第10話

私が、院長先生の家で、夏休みを過ごさなくなったのは、いつからだっただろう。

私が小学校に上がり、忙しくなっていったからだろうか。

夏休みのプールに行ったり、登校日に行ったり、友達と約束ができたり。

でも、本当の理由は、私が玄関先で、院長先生を待たなくなったからだと思う。

私は、院長先生の帰りを待つことがなくなってしまった。

それでも、私と院長先生との関係は、特別だった。私の中では、特別だった

 私は、学校から帰ると、病院の門から帰ってくる。門から見ると、病院の正面玄関の上の窓は、院長先生の部屋になっている。その隣は、副院長の父の部屋になっている。

 私は、箱庭の中の世界に帰るときは、門を通り、父の部屋と院長先生の部屋を見上げる。私が、正面から帰ってくると、誰かが立っているとすぐに視界に入ってくるので、すぐに分かる。

 父が立っていると、私は手を振ることがある。父も、手を振り返してくれる。院長先生が立っていると、私は少し頭を下げた。すると、院長先生も、少し頭を下げていらっしゃった。院長先生からも、私が見えているのだと分かる。父と院長先生二人が建っていることもあった。私が手を振ると、二人とも手を振ってくれることがあった。

 箱庭の世界に帰るときも楽しかった。

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