俺と君の復讐譚 ~いじめられている俺と追放された彼女で始める復讐生活~
@tokoroten7140
第1話 いじめられている俺と追放された彼女
「こいつ、うけるんですけどぉ」
くすんだ金髪ギャルの
俺はバランスを崩してその場に倒れこんだ。
もちろん他のクラスメイトが助けてくれるはずもない。
いつも通りの学校での日常。
そう、俺はいじめられている。
「もう、無理です。僕、限界……!」
「ふざけんなよ! 登録者数15万人の俺たちがぁ! てめぇみたいな陰キャを使ってやってるんだから! 動画にも出演させてやったろ! それなのに、何もネタがないだぁ? 調子乗ってんじゃねぇの?」
筋肉だるまで金髪オールバックの
「がっ、あ、ああ」
息が、できないっ。
「暴力はだめだよ。いくら彼が約束を破った嘘つきでもね」
この陽キャグループのリーダー
「僕は、はぁはぁ。これ以上ダンジョンに潜ってネタを探すなんて無理ですよぉ」
現代に突如現れたダンジョン。
配信者にとって格好のネタだった。
それは目の前の学生My Tuberグループも例外じゃない。日々再生数を稼ぐためにネタを探している。俺はそのネタ探しを強制されている。
「仲野君。無理という言葉は嘘つきの言葉なんですよ。僕たちは君を動画に使ってあげる。君は顔を広められて登録者数を増やせる。その代わり君は僕たちにネタを提供する。契約違反はよくないなぁ」
「そんなこと、僕は望んでないです!」
たしかに彼ら四人グループの人気チャンネルにゲストとして出演してから俺のチャンネル登録者数は百人を超えた。
けどそんなこと俺は望んでいなかった。
ただ小銭稼ぎをしていただけだった。
気ままに動画を投稿しているだけでよかった。
なのにいつのまにか俺は四人のパシリになっていた。日常生活はもちろん、4人のチャンネルの雑用も俺がさせられている。
「はぁ? うちらのチャンネルに出演するのが不満なの? あんた何様のつもりぃ?」
姫宮の暴力といっていいほどの攻撃的な視線にさらされて、俺は何も言えなかった。
「調子乗るんじゃねぇよ!」
剛野が軽く叩いただけで机は木っ端微塵となる。
「ひっ」
俺は怯えることしかできなかった。
登録者数は絶対。社会的な地位と常人では持ちえない力を得る。
この教室で四人に逆らえる生徒はいない。
「とりあえず期限はもうすぐだ。今日にでもダンジョン潜って何か面白いネタ探しておいてね」
上辺の声音はやさしいし、物腰は柔らかい。
だが、その言葉の内容は残酷だった。
「わかりました……」
僕はうつむきながらそう答えるしかなかった。
「わかればいいんだよ。今日中に頼むよ」
三人は教室から出ていく。
やっと終わった。そう思っていたら四人グループの最後の一人、野呂美都が俺をじっと見つめていた。
いつも何も言わずに、こうして俺を見るだけ。
「なんでしょうか?」
こうして話しかけるだけで逃げていく。俺と目を合わせるのさえ、嫌っている。
最初はショックだったけどもう慣れた。
これが俺の学校での日常。
助けてくれる人なんていない。
「もう疲れちゃったよ……」
※※※※
「あの! 三人ともちょっと話がある、の。いい?」
私は勇気を振り絞って三人に話しかけた。
「なんだい、美都?」
美香の不機嫌そうな視線が突き刺さる。
ここはダンジョンの中。油断はできない。
けど、ここなら他の人はいない。だから、言いにくい話も遠慮なくできる。
「さっきの、ことだけど……」
やっぱり怖い。
けど、このままじゃ間違ってると思う。
みんないけない方向に進んでる。だから言わなくちゃいけない……!
「は? さっきって?」
美香は興味なさげにスマホに目を落とす。
「
緊張で言葉がとぎれとぎれになっちゃう。いや元からなんだけど……。
「あの陰キャパシリ君がどうしたってんだよ? あんな奴の話なんざ興味ねぇよ!」
剛野君がスライムを叩き潰す。
ひぅ、と変な声が出ちゃう。でも大事なことだ。しっかりと伝えなくちゃ。
「あれはだめだと思うの! いじめはよくないよ! 私たちならあんなことをしなくてもやっていけるっ。それに」
「それに、なんだい?」
三人の目が笑ってない。
冷たい。
けど負けたらだめ。
「それに最近の活動も、そう。炎上をネタにしたり、勝手に人を捕まえて警察に連れて行ったり。人を陥れて活動するのは間違ってると思うの!」
ずっと思ってた。
最初はそうじゃなかった。みんなで工夫して楽しそうな動画を撮って投稿する。それだけだったのに。
どうしてこうなっちゃったんだろう?
けど泣いてるだけじゃ変わらない。
友達の悪いところを言う。間違ってたら、そう伝える。友達だから、勇気を出して言った。
でも。わたしはどうやら間違ったみたい。
「何が間違ってるって? 悪い人を捕まえることはいいことだ」
「炎上をネタで再生数稼ぐの楽だからいいじゃん。みんな喜んでるしぃ」
「陰キャパシリは学校に誰一人友達がいねぇから俺たちが話してやってんだよ。いじめじゃねぇから!」
言ったら直してくれる。友達だから、聞いてくれる。そう思ってたのに。みんな、私の話を聞いてくれない。ううん。ちがう。誰も自分が悪いと思ってない。
どうしたらいいの? どうしたらわかってくれるの?
