第8話 見栄を張ってもいいことは何一つない
私は仲野君と一緒に復讐する。
そして、復讐するために仲野くんとしばらく一緒に暮らすことになった。
正直、一緒に暮らすのは不安だし怖い。
けど私ひとりじゃ復讐はできない。それにこれは私ができる仲野くんへの精いっぱいの罪滅ぼしでもある。
今までいじめられてきた彼の苦しみに比べたら私の不安や恐怖なんて大したものじゃない。
ただ一緒に暮らすのはかなり迷惑だろう。
仲野くんと一緒に暮らす以上、彼にこれ以上迷惑をかけないようにしなくちゃ。
「で、最後に二階は全室家族の部屋になってるから。一番手前にある僕の部屋より奥には入らないでね」
今、私と白鶴は一緒に暮らすうえでのルールを仲野くんから聞いていた。
仲野君の家は一軒家の二階建て。
2階の廊下には3つの扉があった。
仲野君の家族の私室が集まっている。
1階にはリビングキッチンにお風呂。それから客間がある。
「さっきも言った通り、二人は客間で寝泊まりしてくれたらいい。僕は客間には入らないようにするから。トイレも僕は二階のを使うから二人は一階を使ってね」
「わ、わかった。でも気遣いはいらない、よ。私たちが無理やりお邪魔してるから」
「そうですわ。むしろわたくしの着替えの途中に開けてしまってもいいですわよ」
「いや、それは勘弁して」
相変わらず、白鶴の仲野くんへのアタックがすごい。
「あとさっきも言ったけど、洗濯や料理は私たちが分担してやるから。仲野くんはゆっくりしてて、ね」
「ありがとう。でも最初の方は一緒にやるよ。家のどこに何があるかもわからないだろうから、教えながら手伝うよ。あとそうじとかは僕がやるから」
一緒に暮らすための役割分担は決まった。
なんだか同棲するみたいでドキドキする。
「じゃあ、もうそろそろお昼だね。午後からは荷物を運んだりして大変だろうから。さっそくだけど、何か作ろうか」
「任せ、て! 腕によりをかける、から!」
そして私は死んだ。
※※※※
「ああ……うん。こういうこともあるよ……」
簡単なチャーハンならネットのレシピを見たら簡単だろうと思ってた時期が私にもありました……。
目の前に広がるのは、調味料やサラダ油が散乱してカオスとなったキッチン。
そしてチャーハンを目指して作ったはずが出来上がったのは灰の山だった。
自分でもどうしてこうなったのかがわからない。
「ち、ちがうの……。私、料理したことなくて。でもレシピ通りやったらできる、と思って……」
「なんですの? その無駄な自信は? 馬鹿ですの?」
白鶴に思いっきり馬鹿にされた悔しい……。
「逆に、やったこともないのにあれだけ自信満々だったのはさすがだよ……」
「うっ……。これ以上、め、迷惑をかけちゃだめだと思って。本当は料理も家事もやったことなくて……」
だめだ。
迷惑をかけたくないとかいって、余計に迷惑をかけてしまってる。
泣きそう。
「大丈夫だって。片付けもすぐ……には終わらないかもしれないけど。初めてだから仕方ないよ」
仲野くんに励まされた。
そのやさしさが今はつらい……。
「だめだめですわね。料理というものが何一つわかっていませんわ。今度はこのわたくし美々白鶴がが料理の神髄をお見せいたしましょう」
悔しい。
でも何も言い返せない。
白鶴は私が設定したなんでも完璧にこなせるという設定がある。
きっと料理も完璧なんだろう。
……そう思っていた時期が私にもありました。
「うん。ああ、うん。もうお昼はカップラーメンで済ませようか。下手したら家が爆発する」
あれだけいじめられても私を受け入れてくれた仲野くん。
そんなやさしい彼が諦めた。
なぜなら、私が作り出した美々白鶴は私以上にアレな醜態をさらしてしまったのだから。
端的に言おう。
爆発した。
「あれれ? こんなことにはならないはずなのに。おかしいですわね……」
白鶴が納得がいかなさそうに首を傾げた。
爆発は小規模で幸いキッチンは壊れなかったものの、仲野家のキッチンは悲惨な状態となってしまった。
「いくらなんでも、サラダ油じゃなくて灯油を使って料理をしようとするのは頭がおかしい……」
「だって灯油もサラダ油も同じ油ですから同じものだと普通思うじゃありませんか」
「いや、それはない」
「僕が目を話していたのも悪かったから……」
仲野君はそんな私たちの会話を尻目に、頑張ってキッチンを片付けていた。
ここまでされて怒らないとか仲野くんの前世は聖人か何かなんだろうか?
「あの私たちも片付け、る」
「わたくしも手伝いますわ!」
そう伝えたら仲野くんは青い顔をして言った。
「もう何もしなくていいから、リビングでテレビでも見ててください。お願いします」
いじめられていた時でさえ、見せなかった土下座をさせてしまった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます