第19話
高学年くらいに大きなって、私は父から院長先生の話を聞いたことがあった。
父は
「このままでは、院長先生は死んでしまう。」
と言っていた。
それは、労使交渉の話であった。
北陸の田舎は、労働組合が激しかった。労働組合の力が強かった。歴任の院長先生も管理職もかなり苦しめられていたそうだ。労使交渉の日は、深夜に及んでいた。その姿を見て、父は、
「院長先生が死んでしまう。」
と発したのだ。
昼食を職員の食堂で食べなかったもの、労使の間で、何かあったのかもしれない。食堂は、労働組合の人のものなのかも知れない。だから院長先生は、毎日、家で食事を食べていたのかもしれない。
病院には、職員用の大きな温泉のような、銭湯のような浴場があった。
引っ越してきてすぐの頃は、楽しくて、母と行ったことがあった。そこには、当直の看護師さんがほんの数人しかいなく、あまり使っている様子がなかった。しかし、あれも、労使の労働組合の方のものなのだったのだろう。労働組合が勝ち取ったものなのであろう。母は、病院には大きなボイラーがあって、それでお湯を沸かしえいるから、家よりも全然お金がかからないと言っていた。それでも、浴場には、あふれるお湯が、いつも満杯に溜められていた。誰が使うとも分からない浴場に。
引っ越してすぐのときは、クリスマス会にも呼ばれていった。私は母にスーパーの洋服売り場で、一番派手な洋服を買ってもらった。クリスマス会に着て行くためだった。でも、院長先生はいらっしゃらず、我が家も、いつの間にか、クリスマス会には、出席しなくなった。それが、最初で最後のクリスマス会だったと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます