第26話

 猫は、生の塊だ。命の形だ。猫を見ていると、そう感じる。子猫も大人の猫も。

 院長先生が、猫がお好きだったのは、命の塊だからではないだろうか。

 猫は人間に飼われていても野生の生き物だと聞いたことがある。猫を見ていると、命を感じられる。

 院長先生がミケ子さんを飼っていたのは、命の形を、そばで見ることができたからではないだろうか。

 遊んでいるミケ子さんは、命の塊だった。院長先生が作ったおもちゃで遊ぶミケ子さんは、命そのものだった。

 

 ミケ子さんは、院長先生より長生きしていてほしいと思っている。院長先生を悲しませに出欲しいと、思っている。

 院長先生を悲しませた最後の人が、私であってほしいと思っている。

 優しい院長先生を、悲しませる人は、私一人でいいと思っている。

 

 ミケ子さんは、死んだとは思えなかった。きっと、院長先生の奥様のそばにいると思う。

 ミケ子さんは、とびきり賢い猫だ。もしも、死ぬと分かったら、そっといなくなるだろう。

 人目のつかないところに、ちゃんと行けるだろう猫だろう。ミケ子さんは、私より賢い猫だった。

 ミケ子さんは、きっと院長先生が亡くなっても、奥様とお魚のあだ名のお姉さんのそばにいると思う。ミケ子さんを見ると、院長先生の奥様も、お魚のあだ名のお姉さんも、みんな笑顔でいられるだろう。院長先生のことを、沢山思い出してほしい。

 院長先生が作っていたような、新聞で作る猫の遊び道具を、作って遊んでいるだろう。ミケ子さんがいなくても、ミケ子さんの子供のジョンが遊ぶだろう。そしたら、院長先生も笑顔になっているだろう。

 ミケ子さんは、私のことを覚えているだろうか?風景と思っていた私のことを、ミケ子さんは覚えていてくれただろうか?

 院長先生が寂しそうにしていたとき、ミケ子さんは院長先生の手作りのおもちゃで、元気に遊んで院長先生を笑顔にしてくれたのだろう。ミケ子さんは賢い猫だ。院長先生が、一番分かっている。院長先生が認めて、ミケ子さんが認めて、一番賢いのだ。

 一番賢くて、一番優しい。ミケ子さんもインコ府先生も。

 ミケ子さんは、私にできないことを代わりにしてくれていただろう。

 

 もう、なす術のない私の願いは、ミケ子さんだ。ミケ子さんに頼るしかない。

 私の救いは、ミケ子さんの賢さだ。

 できることなら、ミケ子さんに、私が謝 っているということを、院長先生に伝えてほしい。今からでもいい。幸せな、天国で、院長先生に、伝えて欲しい。

 院長先生のそばには、猫がいると思う。ミケ子さんもいると思うけど、ほかにもいっぱい猫がいると思う。

 そして、院長先生が助けた、多くの人に感謝されながら、過ごしていてほしい。

 とても穏やかに。

 私は、幸せな表情で、坂を下りてくる院長先生の姿を思い出したい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

院長先生とミケ子さん @gjo123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