第10話 初めての……
現代に現れたダンジョン。
さらに人を超越した特殊能力を得た動画投稿者たち。
再生数と金にくらんだ人々はこぞってダンジョンに押し寄せた。
俺もその中の一人だ。
「ハウンドドッグ。しかも一匹。群れから離れた固体か? それとも……」
ここはダンジョンの40階。
大手の配信者なら1万階まで潜る。
まだ浅い層で出てくるハウンドドッグ程度なら俺でも対処可能だ。
でも命がけには違いない。
決して油断できる相手ではない。
「私、が……!」
野呂さんが動こうとした時、すでに俺は走り出していた。
制服の懐からハンドガンを取り出すと同時にスマホの表面をまるでデッキからカードを引くように指を滑らせる。
「これで十分か」
指にはカードがあった。正確にはカードではなく、実体のない光でできた虚像だ。その光のカードを銃に装填する。
『
銃から無機質な機械音性が響く。
これはその名の通り、簡易動画という1分にも満たない動画を弾丸にして攻撃するものだ。
いきなり距離を詰められたハウンドドッグが反射的に噛みつこうとするが遅い。至近距離から脳天に一撃。
ハウンドドッグは成すすべなく倒れ、跡形もなく消滅する。
「魔核はドロップしなかったか。けど牙は手に入れられたし、ジュース代くらいにはなるか」
まだ他の魔物がいないか周囲を見ると、野呂さんと白鶴ちゃんがすごい形相で俺を見ていた。
なんだ? 俺、なんかやらかした?
「す……」
「すっごい身のこなしでしたわ! さすがはわたくしが惚れた殿方。惚れ惚れしますわぁ」
野呂さんも何か言ったようだが、白鶴ちゃんの声に負けてしまっていた。
それにしても推しに褒められるのはすごくうれしい。
「まだ浅い階層だし、大したことないよ」
「配信者、だったの?」
「配信者というほどじゃない。一応ダンジョン探索系の配信はしてたけど、それも小遣い稼ぎ程度。バイト代わり程度だし。本格的にはやってないし、これくらいのことは誰でもしてる」
浅い層なら危険な魔物は出ないからリスクは少ない。
ただこの階層なら一日魔物対峙に明け暮れたとしても普通のバイトより稼ぎは少ないが。
「帰ったらチャンネル名教えて、ね」
「絶対嫌だ!」
「どうして……?」
野呂さんが狙った獲物は逃さないと目をぎらぎらと輝かせてる。
勘弁してくれ……。
俺のチャンネルは黒歴史の塊なんだ。見られたら、死ぬ。
「なんでも」
「わたくしも気になります!」
それからなんとか2人の追及をかわしながら進んでいくと、一本道から開けた場所に出る。自然豊かな場所で空気が澄んでいる。ダンジョンは閉じられた中だというのに洞窟から外に出た開放感があった。
「お二人ともあれをご覧になって」
今俺たちがいるのは岡だ。下を見ると水場があり、そこにはハウンドドッグの群れがいた。
「さっきのやつはきっとあの群れの偵察だったんだ」
まだ偵察がやられたことには気づいていない。
どうやらこの水場はハウンドドッグたちの縄張りのようだ。
「逃げるか、それとも……」
「これはお金を稼ぐ、チャンス……!」
「ですわね」
たしかにあの10匹以上もいる魔物たちを一網打尽にすれば低層とはいえ、当面の食費くらいは稼げる。
「大丈夫?」
「大丈夫。私、これでも登録者15万人のチャンネルの元メンバー、だよ」
たしかに。
そういう意味ではダンジョン探索に関しては野呂さんの方が圧倒的に経験豊かなはずだ。
「わかった。じゃあ任せる」
自信満々の笑みを見せる。
どこか既視感があったが忘れたし、まぁいいや。
野呂さんが取り出したのはアサルトライフルだった。
俺が持っていたハンドガンとアサルトライフルは、よく使われている。いわゆるテンプレ装備というやつだ。
「行って、くる!」
そして、野呂さんは俺が止める間もなく、勢いよく丘を駆け下りていった。
せっかく奇襲できるのにどうしてわざわざ目の前に行くんだ?
舐めプ? こんな浅い層の敵など敵じゃないということ?
「あれあれ? どうして弾が装填できないの? なんで?」
もたもたとしている内にハウンドドッグに囲まれる野呂さん。
「あれやばくない?」
「やばいですわね」
「動画を銃に装填できてなくない?」
「たぶんわたくしがいないことが影響しているのではないかと」
「もっと早く言ってほしかったな。それ」
「言う前に美都が突撃していったんですもの」
「ああ、それは仕方ないか」
「ええ。仕方ありませんわね」
………………。
「暢気に話してる場合じゃないって! 早く助けに行かなきゃ!」
「問題ありませんわ」
白鶴ちゃんが丘から跳躍した。
着物がたなびいて跳躍する様はまるで鶴が滑空するかの如く優雅だ。そして野呂さんの前に着地する。
「その弾をわたくしに装填を!」
野呂さんが投げたカードが白鶴ちゃんの背中に当たり、吸収される。
「
着物の腕の部分。両腕の袖口を振るうと白と黒の羽が弾丸となってハウンドドッグたちに降り注ぐ。
突然の奇襲もあってか、ハウンドドッグたちは成す術なく一網打尽にされてしまう。残されたのは大量の素材と魔核のみであった。
俺も丘から降りて二人のもとに駆け寄る。
「すごかった」
「ふふん。そうでしょう。そうでしょう!」
俺に褒められてご満悦のようだ。
野呂さんも知らなかったようで、唖然としていた。
「てっきりまた料理の時みたいに斜め上のポカをやらかすとばかり思ってたよ」
「そ、それは言わない約束ですわ!」
「それにこれはダンジョン入る前に言うべきだった、と思う。私に謝罪すべき」
「確認を怠った美都も同罪ですわ! うぅ……せっかくがんばったのにあんまりの仕打ちですわぁ!」
事前の打ち合わせは大事。
これは俺も同罪だな。と心の中で反省しつつ、二人のプロレスを楽しく見守っていた。
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