わからない。
もっと考えて言ったらよかった。いつもそう。私は間違えてばっかりだ。
「けど!」
だからといって引けない。このままじゃ私たちは破滅してしまう。
それに、これ以上苦しんでいる仲野君を見てることなんてできないから。
「うざいんだけど。気に入らないならやめれば?」
初めてだった。
初めてできた友達に、本気で睨まれた。
「あ、ああ……」
言葉が出ない。
「そうだね。僕たちの活動を理解できないなら、君はもういらない」
「前からどんくさいと思ってたから、すっきりするぜ」
きゃははは、と美香が笑う。
「あんたいらないってさ! 私も邪魔だってずっと思ってたんだよねぇ」
目の前が真っ暗になる。
手が震えて、心臓の鼓動がうるさい。
「だったら、私は抜けるから。だから仲野君へのいじめだけはもうやめて」
これだけは言わなくちゃ。
必死にこの言葉だけをひねり出した。
「はぁ? 何言ってんの? いじめてないし。あいつが勝手にやってるだけだし。あんまし口だすんなら……」
「いいよ」
「へ? なんでなの? 正義?」
「今まで一緒に活動してきたよしみだ。それに彼の代わりならたくさんいるからね」
「そうだぜぇ! 俺たちの活動を一番に応援してくれる信者どもがたくさんいるじゃねぇか」
「そっかぁ。レオセクタさんとか良い情報いっぱいくれるしぃ。あんなぼっち陰キャいらないよね」
私は涙を流すしかなかった。そんな資格はないのに。私もいじめを黙認してきた共犯者だ。だけど、今は涙が止まらなかった。
「何泣いてんの? きっもー。ねぇ、もう行こ。お金稼がなきゃ」
「そうだね」
「シャー! 狩りまくるぜぇ」
三人が離れていく。
私はもうどうすることもできなかった。
「あ、そうだ! いいこと考えちゃった」
だから美香が意地悪そうな顔をしてスマホをいじっているのに、まったく気づいていなかった。
※※※※
これは罰だ。
「情報通りだ。ちょっと陰気くせぇが、ヤれりゃあ問題ない」
ここはダンジョンの1260階層。決して浅くはないが深くもない。中途半端な階層には人が少ない。
だから犯罪がはびこる。
私は襲われていた。
見知らぬ男の手が私を蹂躙する。
「いや! やめて! いやぁぁぁあああ」
抵抗した。でも心の中では半ば諦めていた。
いじめからずっと目をそらしていた。加担したも同然だ。そんな行為に手を染める友達を止めることもできず諦めてしまった。
これはそんな私への罰だ。
「生女子高生のストリップ配信ですよー! 今からヤっちゃいまーす! よし。こんな感じで動画はオッケーと」
服は破かれ、怯える私を下品な笑みで見る男。片手にはスマホを持っている。
「やっぱり持つべきは良き配信者仲間だな。ダンジョンで何にも力を持ってない女子高生がいる情報が手に入るなんて。本当にラッキーだぜ」
誰がそんな情報を流したのか。
そんなことを知っている人間は限られている。
わかってるけど、わかりたくない。
私はすでに友達から追放された。My Tubeのアカウントを持っていない。アカウントがないとダンジョンでは力を使えない。
もう一つアカウントは持っているけど、切り替える暇なんて与えてくれない。
「わかってた。私が嫌われてるのは。わかってたけどつらい、なぁ」
「つらくなんかしねぇよ。今から極上の快楽をお前に味合わせてやる」
にやにやとした男の手が伸びてくる。
突如その男の腕が斬られた。
「ぎゃあああああああああああ」
男の悲鳴がダンジョンに響き渡る。
「誰?」
そこにいたのは、全身黒いコートを着た謎の人物だった。
般若の面をかぶっており、男か女かもわからない。
その手には二本のナイフが握られていた。
「その女に手を出すな。俺の計画が狂う」
「何言ってんだよぉぉぉぉぉお!」
男は銃を取り出した。
スマホに指を走らせ、弾を装填する。
『
無機質な機械音と共に発砲音が鳴った。
直後、キンという音が響く。
「遅ぇよ」
「クソ! クソクソクソ!」
続けて男が銃を撃つがことごとく斬られる。
銃がだめだったら接近戦を挑む男。だが、銃弾すらよける謎の人物に生半可な接近戦では話にならなかった。
「まさかお前、アカウントを起動してない?」
「お前ごとき、力は必要ない」
男は茫然としていた。
ダンジョンではアカウントの登録者数がレベルのようなものだ。
アカウントを起動していないということは、レベル0も同然だ。
「ありえない、ありえないありえないありえない……!」
男の顔が恐怖で歪む。それも当然だ。
登録者数が増えたアカウントの力による身体能力の強化があったら、まだわかる。一般人と何も変わらない身体能力で銃弾を斬る。
ましてや渡り合っている。信じられない身体能力と戦闘技術だった。
「登録者数を覆す戦闘技術。般若の面。お前、まさか運営の
聞いたことがある。
現代にダンジョンを作り出した謎の運営。
その運営がアカウントBANを依頼している最強のダンジョン配信者。
違法な配信を続けている配信者を狩る異端の存在。
「あ、あああ……」
「そうだ。その表情だ。てめぇのようなクズが絶望して恐れおののく。そしてこういう時の反応はいつだって決まっている」
「助けてください! もう悪いことはしません!」
「だーめ♡」
謎の人物がナイフで男のスマホを切り裂く。
「そんな俺のスマホがぁ!」
「あなたのアカウントはBANされました。今までのご利用ありがとうございます――ククク……。あははははははは!」
ここはダンジョン。アカウントなしに脱出することは不可能に近い。
謎の人物の高笑いが響き、男の命運はここに尽きた。
私はこの光景を茫然と見ていることしかできなかった。
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