【完結保証】異界侵略の魔女と剣聖の忍軍。舞台は日いずる国・石山本願寺戦争。魔法と忍術にて見事いつか死ぬ為に相死相哀す
第16話 富士見旅行は籠に揺られゆらゆら菓子なんぞ食い、時折食後の運動に野党らば斬る
第16話 富士見旅行は籠に揺られゆらゆら菓子なんぞ食い、時折食後の運動に野党らば斬る
信長が用意してくれた長旅用の着物。
できる限り少ない人数で行動するという事。富士の樹海へ行くのは小狐と奈々樹とラウラ、そして果心居士。彼女は自らを夜鷹と呼ぶようにというので、皆はその名前で統一。
そして奈々樹は修羅を隠密で付けさせていた。
「しかし、テトがあそこまで駄々を捏ねたのは初めてだのぅ!」
奈々樹は思い出すとクスクスと笑って、籠の中で信長に渡された質のよい餅を
小狐がいつか食べようと買っていた秘蔵の飴を差し出してもヘソを曲げ、奈々樹があやそうとしてもそっぽを向く。そんな中で修羅がテトを諫めた。
「修羅姐はさすがだな。あんまり駄々をこねるとラウラに嫌われると言いよった。それにピタリと止まるテト。あれには笑いを堪えるのに必死だったぞ……全くチビのくせに色気付きよって!」
パンパンと自分の太腿を叩いて笑う小狐を見て奈々樹は同じくらいの歳のころ、この小狐は事もあろうに、将軍足利義輝相手に同じことをしでかしたのを忘れているのかと、麦茶をのみながら懐かしむ。
「なんだ奈々、
「いいや、懐かしい事を思い出しての、それにしてもテトには何か土産の一つでも買うてやらんと、良い子に将来の婿を待っておるからな」
ラウラは自分の話かとはははと笑うしかなかった。もう小狐も奈々樹もラウラを羅志亜の里の人間として迎え入れてくれている。それが嬉しかったり戸惑ったり……そんなラウラを眺めるのは夜鷹。
「どうしました? 夜鷹さん」
「魔女。異人と対して変わないらですから気になりましてね。何にでも素質という物があるのは重々承知ですけど、話によると羅志亜の里を襲った魔女と、ラウラさん。魔法の才能に天と地程の差があったとか? それはどういう? いまいち納得できないのですが」
夜鷹が言いたいことをラウラは少し考えてから、小狐達が茶を飲むのに使っている湯飲みや急須を指差す。
「魔法には持って生まれた力の容量があるんです。それは今皆さんが使っている湯飲みが僕や一般的に普通の魔女と言われる存在の魔法の容量です。そして、今回皆さんの世界を危機に招いている魔女達の魔法力の容量はこの籠と呼ばれた乗り物の広さくらいです。持って生まれた才能だけはどうしてもひっくり返せないんです」
フェリシアと戦った奈々樹と小狐だから、ラウラが自信を無くすのはよく分かる。あれほどの力を単独で持っていれば誰だってあのように力を振るう物なのかもしれない。されど、奈々樹と小狐は力を合わせ、足りない分は補えばいいとラウラに伝えた。
かたや夜鷹は違う。
「絶対的に届かないなら、何か道具を使って魔法力を増幅ないし、相手の魔法力を削ればいいじゃないですかい? 織田のお館様は相手の魔法を弱体化させる事を考えた。逆に言えば絶対は存在しないんですよラウラ君。諦めるのは全部やって無理だと思った時、みんなで汚い命乞いをして死にましょう」
夜鷹はラウラにまた別の方向から才能の差を埋める方法を提示した。ラウラは驚く。魔法なんて知らないハズの世界の人々が、自分とは違い、リヒト達強力な魔女に対抗する方法を考えている事。魔法を使える自分が何故かそれをしなかった事……それは信念の差なのだ。
「信長様は凄いですね。グリムガーデンにそこまでやられて尚、戦おうと言うんだ」
