第18話

ミケ子さんは、相変わらず私のことを見ても、気にもしていなかった。のしのしと歩いていた。ミケ子さんに、謝っても、しょうがなかった。それでも、ミケ子さんに謝りたかった。

 けれども、ミケ子さんにとって私のことは、赤ちゃんがいる時だけの、要注意人なのだろう。普段は、ミケ子さんとって私は、風景の一つだったと思う。私の心なんて、ミケ子さんには、関係なかった。

 ミケ子さんにとって家族は、ちゃんと区切られていた。院長先生の家族と生まれたばかりの赤ちゃんだけが、ミケ子さんの家族だった。ミケ子さんの守るものだ。

 ミケ子さんの赤ちゃんも乳離れすれば、ミケ子さんの家族から離れる。ミケ子さんは守らなくなる。院長先生だけが、いつまでも続いているミケ子さんの家族だ。ミケ子さんの守る存在だ。

 ミケ子さんに謝って、院長先生に伝えてほしかった。

 院長先生は、ミケ子さんに選ばれた人なのだ。猫のミケ子さんも、人間の区別ができる。表面だけでなく、中身まで、その人の優しさまで見ることができる。

 ミケ子さんは、何匹もの子猫のお母さんだ。ミケ子さんには、何か力があるのかもしれない。なんでも見通せる力があるのだと思った。良い人間が、分かるのだろう。だから、私のことは、最初から、風景のような存在なのだ。

 ミケ子さんは、私のことは、認めてくれないのだろう。ミケ子さんに、私の気持ちは、伝わらないのだろう。こんなに謝りたいのに。院長先生に、謝りたいのに。ミケ子さんが許しえくれるのなら、院長先生も許してくれる、そう思えた。

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