第21話

私たちはコテージへ戻ると、すぐに剣持さんに説明をした。犯人とトリック、そのどちらもが推理できたということを。


響「___というわけなんです」


蘭太郎「なるほどな。しかし、それを今からわざわざ全員の前で解説しようってか?」


響「そうですね…犯人の方には申し訳ありませんが、今後さらなる殺人が起こるかもと怯えさせるわけにもいかないですし」


蘭太郎「了解した。それじゃあ、今から全員を呼んでこよう」


響「お願いしますね」


それからしばらくして、根室さん、杉本さん、花園さん、種子島さんの四人を呼んできてくれた。


蓮花「呼ばれたから来たけど、なんかあったの?」


海「もしかして、犯人が分かった、とかですか?」


響「感がいいですね、種子島さん。そうです。犯人が分かりました」


空「待ってくれよ。これじゃまるで僕達の中に犯人がいるみたいじゃないか」


響「そうです。最初に教会に集まったときも同じようなことは言ったんですがね。その時は確証がなかったので誤魔化し気味に言いましたけど」


誰かが犯人だという可能性を伝えたのならそれは誤魔化しているとは言い難いのでは…?とは思ったものの、そんなことで動揺している場合ではないと思って気にせず話を続けた。


響「それでは、今回の事件について、推理できた範囲の情報を説明していきましょう。今から説明するのは、この島で起きた二つの殺人事件及びここに来るきっかけとなったバラバラ死体、そしてその事件を起こした犯人の正体です」


和那「なんだか、探偵ものの小説みたい」


「みたい」、というか本当に探偵ものの小説なんだよなぁ。杉本さんから見ればそうでないだけで、この文章を読んでくれている方にとっては小説という括りではあるんだし。


空「まるで事件を茶化してるみたいじゃないか?」


響「そんなことはありませんよ。これも立派な仕事です」


ただ、事件の説明をする時にどうしてもエンタメっぽく言ってしまうのは私の悪癖なのだろうと思う。作品的には仕方がない点も少しばかりあるのだが。


響「さて、あまり長話をしていてもいけません。本題に入りましょう。まずは、赤間さんの殺人事件の時についてです」


赤間さんの事件において重要なのは、死体が燃えていたこととしばらくの間姿を誰も見ていなかったということ、それと左足が切り落とされていたことだろう。


空「死体が燃えていたことが重要?何を馬鹿げたことを。そんなの、殺すことに意味があるんだから、わざわざ考えなくてもいいじゃないか」


響「あなたの言うことも分かります。しかし、ですよ。その『死体を燃やすまでの過程』という点に注目すると、なんだか違和感を覚える点があるんです」


空「違和感?」


響「犯人がどのようにして燃えている死体の左足を切り落としたのか。私が見た死体の左足は燃えた様子なんてありませんでした。それなのに、死体そのものは燃えていた。どうしてだと思いますか?」


海「死体が燃えている中で一部だけ切り落とす、と。そんなことが、人間に出来るのでしょうか?」


和那「分かんないよ。それこそ、想像もできないような特別な方法でもあれば可能になるかもしれないし」


響「残念ですが、その発想そのものが間違っています」


蓮花「嘘でしょ!?それじゃあ、どうやってそんな犯行が出来るの?」


響「そもそも、燃えている死体から切り落とすという発想に囚われていては真相は見えてきません」


蓮花「勿体ぶらずに教えてよ」


響「左足を切り落としたのは死体を燃やす前だった、ただそれだけです」


ここまではノーヒントで考えつく人もいるだろうが、ここより後はさすがにノーヒントでは考えられないだろう。


蘭太郎「なるほど。しかし、死体をずっと一箇所に置いていては、いくら儀式の祭壇といっても怪しまれるのでは?」


響「確かに、完全に何もしなければ犯行が起こることは確実にわかってしまうでしょう。そこで、犯人は祭壇そのものの仕掛けを利用したのです」


蓮花「祭壇そのものの仕掛け?」


響「祭壇に、石の台があったじゃないですか」


和那「あったけど、それが一体何だって言うの?」


響「実は、あれが棺の役割を果たしていたのです」


蘭太郎「棺……もしや、あそこに死体を隠したとでも!?」


響「その通りです。犯人は、予め赤間さんを殺害し、一度棺に隠した。そして、その死体を取り出した後で左足を切り落とし、残りを燃やす。これこそが、事件の真相です」


棺から何かの臭いがしなければ気が付かなかった。まさか、あれが「灯油」の臭いとは。そう考えるとそんな臭いではあるが、思いつかないものは思いつかない。


それに、まさか儀式の祭壇の石の台が棺の役割を担っているとは思わなかった。よく考えついたものだよ。そもそも、そんな作りだなんて、事件が起こらなければ想像すらしなかっただろうし。


しかし、これだけではない。まだ推理することは残っている。

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