れる。
そこには小狐が投げたクナイと同じ物が刺さっている。どうして? 届くわけがないのに……
「全く、客人であれば麦茶の一杯は出してやるところじゃが、何者じゃ? 場合によってはその命、散らす」
高い木の上に腰掛けて
「お前か? お前がやったの?」
「そうじゃ、ぷかぷかと浮いて、鳥でももう少しマシじゃな。あまりにも間抜けなので手裏剣を投げて落としてやろうかと思うたが……吠える口はあるのじゃな?」
ピキっ……そんな音が聞こえたような気がした。
フェリシアのプライドに大きく傷をつけ、そしてフェリシアの判断力を鈍らせた。
「山猿の分際でェ!」
「忍からすれば猿に例えられる事、光栄じゃ! 魔女をなのるマヌケ女め」
完全に目の色を変えたフェリシアは空中から滑空して奈々樹を襲う。
もはや焦点すら合っていない。
「殺す殺す殺す殺す!」
奈々樹は突っ込んでくるフェリシアに向かって飛んだ。フェリシアの横を通り過ぎ、フェリシアが奈々樹を追おうとした時……奈々樹によって張り巡らされた糸結界。それに縛られるフェリシア。
「ほんと、面白いくらいうまく引っかかってくれるな。ワシ等が下等に見えることはまぁ構わん、実際忍よ。地位も名誉もあったものではないし、じゃが……戦いという事に関してはおぬしはど素人じゃな?」
フェリシアは言い返せない。こんな糸は魔法で切り裂けばいいと思った時、奈々樹は糸の先を持ったまま地上に向かって飛び降りる。普通の人間に助かる高さではない。が……奈々樹は地面ギリギリで浮いている。木に張り巡らした糸結界。それにフェリシアが引っ掛かったのを見ると、フェリシアを糸で縛るために、重りとして自分を使った奈々樹。地上に降り立ち、奈々樹が持っていた仕掛けにつながっている糸。
結果として……
「きゃああああああ!」
肉を骨を軋ませるその糸、何でできているのか切れない。さらに奈々樹のもう一つの忍術が炸裂する。
糸が反応したことで仕掛けられていた矢や忍具が大量に撃ち出される。身動きの取れないフェリシアはそれをまともに受けることになる。なんとか、なんとか致命傷を受ける前にフェリシアは自身の魔法力を暴走させて無理やり糸を、忍具を吹き飛ばす。
その代償は……大量の血液を失う。奈々樹と小狐は落ちていくフェリシアにトドメを刺さんと走るが、フェリシアは二人が到着した頃には人型の血溜まりを残して消えていた。
「とんでもない奴だの。あれだけの怪我をして逃げれるか……が、これだけ血を流したんじゃ、もはや助かるまい」
そう言って奈々樹が麦茶をこくんと飲む。後からやってきたラウラはその状況を見てこう言った。
「フェリシア姉さんは生きてます……多分身体強化の魔法をとっさにかけてなんとか助かっているんだと思います。身体を直したらフェリシア姉さんは多分、復讐にきます。今回とは違って本気で、全力の魔法で……逃げましょう! 里の皆さんにも知らせて」
ラウラが慌てているのを見て、奈々樹はひょうたんを差し出す。飲むか? という意思表示。それに小狐も同じような目でラウラを見つめる。
「見たでしょ! フェリシア姉さんは僕とは比べ物にならない魔女なんだ」
「あぁ、そうだな。ラウラの魔法は役に立つが、あいつの魔法は役にたたん。なら
信じられなかった。驚異の力、魔法。ラウラの世界ですら魔法を使えない者は魔法を見ると畏怖するというのに、二人は驚きはしても恐れていはいない。
はっ! とラウラは今見たことを思い出した。原始的な罠という仕掛け、されど、フェリシアは奈々樹の使う罠と兵法。そして彼女らの信じられない身体能力の前に撤退を余儀なくされた。
彼女らが使う戦闘技術、それを忍術と言う。そして小狐は刀が届かないから、空を飛びたいと言う。それは即ち、空を飛べれば、フェリシアを討てるという意味なのだろう。
「で、できますよ。小狐さんをフェリシア姉さんに届くところまで僕の魔法でも……でも、僕はそれ以上のことは……」
悔しい。もっと強力な攻撃魔法が使えれば、もっと強大な魔法力を持って生まれてきさえすれば……そんなラウラの葛藤やジレンマを奈々樹と小狐は簡単に振り払った。
「凄いの、ラウラは……」
「あぁ、これで
「うわっ! 小狐さん」
小狐はラウラに抱きついて、相棒になれという。それは男友達同士ならいいかもしれないが、小狐の柔らかい部分がラウラに触れてラウラは恥ずかしくて赤くなる。
「ダメ! ラウラはテトの婿になるのっ!」
そう言って仁王立ちの幼女。ラウラを救ってくれたという彼女、とても懐かれてしまった。何もできない。何にもなれないと言われた魔女。そんな自分をこの人たちは必要だと言ってくれる。
そんなラウラに最後の後押しをしてくれたのは奈々樹。
「ラウラ、忍の世界でも才能というものはあるの。どうしてもその忍以上の忍術は使えんというものはある。ワシとてそうだ」
「奈々樹さんが?」
「あぁ、槍術では甲丸に勝てぬし、手裏剣などの
「それが才能だろうが、嫌味なやつめ」
小狐が罰の悪そうに、そして少しばかり嬉しそうにそういうのでうなづく奈々樹。
「そうだの。努力という才能だの。だが一番強いのは心の強さだ。ラウラは勇気がある。ワシの可愛い里の者を守ろうとしてくれた。その心があればあやつに勝てる。ワシに小狐は魔法はない、じゃが、ラウラは魔法がある。ラウラは忍術がない。ワシらにはそれがある。合わせればどうじゃ? フェリシアに届くぞ。ワシらを道具と思え、そしてワシらもラウラの魔法を忍具と思う」
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