第25話
俺とのあが付き合うようになってから一年間は大きな問題もなく過ごせていた。忙しく会えないことも多いが、のあはそんなことを受け入れてくれた。
しかし、ある日異変が起き始めた。「ごめんね、しばらく会えそうにないや」というメッセージだけ送られてきた。最初は忙しいからなのだろう、そう思っていた。
むしろ、そうであればまだ希望はあった。
相方「なあ、彼女さん最近見ないけど、なんかあったのか?」
海「いや、なんかあった訳じゃないんだけど、のあがしばらく会えそうにないって」
相方「なんかあったやつだろそれは」
海「やっぱそう思う?」
相方「一回電話でもかけてみれば?」
海「そうするわ」
そして、一人になったタイミングで、電話をかけてみることにした。
海「もしもし?のあ?」
のあ「か、海…」
海「そうだよ。なんだか不安になってさ。最近なんかあった?教えてくれないかな」
のあ「助けて…!」
海「………え?」
???「おい!なに勝手に電話に出てんだ!」
のあ「……っあ」
そこで電話は切られた。助けてって、どういうことだ?いや、そんなことよりも………
あの声、確かシンガーソングライターの花園 空だよな?どうしてあいつの声が?分からない。何も分からない。
それから一週間後、最悪の事態に発展してしまった。その日は夜まで仕事があり、帰るのも随分と遅くなってしまった。夜ご飯に何か買って帰ろうかと思っていたところで、メッセージが来た。
のあ「海、さようなら。ごめんね。今までありがとう。ずっと大好きだよ」
海「な、何だよ、なんでこんな死ぬつもりかのようなことを言ってんだよ……」
そのことに困惑していた時だ。人がマンションの窓から飛び降りるのが見えた。そのやや近いところで見ていたのですぐに分かった。
海「の……のあ……?」
嘘だと思いたかったが、あんなメッセージが送られた後だ。つい信じてしまうものだ。いや、あれが誰だとしても見なかったことにはできない。恐怖で動けなくなりそうな足を強引に動かした。
しかし、予想していた通り、その飛び降りた人はのあ本人だった。
海「嘘だろ…のあ…?」
のあ「………ぁあ、かい………いたんだ……」
海「しっかりしてくれよ!今救急車呼ぶから!」
のあ「………よか…………った……さいご……に………あえ…………て……」
海「のあ…………のあ!?」
俺の腕に抱えられて、のあは息絶えた。その顔は微笑んでいたが、俺は全く笑えなかった。
そこからは心が死んでしまったような感覚だった。自分が守れなかったせいで、大切な彼女が死んだ。俺が殺したようなもんだ。
相方からもこのことについてはあまり触れられなかったが、やはり俺があまりにもおかしな様子だったから、気になってはいたようだ。もっとも、それが俺に届くことはないのだが。
しかし、俺の運命を突き動かす出会いがあった。その相手はネット上で話す程度で、正体も分からないが、何故か俺に「復讐」を提案してきた。
???「どうです?復讐したいとは思いませんか?」
海「いや、今はまだ」
???「そうですか。まあ、気が変わったときにでも」
そんな都合のいいことがあるはずがない。復讐したい気持ちは少しぐらいならあったが、何がなんでもということはない。そもそも、相手がまるではっきりしていないのに復讐を決意できたものだろうか。
と思っていた。が、運命はまた大きく変わった。きっかけは、昔共演したアイドルの山田 つぼみとサシで飲みに行こうと誘われたことだ。
海「へ、へぇ。意外に飲むんすね」
つぼみ「最近、もう辛いことばかりで」
海「なんかあったんすか?ちょっとぐらいなら、相談乗りますよ」
つぼみ「…はぁ、松原さんと花園さん、あの人たちはどうしたらいのよ」
海「二人からなんかされたんすか」
つぼみ「なんかされたなんてもんじゃない。三日に一回はラブホに連行されそうになるんですよ」
海「うわ…」
とんでもないカス共だ、と思ったその時だ。
つぼみ「あぁ、そうよ!あの女、あの女さえ生きていれば、あのADさえ生きていれば私はこんなに不幸にならないのに!」
海「あ、あの女……?」
つぼみ「なんで飛び降り自殺なんかすんのよ!おかげで私が大変な目に!」
海「………」
つぼみ「いや、違うか。赤間さんが我慢していれば、我慢してあの女を代わりにしなければ!」
海「…………そうすか」
ああ、なるほど。なんとなく見えてきた。つまり、俺は四人に復讐するのか。
そうして、覚悟を決めた。
???「おぉ!素晴らしいですよ」
海「で、何をすれば」
???「まぁまぁ、そう焦らず。私が言う通りにしなさい」
海「……」
???「まず、この地図のここに松原 麗を呼び出しなさい。そして、私が支給する麻酔薬を注射器で打ち込んでください。そこからあとは一度私で処理をします。
そして、後日私から送られた荷物と共に境界島へ向かってください。具体的な日程は荷物に同封しておきます」
俺は言われたとおりにした。まずは、指定された場所に松原を呼び出した。
麗「なんだ、こんなところに呼び出して」
海「他の何でもありませんよ。ただ、聞きたいことがありまして」
麗「ん?」
海「あなた、佐倉 のあって人に心当たりは?」
麗「あぁ、いたな。そんなの。それがどうした」
海「その人、俺の彼女だったんすよ。あんたらが都合良く利用していたそのタイミングも、死んだタイミングも」
麗「!?」
海「なぁ、のあに何したんすか?」
麗「そんな大したことはしてねェぞ?むしろ『キモチいい』ハズなんだがなァ」
海「……それ、花園さんはどう関係が?」
麗「あいつはそんなにだったなァ。ま、あいつもヤるときゃヤったけどな」
海「……へぇ」
麗「いやァ、にしてもあの女、良かったな。背丈はさほど高くないが、胸も尻も結構でけえし、分かりやすく嫌がるからこっちも興奮するっての」
海「そうかよ。やっぱそうだったんだな!この野郎!!!」
そして俺は、隠していた注射器を首に突き刺した。
麗「っ!」
海「二度と起きるんじゃねえ、キモイんだよ」
その後は説明された通りに行動した。だから、全身バラして送り付けたって聞いたときは衝撃的だったが、それでもまだ心が埋まりきらない。復讐をする相手が残っていたからだろう。
そして、俺は「黒い天使・アズリエル」としての復讐劇を恐怪島で起こしたのだ。
こんなことでのあが満足することはない。それでも!俺が誓ったんだ!
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