第9話 ダンジョンで喧嘩ばっかりするのはやめてほしい……
昨日はいろいろあったけど、二人との一時的な同居の準備は整った。
といっても家事全般はすべて俺がやることになっただけなんだけど……。
二人ともやる気満々なのはありがたいけど、あの壊滅的な調理風景を見せられると家事に関しては信頼できない……。
俺の必死の交渉のおかげで、二人とも俺に家事を任せてくれることになって本当によかった。
俺は家を守り切った。
父さん、母さん、千穂。俺はやりきったよ……。
「二日ぶりのダンジョン、か……」
今、俺たちはダンジョンに潜っていた。
なぜなら重大な問題が発生したからだ。
「まさか生活費がないとは思いもよりませんでしたわ」
「仕方、ないじゃない……。親からは私ひとりの生活費しかもらってないし。まさか野生の白鶴がいきなり生えてくるなんて思いもしなかった、から」
「わたくしを雑草か何かのように例えるのはよしてくださいませんか? それに美都が配信業でしっかりと稼いでいれば問題はなかったのでは?」
「美々白鶴チャンネルが収益化できてたらよかったのに……」
「わたくしのせいと仰りたいんですの!」
「別にそんなこと言って、ない」
相変わらずこの二人は元気よくケンカしている。
ここはダンジョンの中なのだからもうちょっと緊張感を持ってほしいんだけど。
しょうがない。喧嘩を止めるために何か話題を提供するか。コミュ障だからこういうのは勘弁してほしいんだけれどな。
「あのさ、二人はダンジョンの経験は豊富なの?」
「わたくしは初めて、ですわ」
どうして頬を染めてるの?
「私は、それなりに……。けどいつも四人で潜ってて。ダンジョンの敵は剛野君がほとんど倒してた」
やばい。
空気が一気に重くなった。
沈黙が気まずい。
「と、ところで……。このダンジョンのことって知って、る……?」
「し、知らないなぁ……。俺ダンジョンにはあまりキョウミナイカラナー」
嘘である。
現代に生きていてダンジョンのことを知らないは無理がある。
人のことは言えないけど、野呂さんも話題の出し方が下手すぎる。
コミュ障あるあるで少し共感しちゃったけど。
「ソ、ソウナンダー」
なんか野呂さんも乗ってきてくれた。
「なんですの? この会話……」
白鶴ちゃんの冷たいツッコミは聞かなかったことにする。
「仕方ありませんわね……。わたくしもあまりダンジョンのことを知らないので成り立ちとか教えてくださいませんか?」
「そ、そうなんだ。仕方ない、なー」
ぎこちない会話に白鶴ちゃんが助け舟を出してくれた。
「このダンジョン、はね。突然生えてきたの」
「だからその雑草みたいな表現はやめて――。本当に?」
「うん。自然災害みたいに突発的なもので。難しいことはわからないけど異世界と私たちの世界が接触してしまった結果ダンジョンが現代に生えてきた、らしい」
そう。本当に地面から突然生えてきた。十年前のことだけど、よく覚えている。まるで日本全体が地震災害にあったかのような大変な事態だった。
「ダンジョンが生えてきたことによる物理的被害。さらに魔物が発生したことによる人的被害。異世界という異物が現代に混じったせいでいろいろな被害が起こった。あの時は、怖かった……」
本当に日本はこれからどうなるのかと途方に暮れたものだ。
でも異世界と接触して変わったのは世界だけではなく、人間自体にも変化をもたらした。
「そんな時、当時の大手動画配信サイトの配信者たちが異能の力に目覚め始めた。登録者数が多ければ多いほど強大な力を発揮する。今のダンジョン配信者の始まり、ね」
配信者にとってダンジョンは格好のネタだ。
無茶をしてでも再生数や登録者数を稼ぎたい配信者がダンジョンに潜っていった結果、配信者たちだけが特殊能力に目覚めていった。
「警察や自衛隊の方は力に目覚めなかったんですか?」
「動画配信者、だけ。理由はわからない、けど」
そして、今に至る。
動画配信者はエンターテイメントを作ると同時に平和を守る担い手ともなった。そしてそれは歪んだ価値観も作っていくことになる。
「登録者数が増えれば増えるほど力は増す。レベルみたいなもの、ね。そのせいで今じゃ登録者数が多い人は偉い。少ない人は大したことない。みたいな嫌な風潮も出てきてるけど」
それが俺のいじめの根本的な問題なのかもしれない。
登録者数が多いから自分は偉い。他人とは隔絶した存在なのだと思いあがってしまう。
「説明中にごめん。たぶん、来る」
「へ?」
「そうですわね」
俺と白鶴は気配を感じた。
野呂さんはきょとんとした顔をしている。
「何が、来るの……?」
ここはダンジョン。
人以外に来るものといえば一つしかない。
「魔物、ですわ」
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