第12話 修羅勢無双


 DPF。ダンジョン治安維持部隊を騙った男を倒してボス部屋に入る。

 入った先は体育館ほどのだだっ広い空間だった。

 そこには手負いのボスと戦う四人のダンジョン配信者たちだった。

 もちろんDPFのような正式な装備なんかしてない。

 ただ独占を狙う無法者たちだ。


「やっぱり。本物のDPFが来るまで待った方が……」


 野呂さんは俺を巻き込んだことを後悔しているようだった。


「大丈夫。それにもう手遅れみたい」


 なぜなら「ひゃあ! ボスですわー。金と再生数いただきですわぁ!」と約一名が突貫してボスを横取りしてしまったのだから。


「あーあ」


 せっかくの奇襲のチャンスが台無しだ。

 でもいい動画はとれた。

 タイトルはボス独占してたやつらから横取りした、とかだろうか?


「白鶴……! 焼き鳥にした方がいい、のかな?」

「やめたげて。たしかに推しとはいえ、あれは擁護できないけどさ」


 二人で呆れていると独占していた配信者たちから敵意の視線を向けられる。


「てめぇら、なんだ!」

「俺たちの獲物を横取りしやがって!」


 完全に奴らの視線は白鶴ちゃんに向いていた。

 だからその隙を遠慮なく突かせてもらった。


簡易動画弾インスタントバレット


 連射する。

 動画の再生数により、威力は決まる。今撃っているのは再生数10にも満たない簡易動画だ。でも相手にはそんなことはわからない。だから相手はよけざるを得ない。その隙をつく。

 

「なんだよ、こいつ! 特攻してくるなんてバカかよ」


 相手の懐に入れたらこちらのもの。

 奇襲で混乱した相手に高威力の動画を叩きつける。


動画弾ブースト


 銃身の腹部分のみ一点強化して殴る。

 動画は弾として使うより、強化して殴った方が持続力があってお得だ。

 顎に叩きつけて昏倒させる。


「まず一人目」

「なんなんだよ、こいつ!」


 残り三人で一斉に来ればいいのに。お行儀よく一人ずつ来た。

 しかもご丁寧に俺の特異な接近戦で挑んできてくれる。

 馬鹿かな?

 そして、二人目の顔面にも銃身を叩きつてノックアウト。


「二人目」


 俺の淡々とした様子に恐怖したのか。

 今度は突撃してこなかった。


「あいつ普通じゃねぇ……。銃持ってるくせに近接戦? しかも銃本体で殴るとか正気じゃねぇよ……」

「思い出した……。登録者数で分けられてる適性階層を無視して、命の危険を顧みずに接近戦にこだわる頭の逝かれた奴ら……。たしか修羅勢」

「はぁ? あの頭がかわいそうな修羅勢のひとりかよ。やってられねぇ!」


 頭がかわいそうとか逝かれてるは言い過ぎじゃなかろうか?

 奴らは仲間を放置して一目散に逃げて行った。


「なんとかなったな」


 ふう、と一息ついて二人に話しかけるが返事はない。

 野呂さんと白鶴ちゃんが茫然と俺の方を見ていた。


「格好いいですわ! 素敵ですわ! 最強ですわ!」


 白鶴ちゃんが俺の胸に飛び込んできた。

 大きな胸が当たって、このダンジョンに来てから最大級の危機が俺に訪れているのだが。


「ししししし、白鶴ちゃん!?」

「まぁ、苗字じゃなくて名前で、しかもちゃん付けで呼んでくださるなんてうれしいですわ!」


 しまった。勢いで呼んでしまった。

 顔から火が出そう。

 白鶴ちゃんは俺から離れてぴょんぴょん飛んでうれしさを表現している。

 こぼれそうな胸に目を奪われないようにするだけで精いっぱいだ。

 野呂さんもなんだか、俺に対してぎこちない態度を取ってる。


 もしかしたら俺の強さに当てられて惚れられてしまったとか?


 さすがにそれは気持ち悪い妄想すぎるな。

 けどいじめられっ子で弱いイメージしかなかった俺の評価が少しでも上がってたらうれしいな。


「どうしたの、野呂さん?」

「あの近づかないでもらます? 修羅勢の方は本当に気持ち悪いんで……。いや、本当に。自分の命を粗末にしてダンジョンで戦いだけに明け暮れるなんて、普通にドン引きです」


 ぐおおおお!

 予想外の反応に俺のライフポイントが0になる。

 いや、確かにそうだけどさ。

 戦いが楽しすぎて修羅勢やってるの家族にばれて殺されかけたからな。

 妹になんか「は? きも。命粗末にしてるところもやばいけど、修羅勢とか呼ばれて悦に浸ってるところとか生理的に無理」と言われて以来、修羅勢は卒業していた。親にもこってり絞られたというのもある。


「いや、だいぶ昔にやめた! 今は修羅勢なんかじゃないから!」


 せっかく友達になって敬語も取れたというのに元に戻るどころか距離が一気に離れたのはまずい。というかこれから同居するにあたって非常にまずい。


「ふふ。冗談、だよ。助けてくれてあり、がとう」


 俺の慌てぶりを見て野呂さんがおかしそうに笑う。

 よかった。本当によかった。からかわれて怒るより安心感が先に来てしまう。


「でも、ひとつだけ約束。して」


 野呂さんがまじめな表情で言った。


「何?」

「もう一人で無茶するのは、やめて。私、もう仲野くんがひどい目に合ってるところは見て、られない、から」


 今にも泣きそうな表情だ。

 野呂さんはやさしい。普通ならいじめを見て見ぬふりをしていたからと言って本人に謝ることなんてできない。今回も俺のことを本気で心配してくれている。

 

「わかった。もうしないよ」

「約束、だよ」


 二人で指切りをして約束した。

 きっと俺はこの約束を守らないし、守れない。

 俺は罪悪感を押し殺しながら、スマホでこの犯罪者たちの身柄を引き渡すために連絡をした。

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