第21話
私が、研修医の人に向かって言った
「犬殺し。」
お言う言葉よりも、もっとひどい言葉を浴びせられていたのなら。院長先生は、耐えられたのだろうか。院長先生の心は、耐えられたのだろうか。
私が、研修医の人たちに向かって言った
「犬殺し。」
という言葉を、どんな気持ちで聞いていたのだろうか。
悲しくて、仕方がなかった。どうしようもなかった。
もう一度、院長先生の前に立って、謝らなければならない。
やっぱり、謝りたかった。
院長先生は、戦争の話など、したこともなかった。私は、そうめんが好きなだけで、残り物のご飯が食べたくないだけで、そんな、ちっぽけな理由で、院長先生の家に行っていた。子供というだけであった。
院長先生が、私を昼食に誘ったのは、戦争のことを知らないから、選んだのだろうか。戦争のことも何も知らない子供を。
あんなに、人々を助けることを、使命としていた院長先生を、町の人は、受け入れてくれていたのだろうか。
記憶に残っている院長先生の話は、玄関で靴をそろえている私を、とても褒めてくださったこと。赤ちゃん猫をとろうとすると、お母さん猫が可哀想だということだけだった。院長先生は、とても大事なことを教えてくれた。優しい先生だった。
院長先生の言葉を私は、今でも忘れることはない。
そして、奥様は、言葉を発することはなく、私に新品のそうめんを毎日、作ってくださり、お魚のあだ名のお姉さんは、楽しいところに連れて行ってあげると言い、自分で軽自動車を運転し、私と二人でお出かけしてくださるとても気さくで明るい方であった。
そんな幸せな、優しいご家族であった。
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