第5話
院長先生のうちの猫は、みんな大人の猫だった。
でも、ミケ子さんは時々、赤ちゃんを産んでいた。外猫で、ご飯はいつも院長先生の家の勝手口で、食品トレーに載せられたご飯を食べていた。私は、いつも院長先生の家のミケ子さんが赤ちゃんを産むと、ミケ子さんと赤ちゃん猫を見に行っていた。ミケ子さんは、院長先生の家の勝手口のそばに横になって、赤ちゃん達にお乳を飲ませ、寝かせていた。
院長先生の家の勝手口は、最初に住んでいた桃の木が玄関先にある家との間の、アジサイのそばにあった。
なので、アジサイの下からのぞくと、ミケ子さんと赤ちゃんが見える。
ミケ子さんは大人の猫で、私には可愛くなかった。お腹がびよーんと伸びているミケ子さんは、可愛くなかった。お顔も大人の猫になってしまっていた。でも、ミケ子さんの赤ちゃんはとっても可愛かった。大きな目で、フワフワした体で、手のひらに乗るくらいの大きさだった。
私は、赤ちゃんをどうしても触りたかった手のひらに乗せたかった。だから、赤ちゃんが生まれると、毎日毎日、アジサイの下から覗いていた。しゃがみこんで、いつも覗いていた。
そして、私はミケ子さんのすきを狙って、赤ちゃんを取ろうと狙っていた。私が手を出すとミケ子さんは、シャーッと声をあげて、怒った。とても怖かった。それでも、私は毎日毎日、ミケ子さんが赤ちゃんを産むと、子猫を取るためにアジサイの下を覗きに行っていた。
私の生活は、毎日が箱庭の中で完結していた。青空の下、箱庭の生活が続いていた。来る日も来る日も、箱庭は、美しく彩られていた。やわらかい、パステルカラーの世界であった。
院長先生は、私にとって憧れの人であり、ミケ子さんとは、戦いであった。ミケ子さんから、子猫を取ることが私の目標であり、自分に課した使命であった。春から夏休みの間は、毎日、ミケ子さんを追い回して、箱庭の世界の中で遊んでいた。
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