第4話
院長先生は、外科の先生であった。
先生は、いつも決まった時間に帰っていた。お昼の時間も、夕方の5時の帰る時間も、いつも決まった時間に帰っていらした。院長先生には、いつも官舎への坂道の下の私の家の前でよくお会いした。
私の父は内科医であったので午前に外来のある日のお昼の休憩は、午後2時過ぎに帰ってきていた。
父も院長先生も、お昼ご飯は自宅に戻って食べていらした。病院の中には、職員用の食堂があったが、そこを使うことはなかった。
院長先生の好きなところは、白髪の見た目だけではなかった。院長先生の家には猫がたくさんいるからだ。沢山いるといっても、私が分かる猫は、ミケ子さんとジョンだけだった。他にも、いろいろな色の猫がいた。ミケ子さんは院長先生の家の三毛猫で、一番古い猫だ。ジョンのお母さん猫である。
ジョンは、長女のお魚のあだ名のお姉さんの猫だ。長女のお魚のあだ名のお姉さん以外の2人のお姉さんたちもそれぞれ猫を一匹ずつ飼っていると言っていらした。みんな一人一匹ずつ飼っているとおっしゃっていた。なので、院長先生の猫は、ミケ子さんなのだと思っていた。
でも、院長先生の家の猫は、みんな外猫で、家の周りの外をうろうろしていて、私にはミケ子さんとジョン以外は、どの猫が院長先生のうちの猫なのか見分けがつかず、分からなかった。
ただ、ミケ子さんとジョンだけは分かった。ミケ子さんのしっぽはカギしっぽだったが、ジョンは長いしっぽだったと思う。
ミケ子さんは、お腹が垂れ下がっていた。尻尾が短く、何度も赤ちゃんを産んでいたせいか、お腹が垂れさがっている小さい年寄りの猫だった。
ジョンのことは、猫なのに犬みたいな名前だなと思っていた。その頃は、気が付かなかったが、もしかすると、ジョンはジョンレノンからとった名前なんじゃないかと、大人になって思うようになった。犬みたいな名前でなく、ビートルズからとった名前だと思う。お魚のあだ名のお姉さんは、ビートルズが似合うカッコイイお姉さんだった。ビートルズからなら、ジョンの名前は、正しい。
ジョンは茶トラの猫で、大きな猫だった。ジョンとお魚のあだ名のお姉さんと一緒に写った写真を見ると、ジョンはお魚のあだ名のお姉さんが抱くと、びよーんっと伸びて、ジョンの足がお魚のあだ名のお姉さんのn膝くらいまでになった。尻尾は、地面に届くくらいであった。
お魚のあだ名のお姉さんは、お背はそんなに高くなかった。院長先生もお背は、高いほうでなかった。
私は、猫を飼っている院長先生が羨ましかった。それは、私の父が動物を飼うのに反対だったからだ。父は動物を飼うと病気になると言って飼ってくれなかったのだ。
だから、院長先生のうちが羨ましかった。動物がいて、とても羨ましかった。院長先生だって立派なお医者さんなのに、どうして飼っていいのだろう。私には不満があった。
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