第14話

そんな私は、誰からともなく、噂を聞いた。

 おそらく、噂の出どころは、同じ病院で働いていた、大工さんの息子からだったのだろう。直接、その男の子から聞いたのではなかった。誰からともなく聞いた。日頃、しゃべらないような相手から、聞いたのだろう。

 

 私は小学校の低学年のころ、その大工さんの息子が、

 「僕のお父さんは、病院で働いていて、お医者さんだ。」

 と言っていたので、

 「違うよ。あんたあのお父さんは、病院の大工さんだよ。」

 と、言ったことがある。

 そのあと、しばらくして、私は、病院の敷地で、その子のお父さんを見たとき、私のことを、ものすごく苦々しい顔で私の方を見ていたことがった。その親は、私のことをひどく怒っているようだった。私が本当のことを教えてあげたことは、その親子にとって、親切にはならなかったようだ。私には、親切が分からなったのだ。意地悪の雨に行ったのではなかった。本当のことが大切だと思ったのだ。本当のことでも、伝えなくてもいいことがあることを、小学生の低学年の、その頃の私は、知らなかったのだ。

 

 噂を誰から聞いたかは、思い出せない。

 思い出せるのは、それは夏のことだったということだ。陽が沈むまでの時間の長い、夏のことだった。

 誰から聞いたかは、私にとって、どうでもいいことだった。

 誰から聞いたかは、重要ではなかった。噂の内容が、重要だったのだ。

 病院の関係者で小学校に通っていたのは、その男の子しか思い浮かばない。

  でも、ほかの従業員の誰かが、その誰かの知り合いに話して、その話を聞いた人が、病院の関係者以外の、私の通っていた小学校の子供に話していたのかもしれない。とにかく、誰から聞いたのか、分からない。

 噂の出どころは分からなかった。

 私の記憶にないと言うことは、そこは重要ではないということだ。しかし、分からないような人が知っているということは、多くの人がしていたのだろうか?

 この噂で需要なのは、私の住んでいる病院の噂を聞いたということなのだ。

 私の住んでいる箱庭の世界で、私の知らないことが起きていた。それは、私にとって、あってはならないことであった。

 私は、真相を見に行きたくなった。本当かどうか知りたくなった。私は、知らなければならないと、思った。

 私の住んでいる病院のことを、私よりも知っていることが、納得できなかった。それは、私が知るべきことだった。

 その噂は、良い方の噂ではなかった。悪い噂だったのだ。良い噂よりも、悪い噂の方が、早く広く伝わっていくものだ。

 私は、どうしても知りたくなった。その時の私は、もう空が目に入ってこなくなっていった。その時の空は、低く視野を狭めさせていた。私は目の前のことしか見えなくなっていった。

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