第15話 V tuberの一日 モーニングルーティン編
復讐のための配信者活動の日々が始まる。
俺はサポートだ。
家事ができない二人の生活を支える。
俺に配信はできないからな。
朝の5時に起床。
「ふぁ!?」
まず立ちふさがるのはベッドに入り込んできている白鶴ちゃんだ。
「おはようございますわ……」
寝る時は浴衣姿だ。
白鶴ちゃんが体を起こすと着崩れして、なまめかしい肩が見える。
大きな胸の谷間は芸術的ですらある。
だめだ。男子高校生には刺激が強すぎる。
「え? は? どうして!? なにゆえ!?」
「照れててかわいいですわ。触ってもいいんですのよ」
エッチすぎる。だが俺は模範的なオタク。推しに手を出すなど愚の骨頂。
鋼の意志でベッドから飛び出す。
「あら残念」
そう。俺は模範的で良いオタク。
白鶴ちゃんのいつもと違う衣装でテンションなんか上がってないし、布団から見える生足を凝視などしていない。
とてもきれいだなんて思ってないんだからな!
「美々さんは、もうちょっと寝ててください!」
「もうわたくしにも敬語じゃなくていいと言ってますのに……」
「それはだめです」
推しとは一定の距離を保たないといけない。
あまり近い距離になりすぎつといろいろと俺が持たない。
「むぅ」
むくれる白鶴ちゃんを強引に振り切って部屋の外に出る。
自分の最低限の身支度をしたら、次はキッチンに向かう。
あの二人にはキッチンの立ち入りは禁止している。おかげでキッチンの平和は今日も守られている。
さて弁当作りと朝食、あと夕食の下準備を開始だ。
「よしできた」
朝はごはん、鮭、みそ汁。
お弁当は冷凍食品も使ってさぼらせてもらった。
夕食は帰ってから本格的に作るから鳥肉を調味料につけて、野菜を切ったりとできる準備だけは済ませておいた。
大変なのは料理の次の工程だ。
「野呂さん、もう朝だ。7時過ぎたから学校の準備しないと遅刻しちゃうよ」
当然、返事はない。
仕方ない。踏み込むしか、ない。
最初は自分の家とはいえ、一緒のクラスの女子の部屋に踏み込むことはためらわれた。だが数日一緒に暮らしてわかった。野呂さんは絶望的に日常生活が終わっている。
「今日もか……」
意を決して部屋の中に突入する。
そこにはすやすやとベッドで寝間着を着てすやすやと眠る野呂さんの姿があったら良かったなぁ。
パジャマじゃなく私服。ベッドではなく、なぜか床に大の字になって転がっている。配信機材はそのまま。頭にはヘッドホン付けっぱなし。パソコンも起動しっぱなし。救いは配信は終了しているところか。
もう俺は野呂さんを女子として見れていない。
ただのだらしないおっさんである。
「野呂さん、起きて!」
昨日も夜遅くまで動画の編集作業をしていたのだろう。
今のところ毎日動画投稿や生配信はしている。
それがどれだけ大変かは、この一週間ほど見てきてわかった。
でも、さすがにこの有様は擁護できない。
せめて布団で寝てくれ……。
「ふへへ。2億人も友達ができたよぉ。これでもう便所飯からも卒業。休み時間に寝たふりをしなくてもいいんだぁ。みんなで青春を謳歌するんだ……」
悲しい。そして哀れだ。
ていうか幸せな夢から覚ますのに滅茶苦茶抵抗感あるんだが。
俺は覚悟を決める。
「あ! 野呂さん! 配信切り忘れてる! 全世界に野呂さんの醜態がさらされてるよ!」
「ふぁあああ!?」
野呂さんがすぐに起きた。
やはりこの手に限る。
「2億人の友達は?」
「そんなのいないよ」
「私の、青春は?」
「さぁ?」
「今日も便所飯?」
「僕が一緒だから、ぎりぎり一人じゃないね」
「どうしているの?」
「もう学校の時間だから」
沈黙。
野呂さんがだんだんと事態の把握をし始めた。
時計を見る。俺を見る。寝ぐせでぼさぼさの髪を触る。最後に鏡に映る自分の姿を凝視。面白いくらいみるみる顔が青くなっていく。
「あ、ああ……」
「今日こそは自分で起きるって言ってたけど。無理だったね」
「うわぁぁぁぁあん」
俺はにっこりと笑って部屋の外に出る。
これが、ここ一週間の俺の朝のモーニングルーティンだ。
……疲れた。
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