第26話 コラボ第二弾② デートをしたいんですの!
コラボの場はダンジョンの90階層。
穏やかな平原が広がり、吸血種たちが住まう階層だ。
以前ニンニクを大量摂取して、訪れた場所でもある。
すでに生配信は開始しており、俺はここにいる四人が全員カメラに入るように移す。
「よ、よろしく、お願い……します」
「あら以外に普通そうな方々ですわね。警戒して損しましたわ」
二人が挨拶をする。
確かにコラボ相手の二人の見た目は良い。
「は、はじめまして……。酒クズという名前で活動してます。ずっとファンでした! ほらメンバーにも入ってるし、非公式ファンクラブにも入ってるんです!」
鼻息荒くして、酒クズさんが話しかけてくる。
酒クズさんは一見、スーツを着たクール系美女だ。
でも、そのアルコール臭い口臭とたばこの染みついた体臭は隠せない。
「し、白鶴たん! 僕もずっとずっと前からファンでした! もうあなたのASMRなしでは寝れません! あ、僕は30歳童貞ニートという名前で活動してます。ぜひ握手してください!」
こちらの童貞ニートも30歳のわりに若々しく、イケメンの部類に入るだろう。
My tubeでもかなり稼いでるみたいだし、実はもう卒業しているのではないかと見ている。でもそれは杞憂だったようだ。
野呂さんと白鶴ちゃんとまったく目を合わそうとしないし、鼻息荒いし。
これは童貞だ。
「え、えと……」
「ふふん! 握手くらいして差し上げますわ!」
戸惑う野呂さんとノリノリの白鶴ちゃん。
対照的な二人だが、ここで問題が発生する。
「は? あんたみたいな童貞が穢れを知らない美少女高校生に触れるとかやめてくれない? 二人がけがれるわ」
「何言ってんですか? ファンがあこがれの人と握手する。普通のことでしょ?」
「童貞貫いてますとか言って、下心丸見えなのが見え見えだし。毎回配信でそういう自分は欲に負けてないですよアピールしてるのマジ痛々しい」
「はぁ? パチンコ行って大勝ちしてガールズバーで金ばらまいてるような欲望丸出しの人間に言われたくないんだが」
二人は犬猿の仲である。
そして二人とも白鶴ちゃん非公式ファンクラブのメンバーでもある。
俺の狙い通り二人は喧嘩をし始めた。
「あのあの……! 喧嘩しないで、ください」
「わたくしを巡って争うなんて、いい気分ですわ」
さて、ここでまとめないと収拾がつかないな。
「待ってください二人とも。今回の企画、お二人には説明しましたよね? だから今争わなくても大丈夫です。勝てばいい話なんですから」
その言葉で二人は静かになる。
「あの、話、聞いて……ない」
「わたくしもですわ」
当然だ。おそらく話したら絶対に嫌がるだろうから、話していなかった。
「今回の企画は三人で戦ってもらいます。世間では意思を持ったVtuberについて知りたがっている人たちが大勢いるでしょうし。その実力と美々白鶴がどんな存在かを知ってもらうための戦いです」
三つ巴で戦ってもらおうという企画。
有名配信者とコラボして、しかも白鶴ちゃんの特殊な戦闘方法を視聴者に見てもらおうという寸法だ。
生放送でやっているから、すでに視聴者の数は10万を超えた。
「質問! 勝ったら白鶴ちゃんたちが何でも願いを叶えてくれるって本当ですか?」
「本当です。もちろん常識の範囲内で、です。金銭の要求やコンプライアンスに反することはやめてくださいね。ちなみに動画や生放送でできることだともっとありがたいですね」
「「!?」」
白鶴ちゃんと野呂さんが聞いていないという顔でこちらを見てくる。
当然だ。
俺は何も言っていない。
そんな反応も視聴者受けすると思ったから。
案の定、生の反応に視聴者は阿鼻叫喚だった。
わかる。推しが他の配信者の言うことを聞くなんて、気が気でないだろう。だからこそ、配信は面白くなる。
「聞いて、ない……!」
「そりゃ言ってないからね。中の人さん」
顔バレしたことにより、白鶴ちゃんとは別の呼び方が必要だ。今は便宜上「中の人』と配信中では呼んでいる。
「ふ、不公平!」
「不公平じゃないよ。二人とコラボするだけで、いろんな人に見てもらえる。踏力者数はさらに増えるだろうね。それに二人が勝てばいい話なんだから」
そう。勝てば何の問題もない。
登録者数の差があるから、勝ち目は薄いだろうけど。
「さて、そろそろ戦いを始めましょうか。あの二人はやる気十分みたいですし」
すでに酒クズと30歳童貞が小競り合いを始めている。
「待ってください。少しだけ配信を止めていただけませんか? 視聴者の皆様を長時間お待ちいただくようなことはしませんので」
白鶴ちゃんは自信満々だから基本的にこの企画を受け入れてくれるだろうと思っていたのだけど。
白鶴ちゃんのリクエスト通り、配信を一時中断して他の3人と離れる。
「なんですか? 美々さん」
「わたくし、この戦いに勝ったらやりたいことがあるんですの」
「やりたいこと? 報酬が欲しいってことですか? でも登録者数が増えるだけで僕たちには十分な報酬ですし。コラボしたお二人に何か頼むのは申し訳ないんですけど」
「あの二人にではありませんの。わたくしがして欲しいことは……」
白鶴ちゃんは顔を真っ赤にして、うつむく。
なんだか一か月前のことを思い出す。
パソコンの配信画面で告白された。
あの時の白鶴ちゃんも顔を真っ赤にして緊張した面持ちだった。
あれ? なんかやばい気がしてきた。
「今回の勝負に勝てたら、ご褒美で白様とデートをしたいんですの!」
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