第20話 獅子身中の虫
ダンジョン100階層。
ここが配信者としての登竜門。
そのボスはグロテスクだった。
「なに、あれ……?」
ぱっと見は白いライオン。
けどその白いライオンから何かが生えていた。
カブトムシの幼虫が巨大化したものが、ライオンの内側から食い破っているかのように飛び出している。
気持ち悪いよぉ。
「あいつはトロイという名前だね。じゃあ、僕は見てるから。もし本当に無理そうならインカムで伝えてね」
「え、ちょっと!」
仲野くんは早々にボス部屋の外に出て行ってしまった。
「さぁ、やってやりますわよ!」
白と黒の着物をはためかせながら、トロイに突っ込んでいく。
「あーもうっ!」
どうしていつもあんなに自信満々なのか。本当に理解できない。
あれだけ戦闘前は準備をするって言ってたのに。
スマホの画面に指を滑らせる。
あらかじめ弾丸として使う動画は決めてある。
それをもとに戦術も練って、この一週間仲野くんと練習してきた。
「まずは、雑談!」
カードを何も考えずに突貫する白鶴に投げつける。
「
長時間雑談の弾。
動画はその内容により、特殊な能力を発動する場合もある。
再生数はお察しだから効果の持続時間は少ない。
けど雑談配信はいっぱいしたから弾数だけは無駄にある。
「さぁ、わたくしの華麗な舞を見せてやりますわ!」
トロイの体から気持ち悪い
それを白鶴は舞うように回避。すれ違いざまに羽のような意匠の袖口がワームを切り裂く。
緑の液体をまき散らしながら、本体のライオン部分も苦悶の声を上げる。
「うぇ、気持ち悪いですわ」
白鶴は名前の通り、鶴が人となったという設定だ。
だから力や能力も鶴にちなんだものとなっている。
「次は
だけど再生数が稼ぎやすく、高威力なのが特徴だ。
羽の弾丸が放たれるが、腐りかけた体なのに機敏な動きをしてことごとく避けられる。でもそれでいいわ。これはけん制。それに実は今の動画そんなに再生数稼げてない奴だし。
再生数の少ない動画はけん制に使え。
仲野くんに教えてもらったことだ。
「ゲーム
あまりにもバカみたいに猪突猛進するゲームプレイスタイだったため、敵に突進する時だけその速度を馬鹿みたいに上げる弾。
「わたくしのゲームプレイスタイルが
なんか喚いてる白鶴は無視。
だいたい死にゲーのアクションで何時間も体で覚えるまでやるから馬鹿なのよ。
普通は対策くらい考えるでしょうに。
でも弾の効果は大したもので一気に加速してトロイの懐にもぐりこめた。
「
動画の再生数で単純に白鶴が持っていた個性を強化する。
今回はさっきの翼の刃の強化が目的だ。
「わたくしの華麗なる一撃をお喰らいなさい!」
トロイが鋭い爪を振るうが白鶴には当たらない。
白鶴が舞い、トロイの胴体に巣食った
「やった!」
だが、厄介な遠距離攻撃手段である
明らかな弱点。
トロイの本体である獅子が苦悶の声を上げた。
でも。
「GAAAAAAAAAAAAAAA」
雄たけびを上げて、獅子の様子が激変する。
その雄たけびだけで白鶴は吹き飛ばされて、後方にいる私のところまで押し戻されてしまった。
「きゃ!」
白かった体毛は黄金に変わり、やせ細っていた体は筋肉質に。体積も一回り大きくなってしまった。
明らかに強化してしまったようだ。
「嘘……」
「あんな見え見えの罠に引っかかるからですわ!」
「だ、だってあんなのゲームとかだったら大抵弱点なのに!」
「これはゲームじゃありませんのよ!」
「うるさい! ゲームでも死にまくってたくせにっ」
「ちょっ! 来てますわよ!」
白鶴に突き飛ばされて、地面を転がる。
立ち上がって目に入ったのは、黄金の気を纏ったトロイに蹴られて壁に力なくもたれかかる白鶴だった。
「白鶴!」
迷った。
インカムで仲野くんに救援を求めようか。
でも応援を読んでしまったらクリア扱いにはならない。
つまり収益化はできないということだ。
「まだですわ!」
頭から血を流し、ふらふらになっても白鶴は立ち上がった。
「どうして……?」
「わたくし、白様のお力になると決めたんですっ! あの寂しいお方に少しでも寄り添えたら! 大好きな人のために少しでもお役に立ちたいんですの。だからこんなところで立ち止まるわけにはいきませんわっ」
ああ、そうだ。
仲野くんのために。今はもう友達じゃないけど、友達だった3人のためにも。
復讐を果たす。絶対に。
これは負けられない戦い。
こんなところで立ち止まっていたら、姫たちとの差は広がるばかりだ。
「私、も。こんなところで!」
「「立ち止まるわけにはいかないっ!」」
二人の声が重なった。
その瞬間。
『シンクロ率50パーセント突破。同調機能解放』
スマホから機械的な音声が流れて光が白鶴を包む。
というか私も光に包まれてる!?
あまりの眩しさに戦闘中にもかかわらず、思わず目をつむってしまった。
「あれ? ここは……? え!? なんで!」
自分の体を見るとそこに私の体ではなかった。
私が今着ているのは白と黒の着物。
つまり、今私は白鶴になっていた。
『シンクロ・完了』
なぜか私と白鶴が合体してしまっていた。
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