第6話
そんなパステルカラーの箱庭の世界も夏休みが来ると、一気に淀んで見えた。
空は、きれいに晴れていて、空は、濃い白だった。
けれども、私にとって夏休みは、少し憂鬱な日が続く暗い灰色の日々だった。
それは、お昼ご飯が原因だった。幼稚園がある期間は、私には給食があった。給食もそれほど好きではなかった。食べきれずに、吐いて戻すことも、何度かあった。私は気管が少し弱かった。だから、給食も好きではなかった。しかし、それにも増して夏休みはもっと嫌だった。それは夏休みになると、私は家でお昼ご飯を食べることになる。それが、私が憂鬱になる原因であった。私の箱庭は、灰色の世界になった。
私の家のお昼ご飯は決まっていた。父が前夜の晩酌で食べた湯豆腐の残りの汁で作る雑炊だった。
夏でも父は、毎晩、湯豆腐を食べていた。私はその残った汁で作る雑炊が、どうしても美味しいと思えなかった。出汁は毎晩昆布でとっているはずだが、水に白菜が溶け出したような、生臭い食べ物に感じていた。
私の箱庭の世界の夏休みは、憂鬱な昼食の日々が続いていた。
私の母は、栄養士であった。
働いていなかったが、短大の栄養士過程を卒業しており、食事には気を付けている様子であった。餃子やハンバーグを作るときも、干しシイタケのみじん切りを入れているような人であった。
そのせいで私は、挽肉料理が嫌いになった。ハンバーグも餃子も、好きではなかった。外で食事の時も、挽肉料理は食べないようにしていた。皆がハンバーグを食べる時も、私はチキンステーキを選んでいた。ハンバーグを美味しいと思ったことがなかった。
休日はまだ我慢ができたが、毎日続く夏休みは、本当に苦痛であった。
「今日も、残った汁のご飯なのか。」
そう思って、一日を過ごしていた。私は、この安全で閉塞的な暗い箱庭から、抜け出せなかった。この箱庭の世界が、私の全てだったから、どこにも逃げ出せることができなかった。
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