第11話
病院は、1階が外来になっており。2階に院長室や副院長室、そのほかの部屋もあるのだと思う。よくは分からなかった。通用口kら上がった二階は、事務長さんたちがいる大きい部屋だったと思う。子供は、滅多に中に入ることはなかった。
病院の奥は検査の部屋があり、その奥は入院病棟になっていた。5階建てになっている。大きな病院だった。門から後面玄関までも、広い駐車場になっていた。とても広々としていた。大きな松の木が、ところどころに立っていて、通用門の前は、大きな銀杏の木が立っていた。
門から、まっすぐに歩行者用の歩道用の歩道がつながっていた。でも、私はいつも斜めに横切って、通用口の公用車の駐車場の方に、帰っていった。家に向かって歩いて行った。病院に向かう人間ではないので、あえて歩道を通らないようにしていた。私のこだわりだった。
院長先生は、窓辺に立っていた。朝は、私は後ろ向きだし、学校の始まる時間は、まだ出勤されていないと思う。私が帰る時間は、外来も入院患者さんの診察も、落ち着いた時間であったのろう。遠くに見える院長先生は、穏やかなお顔をされているように見えた。
私と院長先生は、お顔を合わせることが少なくなっていったが、こして仲良くしているつもりであった。
私は、2年生くらいになり、ヒョウソウという、病気になった。病気なのか怪我なのか分からないが、左手の中指の指先が膿んでいた。私の爪はいつもカサカサに乾燥していた。おそらく、乾燥した指と爪の間に亀裂が入り、そこからばい菌が入ったのであろう。その爪と指の間が膿んで腫れていた。
メスで切って、膿を出す。メスを使うということは、手術だ。私は、それを病院で院長先生にしてもらうことになった。
私は、外科の診察室にいた。
病院では、院長先生と特別なおしゃべりはしなかった。けれども、私と院長先生は仲良しだ。私はそう思っていた。看護師さんたちとも特別な話はしなかった。私は、看護師さんたちに、私と院長先生が仲良しだと知られたくなかった。これは、私と院長先生との秘密にしたかった。
私は、ただ椅子に座って、余所行きの顔をして処置してもらった。
麻酔も何もすることなく、私の手術は始まった。
院長先生はメスを持つと、処置台に置かれた消毒された私の左手の指に、すっと、メスを落とした。
指は、痛いというよりも、痛みがなくなる感覚だった。あっという間で、痛みも分からなかった。院長先生はパンパンに腫れた指の皮を、楽にしてくれた。
手術が無事に終わった。
指からは、思ったほど、膿は出てこなかった。膿と一緒に、少しの血がにじんでいた。
看護師さんが、消毒液のついた脱脂綿で、それをぬぐってくれた。そして、きれいなガーゼで包んでくれた。
手術は、私が緊張して臨んだ時間より、はるかに短い時間であっけなく、終わっってしまった。
ヒョウソウは、指先にできた膿だ。
放っておくと、どんどん悪くなってしまい指を切り落とすかもしれない。私は、そう思っていた。
自分は大変な病気にかかっているという自覚をもっていた。病院には、必ず行かないといけない。私は強く心に思っていた。
「大きな病気にかかったのだから、完治するまで、ちゃんと院長先生に診てもらわないといけない。」
私は、そう思っていた。
次の日、私は、消毒に行った。
その日、院長先生がいらして、丁寧に消毒してくださった。その日も、余所行きの顔で処置していただき、院長先生との仲良しは秘密にした。
消毒して、ガーゼを交換してもらった。
最後にお礼を言って、私は診察室を出た。
私は、次の日も消毒に行った。
その日は、院長先生は、いらっしゃらなかった。
私は、院長先生を呼んでほしいと、看護婦さんに言った。
しばらく待っていると、院長先生がやってきて、院長先生が手早く消毒してくれた。その日も。余所行きの顔をしていた。特別なおしゃべりはしなかった。
私は満足して家に帰った。
何事もなかったように、一日が終わろうとしていた。
そうしていたら、父が帰ってきた。帰ってくるなり、父は母に向かって、
「よし子が、病院で院長先生を呼びだしたらしい。院長先生を呼びだしてはいけない、看護師さんが大変だったらしい。よし子に言っておかないけんな。」
そう言っていた。
私は、母から、
「消毒は外科の先生なら誰でもできるのだから、院長先生を呼んではいけません。」
と言われた。
私は、
「分かりました。」
と、母には言った。
けれど私は、納得できなかった。
私は、院長先生と特別な関係だ。院長先生は私のことを、大事にしえくれている。可愛がってくれている。病院の人は、誰も知らないが、一番の仲良しだ。院長先生じゃないと、知らないお医者さんになってしまう。院長先生じゃないと嫌だった。
それ以来、私は、消毒に行かなくなった。そして、もうそれ以降、病院にも行った記憶がない。
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