第11話 自分の嫌なところを認めるの全然できなくてさ。それはとてもすごいことだなって

「もっと! もっと! 白様に格好いいところ見せたいですわ! だからボスに挑みましょう!」


 朗報。

 白鶴ちゃん滅茶苦茶強かった。

 

「登録者数350人もいる。これ、は必然」


 むふーと鼻息荒くして野呂さんも誇らしげだ。

 

「いや、マジですごい」


 なにせさっきまで40階層だったのにもう49階層まで来ている。


「そんな低い登録者数でこの階層まで来るのは大したものだと思う」


 ぐふっ。と野呂さんがダメージを受ける。

 でもこれは貶しているんじゃない。むしろ褒めているんだ。


「ダンジョンの階層は高くなるにつれて当然魔物も強くなってくる。だから登録者数別に適性階層があるんだ。その登録者数だったら行けても40階層なのに。30分も掛からずに9階層上り詰めるのは、はっきりいってやばいよ」


 さすがは俺の推し。

 モデルが意思を持つなんて異常事態だ。

 白鶴ちゃんには特別な何かがあるのかもしれない。


「いけ、る。これは登録者数を稼げる!」


 ふふふと野呂さんが陰のオーラを放ちながら悪い笑みを浮かべている。

 でもたしかにこれはチャンスだ。

 いい動画を撮れる可能性が大きい。下手したらバズる。


「けど生放送は無理だね。動画にしてカット編集して誤魔化さないと」


 白鶴ちゃんはいろいろ規格外だ。

 意思を持つモデルなんて世間にばれたらどうなるかわからない。

 たしかにバズるだろう。だが下手をしたら炎上することも十分ありうる。

 そこはしっかりと戦略を練らないといけない。

 まずは白鶴ちゃんの力や存在のことを調べるところから始めないと。


「あのカードを消すために編集するの地獄そう……」


 野呂さんが死んだ魚のような眼をしていた。

 2人の戦闘方法は野呂さんがカード型の弾丸を投げて、白鶴ちゃんの体に吸収させる。そして特殊能力を発動するというものだ。

 動画では戦闘中に映ったカードと野呂さんの声を全部消さないといけない。

 地獄の作業である。


「そんな苦労はボスを倒して増やせる登録者数に比べれば屁でもありませんわ」

「じゃあ白鶴も編集、お願い」

「無理。できないですわ。わたくし、機械音痴ですの!」


 白鶴ちゃんは気持ちのいい笑顔で言い切った。


「その分ボス戦で活躍しますわ!」


 そんな話をしていたら、50階層に到着する。

 この階層はボス部屋のみ存在する特殊な階層だ。

 お金を稼ぐにはもってこいの場所で人気がある。だから人が多いはずなのだが、異様に少ない。それに帰っていく人が結構な数いた。


「あの。どうかしたんですか?」


 帰っていく人に声をかけてみる。


「いや、なんかDPFがボス部屋を封鎖してんだよ。それならそうと先に告知出しとけよって話なんだよな。あんたらもこの先のボス目当てなら無駄足だぜ」


 Dungeon Peacekeeping Force。ダンジョン治安維持部隊。

 警察と自衛隊が共同で結成したダンジョンの治安を守るための部隊だ。

 けどDPFがボス部屋を封鎖してるなんて聞いたことないけどな。


「骨折り損のくたびれもうけ、ってことですの?」

「とりあえずボス部屋前まで行ってから考え、たい」

「そうだね」


 ボス部屋前。

 扉の前では黒いスーツ姿の男が一人立っていた。


「申し訳ありません。現在ここは皆様の安全確保のため、封鎖しております。ご迷惑をおかけして大変申し訳ありません」


 あ、この人偽物だ。

 正式なDPF隊員を見たことあるけど、もっとちゃんとした戦闘装備をしている。それにダンジョンの中でスーツ姿という時点でツッコミどころ満載だ。

 いやそういう配信者もいるかもしれないけどさ。


「わたくしたち、ボスでお金と再生数稼ぎたいんですの。通してくださいませんか?」


 直球すぎる物言いにちょっと笑ってしまった。 


「申し訳ありません」


 取り付く島もない。

 しかし、この男が偽物ということは何が目的か。

 簡単だ。ここは良い稼ぎ場。ボスを独占しているのだろう。

 やばい奴らには近づかない。それが陰キャの俺の処世術だ。

 早めに二人を説得してここから去ろう。

 そう思っていた時だった。


「お願い、します! 私、どうしても行かなきゃ、なんです。私のせいで苦しんでいる人たちが、います。ずっと、ずっと目を逸らしてた、です。早くしないと手遅れに、なる……。それにこんな私、を助けてくれたり、許して協力してくれた人のためにも。償わなきゃだから。だからだからだから……!」

「申し訳ありません、と言っているでしょう……」

「でも!」


 初対面の人に話すのはかなりの勇気がいる。

 陰キャ属性で女性。しかも相手は得体のしれない男。

 言っている内容も相手には碌に伝わってないだろう。

 なのに必死になって交渉している。

 それだけいじめに加担してきたことやあの陽キャたちを放置していたことに対して負い目を感じているんだ。

 野呂さんは自分自身の罪としっかりと向き合おうと頑張っている。


 なのに俺は何もしない。とてつもない自己嫌悪だ。 


「すいません。今DPFに確認を取ったら、そんな事実はないって返答が来たんですけれど」

「今は極秘作戦の発動中です。一般の職員は知りません」


 極秘なのに言っちゃうお粗末さ。

 程度は知れたな。


「おかしいな。俺はそんなこと聞いてないんですけど。それにPDFは作戦中腕章をつけます。こんなの、とか」


 俺はDPFと書かれた腕章をつける。


「お前、DPF……!」


 男が剣を取り出した時には間合いに入り、鳩尾に一発。それだけで男は昏倒した。


「白様……! PDFでしたのね!?」

「いや違うよ。これ百均で買った玩具。それにPDFはこんな腕章つけないし」


 俺はスマホで連絡を取りつつ答える。


「何、してるの?」

「通報。さ、ボス部屋に入ろうか」

「でも中に、この人の仲間。いるんじゃ……?」

「大丈夫ですわ! そんなのわたくしがいれば百人力ですわ!」


 白鶴ちゃんがいれば安心だ。


「それに野呂さん一生懸命だったから。自分のやったことを本当に反省して向き合ってる。俺、自分の嫌なところを認めるの全然できなくてさ。それはとてもすごいことだなって。だから俺もそんな野呂さんに協力したい。そう思ったから」

「仲野、くん……。ありがとう」


 このダンジョンに来て、いや初めてだな。

 野呂さんが本当に笑ってくれたのは。

 少しドキッとしてしまったのは秘密にしよう。

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