第23話 なぜか私は身バレしていた

「いやあああああああああ!」


 剛野君に襲われて数日。

 私は絶望していた。

 昨日まで仲野くんの看病のため、配信はお休みをもらっていた。

 その間ネットを開かない生活ができて、とても心穏やかな日々を送れていた。。仲野くんも快復して、さぁ配信活動やるぞ! と気合を入れてネットを開いた。すると……。


 なぜか私は身バレしていた。


 身バレは正確じゃない。

 この間の100層で戦っていたボス戦の動画がネットに流れていた。

 仲野くんが撮影した動画はまだ編集すらしていない。

 しかも流出していた動画は不自然な画角だった。

 だから、これは剛野君が嫌がらせでネットに流したものだと思う。

 

「で、それがバズったんですわね」


 白鶴はむふーと鼻息荒くして嬉しそうにしている。

 呑気でうらやましい。 


「顔がばれた! もうおしまい! はい、終了!!!! 不細工ですいません。お見苦しい顔を皆様に晒した責任で私、引退するうううううう!」

「いや美少女だって騒がれてるよ?」


 たしかにそんなコメントもあるけど、それは一部の優しい人が言ってるだけ。

 ああ! ほとんどメイクしてなかった! 髪なんてぼさぼさ……。戦いで動いていたからしょうがないけど、こんなことならもっとしっかりとメイクと髪をセットしたらよかった……。

 まぁ、私がしたところで大したことないかもだけど。


「いいじゃありませんの。バズったおかげでほら登録者数がすごいことになってますわよ」


 白鶴がMy tubeのチャンネル画面を見せてきた。

 ボス戦に挑んだときははだいたい1000人だった。

 それが2万人を超えていた。

 たった数日でこれだけ伸びたんだ。もっと伸びるだろう。

 とてもありがたいことだ。

 けど、それは私が望んでいた増え方じゃない。


「不満そうだね」


 仲野くんが心配そうに声をかけてくれる。


「だって、今まで血を吐くくらいに頑張って登録者数、が1000人だった。けどたったこれだけの動画でこんなに伸びるのは、複雑……」

「そうだね。多くの人が野呂さんと白鶴ちゃんの特異性に注目してるんだと思う。普通とはちがう。モデルが意思を持ったり、あまつさえ合体して特異な力を発揮して戦うなんてことは全世界を見渡しても白鶴ちゃんと野呂さんだけだ」


 普通のVtuberは現実の姿を変身ヒーローみたいに変えてダンジョンを攻略する。

 私たちは異常なんだ。


「ずるい、と思ったから。他の人は努力して登録者数を増やしてるのに。これは私の実力、じゃない。ただ運がよかっただけ。きっと私は、集まってきた人たちの期待を裏切る」


 不安だった。怖かった。

 

「全然ずるくないよ」

「ずるい、よ!」

「だって僕は二人が頑張ってきているのを知ってるから。毎日毎日夜遅くまで、頑張って動画作ったり配信してる。それにただの物珍しさだけだったらみんな登録はしないよ。二人が作ったコンテンツが。チャンネルの動画が面白いからこれだけ登録してくれたんだ」


 なんだか恥ずかしい。

 それにうれしい。

 今まで私は動画を作って褒められたことはなかった。

 姫たちの動画を作っていた時も感謝されることはあっても褒めてはくれなかった。だからかな? なんだか照れる……。

 でも不安はまだ収まらない。


「でも私、期待に応えられるほどのこと。できない……。特別なこと、できないから。普通に歌ってみたとかゲームの配信しかできない……」


 チャンネル登録をしてくれた人たちはきっと特別を求めている。

 意思を持ったモデルの白鶴。そんな白鶴と融合して戦う私。


「いや大丈夫だと思うけど。コメント見てるけど二人のかわいさに釣られた人も結構いるし。それに僕は二人が作った動画面白いと思うし」

「でもでも……!」

「にんにくの大食い動画も好評だよ」

「それはちょっと……」

「ああもう! 面倒くさいですわね。だったらわたくしが特別なことをしてさしあげますから、その陰キャ特有のネガティブスパイラル思考やめてくださるかしら?」

「特別なことって?」

「わたくしはその存在だけで世間を魅了する持ち主ですわよ。わたくしの

一挙手一投足を見るだけで、視聴者は視線は釘付け! メロメロですわぁ」


 そのポジティブ思考がうらやましい。

 白鶴は私と違う。いつも自信満々で眩しい。

 そういう性格の人がうらやましくて、そんな性格に設定して演じてきた。

 そんな白鶴が今では私を励ましてくれる。

 とても心強かった。

 思わず笑みがこぼれる。


「そう、だね。白鶴の馬鹿で迂闊な行動は視聴者の視線を釘付けにするわ、ね」

「なぁ!? なんですの! その言い方は! ていうか鼻で笑いましたわね! せっかく励ましてさしあげてるのに!」

 

 拗ねた唇を尖らせた白鶴はかわいかった。

 そんなかわいい白鶴が隣に居て、私のことをよく見てサポートしてくれる仲野くんが居れば私はやっていける。

 チャンネル登録してくれた人たちを前にしてもくじけないで入れる。


「これからも二人は助けて、くれる……?」

「当り前ですわ。というよりわたくしは美都から生まれた存在。美都なしでは生きていけませんわ」

「うん。僕も精いっぱい支えるから。一緒に登録者数を増やして復讐しよう!」


 復讐……。


「そう、だね。うん。登録者数をもっと増やして姫たちをぎゃふんと言わせ、よう……」


 心の奥底がチクリと痛む。

 この間剛野君に襲われてわかった。

 本当は復讐を望んでないことを。

 私は仲野君に嘘をついてしまっていた。

 ああ。私はやっぱり最低だ。

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