第16話 V tuberの一日 夕方 コラボ編①  こんな臭くて大きいのがわたくしの中に入ってしまったら、どうにかなっちゃいますわ!


 朝の激闘を制し、俺は眠そうな野呂さんを引きずって学校へと向かう。

 途中から別行動だ。一緒に仲良く登校なんて勘ぐられそうだから。

 学校でも昼食以外は基本的に互いに干渉しない。

 あと陽キャ三人からのいじめはなくなっていた。

 クラス内での俺はまだ腫物扱いだけど、だいぶ楽になった。

 

 そして放課後。 

 今日は他の配信者さんとの生放送コラボだ。

 野呂さんは一人じゃ無理と僕の足元に縋り付いてきた(実話)から今日は俺も一緒に来ることとなった。


「今日のコラボ相手は誰なの?」

「ダンジョン攻略部という人たち」


 知らないな。

 スマホで軽く検索したら登録者数は1万5千人程。

 多くもなく、少なくもなくといったところか。

 ただ真面目に活動しているようで、驚くことにほぼ毎日投稿している。

 

「どうしてコラボすることになったの?」

「私、が面白そう。と思ったから」

「大胆なことするね」


 女性一人で相手は複数人の男子で結成されている。

 俺と同類の陰キャである野呂さんにしては思い切った行動だ。

 野呂さんは配信者としての行動力はすさまじい。


「わたくしがついているんですもの。問題ありませんわ!」


 自信満々な白鶴ちゃん。


「そういえば、配信はどうやってするの?」

「今回は白鶴にお願いしようと思って、る。適宜どんなことをするかは私が、指示、する予定」


 なるほど。今日は口パクせずに済むから白鶴ちゃんは上機嫌なのか。

 野呂さんがほくそ笑む。

 あ、なんか嫌な予感がする。


※※※※


 そして俺の嫌な予感は当たった。

 

「あ、あ、ああ……!」


 白鶴ちゃんの表情が強張っている。

 ぷるぷると顔を横に振り続ける。


「こんなの無理ですわ。わたくしの中にはとても入りませんわ」

「大丈夫。みんな最初はそう言う。けど、これは必要なことだから」


 ダンジョン攻略部のお兄さんがやさしく白鶴ちゃんに促す。

 今、俺たちは挨拶を早々に済ませてすでに動画の撮影に移っている。

 俺はカメラで二人を撮影。

 で、白鶴ちゃんに指示を出している野呂さんなのだが。

 嫌がる白鶴ちゃんにノリノリで「ヤっちゃえ、白鶴!」とインカムで指示を出している。

 うわぁ、ひとかけらの慈悲もねぇ……。


「こんな、こんな臭くて大きいのがわたくしの中に入ってしまったら、どうにかなっちゃいますわ!」

「大丈夫。最初はみんなそう言う。でも慣れれば気持ちいいから。それがクセになるんだ。そうだ。最初は怖いと思うし、僕が手伝ってあげるよ」


 ダンジョン攻略部のお兄さんはやさしそうな見た目をしているが鬼畜なことが判明。その手を白鶴ちゃんにゆっくりと近づける。


「いや、わたくしが汚されてしまいますわ!」

「ふふふ、大丈夫。怖いのは最初だけだから」


 野呂さんは興奮気味に目を輝かせている。


「復讐のため。仲野くんのためには再生数を稼がない、と。白鶴は仲野くんの役に立ちなく、ない、の?」


 うわぁ。追い込み方がエグイ。

 もう泣く寸前の白鶴ちゃん。

 正直、そんな白鶴ちゃんもかわいいが、哀れで仕方がない。

 それに他人事だからと言って、あまり調子に乗っていると自分に返ってくるからあまりノリノリなのはよくないと思うな。


「うぅぅ……。でもこんなの。こんな超ニンニクマシマシニンニクだけのニンニク焼き豚丼なんて食べたら、わたくしもう外を歩けませんわぁ!」


 今白鶴ちゃんの前に差し出され、食べることを強要させられているのは超特盛のニンニク焼き豚丼だ。

 ご飯の上に刻みニンニクが隙間なく敷き詰められ、その上に極厚特大の焼き豚。さらに肉の周りには丸々と大きい生のニンニクがまるでお花畑のように隙間なく盛られている。最後のとどめに再びニンニクチップスが山となって焼き豚の上に積み上げられていた。

 たしかにこれはやばい。


「でもダンジョン攻略のためには必要なことなんだよ。これから入るのは吸血種のダンジョンだ。その吸血種に効くのはニンニク。そのニンニクをより多く摂取すれば攻略がかなり楽になるんじゃないか。それが今回の企画の趣旨だからね」


 ニンニクを大量摂取すれば、誰でもダンジョン攻略ができるというコラボ企画となっている。

 正直頭がおかしいんじゃないかと思う。

 あとこんなことしたら確実に腹壊しそうだから俺は絶対に食べない。 

 けど食べているところを見るのは楽しい。

 この臭さに耐えられればの話だけど。

 ちなみに野呂さんは直前まで白鶴ちゃんに規格の趣旨を直前まで隠していた確信犯である。


「わかり、ましたわ」


 ぱぁと満面の笑みを浮かべる野呂さん。

 次の瞬間に地獄へと叩き落されることとも知らずに。


「でも一人じゃ怖いから、そこのインカムで偉そうに指示を出しているサポーターが一緒に食べるのならわたくしも食べますわ!」


 一瞬で野呂さんの顔が青ざめる。

 どうやらこの展開は予想していなかったようだ。


「それは名案だね」


 お兄さんもノリノリである。

 ちなみにお兄さんはもうすでに間食している猛者だ。


「あ、あ、あ」

「もちろん、動画のためですもの。食べてくれますわよね」


 にちゃあといやらしい笑みを浮かべる白鶴ちゃん。

 一気に立場が逆転した。いや、実際には一緒に地獄に落ちるだけなんだが。


「くっ。わか、りました。食べます……」


 煽っていた手前、断れない。

 

「カメラマン君もよかったら一緒にどうだい?」

「あ、僕は結構です。カメラを取るのに集中したいんで」


 野呂さんに恨みがましく見られたが、知らない。

 俺だけはなんとしてもこの地獄から無傷で帰ると確固たる意志で、地獄の誘いを断った。

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