「信長公は、確かにワシ等とは違うな。見ている物が違う。どこかこの魔女の戦よりも先の……天下よりもその先を」
小狐は話が難しくなってきたので、お茶を飲んで横になり、饅頭をかじる。正直、織田信長のことなんてどうでも良かった。義輝の事を辱めるであろう魔女を殺し、この戦を終わらせ、皆と平和に……そんな事を漠然と考えていた小狐だったが、夜鷹の話は少しだけ興味深かった。
「お館様は、外に出たがっているようにお見受けします。異国の品々を集め、そして私のような異人に対しても対等に客人としてもてなし、そして今はこうしてこき使って」
クスクスとラウラに小狐が笑う。しかし奈々樹は違った。信長の目的とは……外の国々からあの会の虎にすら一目置かれている信長。
「恐らくは諸外国と商売、そして戦を考えているでしょう。信長公は日本内での小競り合いをしている間も世界は大きく動いている事にいち早く気付きました。そして此度の魔女襲来、それをえて確信したのです。日本は外の力にあまりにも無力であると」
奈々樹は呆れる。
戦、戦、戦。誰が始めた戦国の世か? 日本内が終われば次は外と戦をする。
「剛気な話だな。その時は
再び小狐がラウラにくっつくのでラウラは赤く染まる。あれだけ戦いの日々を送っているのに小狐は柔らかくいい匂いがする。
「二人は
それは冗談だったのだろうが、小狐はラウラと夫婦と言われて恥ずかしそうに俯く。それが嫌と言うわけではない事がラウラは少し嬉しかった。
「まぁ、ラウラにはテトがおるからな、よくて小狐も夜鷹も
テト、まだ六つかそこらの少女を嫁にすると言う話にラウラはあははとこの冗談には笑けた。
「テトちゃんと僕が結婚する頃には僕はもういい歳じゃないですか! テトちゃんは美人になりそうですけどね!」
これはラウラの冗談だったのだが、奈々樹は麦茶を一口のみ、小狐は真顔で、夜鷹はふむふむと何かを書き取る。
「ラウラの世界では違うのかもしれんが、テトは来年7つになる。十分嫁に行ける年齢じゃな。ここにおるワシらは生き遅れじゃ! カッカッカ!」
十六、七の少女達が生き遅れだと言う。
それにラウラは頭が追いつかない。テトはまだ幼児と行っても言いような見た目と年齢で、でも自分の世界にいた同年代の幼女よりしっかりとしている。
「本当に……?」
「7つは中々おらんかもしれんが、9つで十分嫁ぐ、11で子を産むの、女子はいつの時代も戦争の道具よ。ワシも小狐もの!」
ラウラはこの世界は優しい世界だと思っていた。でも自分の常識で考えると歪んでいる部分を感じる。それに黙っていると小狐はケッと悪態をついた。
「まぁ、
変な空気を変えてくれたのは、ぎゅんと止まった籠。中が揺れるので、小狐がラウラを、奈々樹が夜鷹を支える。
「奈々樹丸殿、かたじけない」
「いえ、夜鷹さんは学士じゃからな。ここで一番守らねばならん。その為のワシらでもある。しかし、なんじゃ?」
籠ごしに、修羅の声が聞こえる。
「頭領、賊です。私たちの前を行っていた商人の荷馬車を捉え、不運な事に娘っ子を連れていたようです。どうします?」
ラウラはいきなり事件が起きた事に気が動転しそうになった。賊と言うのは物取りのような悪い奴なんだろう。奈々樹達が籠から降りるので、ラウラもつられて降りた。
「……えっ!」
盗賊のような連中を想像していたが、少し薄汚れてはいるが、甲冑をきて、刀に槍に、明らかに軍隊のような連中。
「戦働きをする侍崩れどもか……」
とるに足らない連中を見ているが、籠を運んでいた侍達は刀に手を当てて様子を伺う。
