第18話 収益化

「収益化の案内、来た!」

「おお! ついに来たか」


 やっと。やっとここまで来れた!

 別にお金目的で配信を頑張ってきたわけじゃないけど、なんだか白鶴と私が認められたみたいですごくうれしい!


「収益化ってなんですの?」

「動画に広告収入がつくんだよ」


 白鶴が不思議そうに首をかしげる。


「つまり動画でお金が、稼げるってこと」

「マジですの?」

「マジのマジだ」

「じゃあ、稼いだお金で白様とデートができるってことですの!?」

「しないよ。推しとデートなんて恐れ多い。まぁまだスタート地点だし、稼げるといってもまだダンジョンの方が効率いいだろうけど」


 収益化。

 動画で広告収入を得ることできるということ。

 今迄お金を稼ぐためにはダンジョンに潜っていたが、動画をアップロードするだけでもお金が稼げるということ。

 ここが配信者としては一つの目標地点でもある。


「よかったな」


 仲野くんがやさしく声をかけてくれる。

 だめだ。勘違いしちゃいけない。

 友達だなんて言ってくれたけど、いじめていた事実は変わらない。

 私は彼に償わないといけない。

 それでもにやける顔が止まらない。

 だめだな、私。


「……え? まだ収益化できない? ダンジョンの100階層ボスの単独討伐が条件!?」


 無理。

 この間のコラボ動画撮影の時のことが脳裏に浮かぶ。

 あの恐ろしい吸血種の魔物を前に私は何もできなかった。

 それどころか私は今までダンジョンで何もできていない。常に仲野くんや白鶴の陰に隠れているだけ。

 そんな私が100層を突破なんて夢のまた夢だ。


「大丈夫だよ。野呂さんと美々さんならいける。ここ一か月は動画を毎日投稿してきた。だから登録者も1000人突破できたんじゃないか。100層の適正踏力者には達してる。二人ならボスを倒せるよ」

「私の力、じゃない……。あのコラボ動画がバズったから。ダンジョン攻略部のお兄さんたちのおかげ」

「それはちがうよ」


 仲野くんが怒ってる。

 私、何かしちゃったかな!? どうしよう? どうしよう!?


「たしかにきっかけはあのコラボ動画だと思う。けど登録者数が増えたのは間違いなく野呂さんの力だ。毎日動画投稿なんて並大抵の努力じゃない。それに野呂さんの作った動画が楽しいと思ってくれたから皆登録したんだ。自分の力じゃないなんて言ったら登録してくれた人たちに失礼だ」

「あ……」


 全然気づかなかった。

 そうだ。この1000人の登録してくれた人たちは私の動画が好きで、また見たいと思ってくれてる人たち。私がそれを否定したら、だめだ。

 すごいな、仲野くんは。私が気付かないことを気づかせてくれる。


「それに美々白鶴のかわいさを前に登録しない奴なんて人間じゃないよ。ゲーム、雑談、ASMRに歌枠。すべてが良い!」


 そういえば、仲野くんは白鶴推しのオタクだった……。

 いやもはや信者といってもいいくらい。

 私がドン引きするくらいだから……。


「でもこの間白鶴にアクションゲームやらせたら、馬鹿みたいに特攻して視聴者の人いらいらしてた、よ?」

「馬鹿ってなんですの!? だいたい美都だってクイズゲームでありえないくらい低い点数叩き出して、自演乙wwwwと煽られていたじゃありませんの!」

「あれはちが、う! ただ調子が悪かった、だけ!」

「だいたいわたくしは美都から生まれた存在ですのよ。わたくしが馬鹿なのは美都のせいですわ」

「なっ!」


 ついに開き直ってきた。

 今日という今日は許さない!


「まぁまぁ。その馬鹿さがかわいいんだから。自分は馬鹿じゃない。賢いって背伸びして、結局馬鹿さが露呈する。そこがいいんじゃないか」

「そ、そんな風に私の配信、見てた、の?」

「よく配信のコメントで見ない? 今日は何分持ったか、とか」

「そういえば、ありましたわね……」

「あれは、白鶴ちゃんの馬鹿さが露呈する時間のことだよ」


 私と白鶴は愕然とした表情で固まってしまった。

 だって私、かしこしいのに。


「嘘……」

「え? もしかして自分は賢いって思ってた? ていうかSNSのDMでおバカVtuber決定戦の誘いが来てたの、知らない?」

「私、賢い枠で呼ばれてるのかと思って、た……」

「ちがうよ。おバカ枠だよ」


 完膚なきまでに尊厳が破壊された。

 もう私、活動できないかも……。


「まぁ、そんな感じで美々さんと野呂さんは頑張ってきたんだから。二人ならダンジョンアタック成功するよ」

「でも……」


 やさしく言ってくれるけど、やっぱり不安だ。


「美都はそれでいいんですの? こんなところで足踏みしていたら登録者数15万人を超えるなんて夢のまた夢ですわよ。白様と一緒に復讐を果たす。その言葉は嘘でしたの?」


 そうだ。私は復讐を果たさなきゃいけない。

 そして姫たちに思い知らせてやるんだ。

 なんとしてでも……!


「仲野、くん」

「なに?」

「私、一週間後ダンジョンに挑む。だから一週間私に戦い方を教えて、ください!」


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