第14話 V tuberの配信の裏側 配信者として大切なこと
今は夜の7時。
魔物に襲われ、ボス部屋を占領してたやつらとも戦った。
おかげで当初の白鶴ちゃんの生活費という問題はクリアされた。
俺と白鶴ちゃんはへとへとだ。
もちろん野呂さんも疲れていたはずだ。
けど何を血迷ったのか帰宅後、雑談配信をし始めた。
ダンジョンには夕方まで潜っていたから、かれこれ3時間ほど配信をしていることになる。
はっきり言おう。
ダンジョン潜った後、疲れた体で3時間配信はやばくないか?
まぁ、白鶴ちゃん推しの俺は見るんだけれど。
でも俺はその配信中、どうしても気になることがあった。
どうやって配信しているのか?
だってモデルである白鶴ちゃんと中の人である野呂さんは別々の存在に分かれてしまった。
気になって気になって仕方がなかった俺は、俺だけの禁断の特権を使ってしまう。
配信中の野呂さんと白鶴ちゃんを見に行くことだ。
目の前には客間の扉。
二人の私室として一階の客間を使ってもらっている。
扉から少し声が漏れている。
さぁ、はたしてどうなっているのか……。
配信に音が入ったり、カメラに映ったら洒落にならない。
白鶴ちゃん推しにあるまじき行為。
けどやめられない、止まらない!
だって推しの配信の裏側を見られる機会なんてないじゃん!
見られたら、みんな見るだろ? そうに違いない!
さて、自分を納得させるための理論武装は完璧だな。
ゆっくり扉を開ける。
そこには笑撃的な光景がそこにあった。
カメラの前で必死に口パクをする白鶴ちゃん。
カメラ外でマイクに向かって好き勝手に喋り続ける野呂さん。
白鶴ちゃんと目が合う。
白鶴ちゃんの目が必死に助けを求めてきた。
助けて! と。
あまりにも不憫だった。
白鶴ちゃんが独自に意思を持ったことがばれたらまずい。下手すれば炎上案件だ。そのための苦肉の策なのだろう。
野呂さんの話す内容に合わせて口パクをし、野呂さんの喜怒哀楽に合わせて表情を変える。
その努力に泣いた。
白鶴ちゃんの助けを求める視線に対して、俺はサムズアップで返す。
そしてスマホで配信画面を開いてコメントする。
『今日はいつまで配信の予定ですか?』
「うーん、決めてませんわ。本日、来てらっしゃるのは4人だけですし、皆様の時間に合わせますわよ」
来た!
これで白鶴ちゃんを救える!
白鶴ちゃんもやっと解放されると満面の笑みだ。
他の3人は特に希望はないらしい。
あとは俺がコメントをするだけだ。
コメント内容は決まっている。
『じゃあ0時まで!』
「わかりましたわ!」
元気よく答える野呂さん。
今は19時。つまりあと5時間、白鶴ちゃんは口パクと表情を作らなければならない。
一瞬、白鶴ちゃんの表情が絶望で固まった。
ごめんね。
俺は白鶴ちゃんの雑談配信は8時間聞かないと満足できない体なんだ。
こうして、白鶴ちゃんの死亡が無事決定した。
※※※※
「二人ともお疲れ様」
配信が終わって、野呂さんは満面の笑みだ。
対して白鶴ちゃんは精魂尽き果てたようで横たわっている。
ただ、俺を見つけて恨みがましく睨みつけてくる。
「白様、恨みますわ……」
「ごめんね。けど白鶴ちゃん推しの俺に助けを求めるのは間違ってると思うんだ」
「うぅ……。こんなことなら復讐を手伝うなんて言わなければよかったですわ……」
あの陽キャたちに復讐する方法は、あいつらより登録者数を増やして見返してやること。そのためには一人でも多くの登録者を集めなくちゃならない。
「でも、二人とも本当にすごいね」
夜食のおにぎりを二人に手渡しつつ、今の配信の感想を伝えた。
「どこ、が……?」
野呂さんはさっきまでの白鶴ちゃんになりきっていた話し方とは打って変わり、いつも通りに戻っていた。
「だって雑談配信見てた人って、俺含めてたったの4人だった。それなのにこんな長時間配信できるのはすごいよ」
「そう、かな?」
野呂さんは本当に不思議そうにしている。
自分のすごさに自覚がないようだ。
「こういうのって人が集まらないとやる気が出ないと思う。僕も少し動画出してからわかる。再生数が10にも満たないことがざらだったからやる気でなくて、すぐに動画出すのやめてた。だから4人しか配信に来てないのにあんな長時間配信できる野呂さんはすごいって思ったんだ」
普通なら集まりが悪いからすぐに配信を停止してしまう。
どうしても打算を考えてしまう。
「別にたいしたことじゃ、ない。ただ見ず知らずの私の話を聞きにきてくれる人がいる。楽しそうに反応してくれるのはそれだけですごい、ことだと思うから……。私、あの三人が友達になってくれるまで一人も友達がいなかった。だから一人だけでも話を聞いてくれるなら、それだけで、私はすごくうれしくて楽しい……」
配信者はどうしても視聴者を数字で見てしまう。
登録者、高評価、再生数。
ネットで顔を合わせないからこそ数で判断して、軽視してしまう。
本当は一人でも見ず知らずの人が集まってくれる。それだけですごいことなんだ。たった4人だけ、ではない。4人も見ず知らずの自分のために来てくれた。野呂さんはそういう考え方ができるんだ。
「野呂さんは良い配信者だね」
承認欲求や数字に惑わされない。
それは誰にでもできることじゃない。
少なくとも俺にはできない。
「……あり、がとう。今日のダンジョンでの仲野くんもすごく恰好、よかった……」
仲野さんが顔を真っ赤にしながら言った。
明らかに人を褒めなれてないぎこちなさがまたかわいかった。
「一番頑張ってすごいのはわたくし! ですわ! ボスも倒して8時間も美都の雑談に合わせたんですのよ! もっと褒められるべき!」
「うんうん。そうだね。えらいえらい」
頭を撫でるとえへへとご満悦だ。
そんな二人を見ているととても胸が苦しくなる。
白鶴ちゃんは俺にまっすぐな好意をぶつけてきてくれる。
野呂さんは配信者として楽しんでいる。
俺はそんな二人を復讐の道具として利用している。
提案してきたのは野呂さんだ。けど、利用していることには変わらない。
そんな後ろめたさが俺の胸を突き刺す。
でももう遅い。
復讐は始まった。始まったものはもう止まらない。止められない。
だから俺は……。
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