「いやあああああああ!」
商人の娘が男達に連れ出され、帯を切られる。商人は俯き、なす術もない。ラウラは奈々樹達ならすぐにでも助けに行くとそう思っていた。なのにその様子を眺めているだけ、ラウラの正義が駆け出そうとした。
「ラウラ、助けたいかの?」
「当たり前です!」
「まぁ、あのままだと娘は犯され、使われ、よくてどこかに売られるか、悪くて死ぬかじゃな。ワシ等も正義の味方を振舞うつもりはなくての、奴らの返答次第じゃ」
ツカツカと、下駄の音を鳴らして奈々樹は侍崩れ達の前に立つ。
「貴様らぁ! あとがつっかえておる! 道を開けぬかぁ! 開ければ命も今やっている事も見逃してやろう」
そう言う奈々樹に注目。
奈々樹も小狐も、なんなら夜鷹もかなりの美人。その中に超美人と呼べる修羅も身をはだけてやってくる。
それで興奮している男達が道を開けるわけがない。
「上玉が四、いや五人だ!」
ラウラは最初分からなかったが、自分に熱い視線を送ってくる男達。自分に指を刺すとうなづくので叫んだ。
「僕は男ですヨゥ!」
「構うもんかぁ! 穴があってべっぴんならなんでもこい!」
小狐が饅頭をもう一つ頬張ってから駆けた。かけ側に籠を運んでいた侍二人の刀を抜く。
「衆道とか言うやつか?
十四、いや十五人の侍崩れに小狐は舞うように斬りかかる。喉を刀で刺して抜けなくなったらその刀を捨てて代わりに殺した侍から刀を奪う。
「この小娘がぁ! 手癖が悪ぃな! 両腕裂いてから、たっぷり可愛がって……あっ? あ……」
小狐に槍を向けようと思った男は両目に頭にクナイが刺さり、自分が死んだことすらも分からない。
奈々樹は針を取り出すと侍崩れに言う。
「もう、ぬしらは逃げられない。ワシら、鬼人の通る道を塞いだのじゃ! 鬼門を踏んだ者の末路、知らぬわけでもあるまい?」
ラウラは驚いた。一方的、圧倒的に三人は侍崩れ達を殺害してのけた。
何の躊躇もなく。震えているラウラに夜鷹は言う。
「殺さねば殺される。私も初めてこの国ルールを見たときは驚きましたがね……あれが魔女狩りをする連中ってことですね」
獰猛さ、勇敢さ、確かにラウラが追ってきた魔女達に通じる物がある。そしてそれが忍者と呼ばれる存在なのかとようやく再認識した。
奈々樹達に土下座をしてお礼をいう商人。そして修羅に着物をきちんと直してもらう娘。
「あ、あのありがとうございます! お侍様っ!」
小狐は女物の着物を着ているが、胸にさらしを巻き、男顔負けの動きで戦っていた為、美しい少年剣士に娘は勘違いしたのだろう。
「おう。怪我はなかったか?」
「はい!」
小狐にぴったりくっつく商人の娘、このまま抱いてくれと言わんばかりに小狐に好意を寄せているが、その当人である小狐は商人の扱う品を見て言った。
「ちょうど良い。奈々、テトの奴の土産をこうて行かぬか?」
商人は幼女への土産と話をすると、これまた極上の人形を持ってきた。瞳が人間のそれのようで美しい。
「異國の人形職人がこちらの人形師の元で修行した際に残した名品でございます。どうぞお嬢様へのお土産に、お代は結構です。命と娘と品々を守っていただきましたから、はい」
その綺麗な人形を受け取り、奈々樹達は再びカゴに戻る。少しばかり商人の娘が小狐についていくとごねたが、小狐がそれをさとし、また遊びに行くと行ってことなきを得た。
富士の樹海へまではまだまだ先が長い。
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