第20話
一織「失礼しまーす」
私たちは儀式の祭壇を降りて、そのまままっすぐに教会へ向かった。
一織「やっぱり広いですね、この教会。ここに何かしらトリックのヒントがあるといいのですが」
響「まぁ、さすがにあるんじゃないかな。ほら、そこに山田さんの死体もあるし」
山田さんの死体は私たちが見つけたときと全く変わらずにいた。そのため、犯人は一切手を付けれていないといえる。もし証拠が残っていれば、私たち探偵としては非常にありがたい。犯人にしてみればもどかしさと犯行が露呈する恐怖とで気が気でないかもしれないが。
一織「なんだか、妙な感覚ですけど、まだ赤間さんよりは綺麗な姿で殺されてますよね」
響「そうかもね。パッと見ただけでも本人だって判別できるぐらいだし、黒焦げにされた赤間さんよりはまだマシなのかも」
しかし、殺されていることには変わりないので、誤差でしかないと思う。
響「一回さ、山田さんが殺されたときの流れを整理してみない?」
一織「そうですね。捜査はその後で」
私たちが把握できている限りだと、大まかな流れは以下のようになる。
まず、山田さんが殺されたのは恐らく五時から六時の間である。その根拠となるのが、杉本さんに届いたというメッセージだ。私たちもこの目で確認したが、間違いなく時刻は五時ごろであった。それまでは生きていたはずだ。
そして、そのメッセージとして送信されたのが、教会の屋根にあった天使像だ。これがあることは、教会の近くでは生きていたということの裏付けとして使える。
また、彼女の殺しかたについてだが、明確な死因は教会にあった十字架に括りつけた縄による絞殺だろうか。腕を切り落としたことも十分可能性としては考えられるのだが、正直絞殺よりも可能性は低いと思う。
さて、流れを整理しようなんて言ったが、実はこれが限界だ。この後は、教会の様子を見に行った杉本さんに呼ばれてついて行ってようやく死体を見つけたという感じなので、あまり何とも言えない。
いや、一つ忘れていたことがあった。コテージに置かれていた山田さんの右手だ。間違いなく、犯人は切り落とした後でこれをコテージに置くことが出来たはずだ。しかし、一織ちゃんがいるのだから、真正面から入るとはあまり考えられない。
彼女も完璧に警戒しきっていたわけではないと思うので、もしかするとただ単に気がついていなかっただけかもしれない。しかし、何か裏でトリックを使っていたという風にも考えられる。考えすぎだろうか…?
一織「難しいですね、この事件。もうちょっとヒントくれてもいいんじゃないですか?」
響「そんな娯楽感覚で…」
一織「そんな気持ちじゃないと、探偵は務まらないのでは?」
響「はぁ……かもね」
そう言うと、私は山田さんの死体を観察し始めた。が、死体そのものには何もおかしな点はなかった。おかしな点、というと伝わりにくいか。新しい発見とでも思ってほしい。
死体そのものには細工らしい細工が施された形跡がまるでない。殺す過程はどうであれ、殺した後はさほど手を加えていないようだ。そんなことをする必要がないだけかもしれないが。
結局のところ、調べても分からないものは分からない。ただ、犯人が誰かというのは確証を持っているため、それを強引に暴けるように彼女のポケットからスマホを取り出した。
私が死体を調べている間に、一織ちゃんはとあることに気がついていた。
一織「なるほど。こりゃあ一本取られたわ」
響「一織ちゃん?どうかしたの?」
一織「いえ、そんな大したことでもないです。お気になさらず」
響「いや、なんか余計そういうの気になっちゃう」
一織「そうですか。じゃあ、今から私が気がついた『あること』についてお話しましょう」
一織ちゃんが気がついたこと、というのは、どうやって正面から入らずにコテージに死体の一部を置いたのか、その方法だ。しかし、話を聞いていると実は複雑でもなんでもないということに気づかされる。どうして見落としていたのだろう。
その方法というのが、部屋の窓を使って移動するというものだ。こうすれば、全く目立つことなく移動できる(多少の物音はするかもしれないが)。そのため、私たちは気がつかないでいたのだ。犯人が着々と動き出していたとしても。
そして、この方法を使うことで可能になることがもう一つある。赤間さんの失踪だ。何も、直接犯人が彼女に接触しなくてもいい。犯人が呼び出して、赤間さんがそれに応じる。この時、「窓を通って外に出ろ」のように指示を出せば、犯人にとって都合よくターゲットが現れるというわけだ。
響「よくそんなこと考えついたね」
一織「そうですね。これに気がついたきっかけは、この窓です」
響「窓?このステンドグラスの?」
一織「そうですね。実はこれ、こんな風にして……」
彼女はそう言うと、ステンドグラスを押した。するとなんということだろうか、ステンドグラスが奥に動いたのだ!
響「え!?これそういう作りなの!?」
一織「みたいですね。私もびっくりしましたよ」
響「よく考えられたもんだよ」
一織「しかし、これが分かったところで、どうやって山田さんを殺したのか、その流れは全くピンとこないんですよね」
響「そうだよね。何かあればいいんだけど」
一織「もうちょっと、教会をじっくり調べてみましょうかね」
というわけで、二人で教会の調べられそうな所は色々と調べた。そして、かなり時間が経ってから、共有をしよう、ということになったのだが………
一織「響さん、何かありました?」
響「特に何もなし。そっちも?」
一織「そうですね。すみません…」
響「しょうがないよ。毎回都合よく証拠が残っているとも限らないんだからさ」
一織「でも、なんか、真相はすぐそこに、っていう予感がするんですよ」
響「すぐそこに?本当にそうなのかな」
私はやや懐疑的であったが、一織ちゃんはそんなことは全くないようだ。
一織「絶対何かしらはありますって」
響「私もそうなんだろうなとは思うんだけど、これ以上どこに何があるっていうのか、もうお手上げだよ」
一織「そんなことないですって。ほら、この天使像だって、もっとよく調べれば立派な証拠になるかもですよ?」
彼女はそう言うと、何故か天使像の頭を撫で始めた。
響「ちょっ、一織ちゃん!?そんなことしたら、手に埃がつくよ?」
一織「あ、そうでしたね。いっけない」
そう言うと、一織ちゃんは自分の手を確認した。しかし、何か異変があった。
一織「え?嘘でしょ?どうして何もないの?」
響「何もない?どういうこと?」
一織「私、一回目とは違う方に触ったんですよ。なのに、埃が付いていないんです」
響「はぁ!?そんなことがあるの?」
信じられない。確実に付くはずなのに…
響「…………いや、もしかして…!」
私は天使像が置かれている台座を確認した。すると、とあることに気がついた。
響「片方は埃が付いていてもう片方には付いていない?どういうことだ?」
一織「もしかして、これこそがトリックのヒント?」
しばらく考えた。そして、とある可能性にたどり着いた。
たどり着いたところで、行動に移してこそトリック解明の流れだ。結果としては成功だ。
響「なるほどね。ようやく全てが掴めたよ」
一織「え?どういうことですか?正直、未だに私は分かっていないことがあるんですけど…」
響「任せておいて。ここからは、私が何とかするよ」
そう言って、私たちは犯人が待ち受けるコテージへと向かった。事件の真相を話すために。
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