第19話

一織「しかし、犯人が分かったとしても、肝心のトリックとかは分かりませんね」


響「そうだね。それぞれの殺人で間違いなくトリックは使われているはずだし、そこは絶対に調べたいけど…」


一織「それで、私思ったことがあるんです」


一織ちゃんはそう言うと、祭壇にあった台を指さした。


響「あの台がどうかしたの?」


一織「響さん、ここに来たときに言ってたじゃないですか。『臭い』って」


響「あー」


言われてみればそんなことを言っていた気がする。


響「それがどうかしたの?」


一織「もしかしたらなんですけど、本当にその通りなのかもしれないです。今更ですが、私もそんな気がしてきて」


響「だとすると、ここには何か秘密でもあるのかな?」


一織「どうなんでしょうね。なんか変な植物も多そうですし、それから変な匂いがしてるだけかもしれませんし」


響「それはそうか」


すると、一織ちゃんがこんなことを言い出した。


一織「そういえば、なんですけど…あの後、足はどこにやったんですか?」


響「足?…あっ」


一織「『あっ』って、あなた、まさか見失ったとかじゃないですよね…!?」


私は左上に目を逸らした。


一織「ちょっと!?何してんですか!?」


響「あー、大丈夫だよ。多分、階段に置いてきたはずだから」


一織「いや、他の人たちも見てますし、大丈夫だなんてことはないと思いますけど…」


響「うっ。探して来ます…」


一織「私もお手伝いしますよ」


階段を降りていくと、普通に放置されていた足があった。


響「あー、良かった」


一織「気をつけてくださいね」


響「それでさ、一織ちゃんはなんでこれが気になったの?」


一織「あ、そうでしたね。まずは、持って上がってください」


人の死体の一部を持って移動する。実にスリリングな経験だ。ただし、決して楽しくはない。


響「はい。持って上がりましたよっと」


一織「それじゃ、これを真っ黒なこの死体に合わせてみましょう」


響「合わせる…この、切られたところでいいんだよね?」


一織「そうです」


私は言われた通りにした。左足を死体の切られたところに置いた。すると、本来の姿のようになった。


響「これが、一織ちゃんが確かめたかったやつ?」


一織「そうですね」


響「これを見て、何か気づくことはある?」


一織「いえ、特に何も。響さんは、何かありますか?」


響「私も特にないかな。ただ、赤間さんは左足を持ってきたわけだから、山田さんの時と同様に、送られた身体の部位に合わせて切り落とされるっていうのは間違いないよ」


一織「なるほど」


しばらくしてから、私はとあることに気がついた。


響「ん?どうして今回は少しやり方を変えてきたんだ?」


一織「え?どうかしたんですか?」


響「山田さんの時は死体の一部をコテージに持ってきたのに、今回は適当に階段に置いていた。ここがなんだか引っかかるんだ」


一織「えー、そうですかね」


響「やっぱり、山田さんの時は一回一織ちゃんの近くを犯人が通ったのかも。右手を運ぶためにね」


一織「でも、コテージの扉はすごい大きいんですよ。開けたら、寝ていてもさすがに気がつくと思いますけどね」


響「やっぱりそうだよねぇ。うーん…」


こんなことを考えても仕方がないかもしれない。また後で考えることにしよう。


一織「響さん」


一織ちゃんが台を見ながら私を呼んだ。


響「何?」


一織「これなんですけど、さっきから気になっていて、でも、私の中では解決しました。やっぱり変なにおいしますね」


響「やっぱりそうか。しかし、どうしてだろう?」


一織「さぁ。ただ、なんかこれの中からそんなにおいがするんですよね」


響「中?その台の?」


一織「そうなんです。気のせいかもしれませんけどね」


台の中からする変な匂い。それに、近くにあるのは焼き殺された死体…


響「………待てよ。もしかして…!」


一織「響さん、もしかして、何か分かったんですか?」


響「ちょっと見ててね」


そういうと、なんとその台の上に私は寝転んだ。しかも、両手を心臓のほうに置いて。


一織「え…何してんですか」


響「見たまんまだよ。それ以上でもそれ以下でもなく」


一織「そんなことを言われても…」


響「ほら。もっとよく見て。何か分からない?」


一織「何かだなんて言われても、難しいです。そもそも、なんでそんな体勢で寝転んだんですか。まるで棺桶ですよ」


彼女は呆れたようにそう言ったが、やがて私の意図を汲み取ってくれた。


一織「え?まさか、そういうことなんですか?」


響「どうだろうね。だから、今からそれを確かめようと思うんだ」


一織「確かめる?どうやって」


響「パワーだよパワー」


一織「パワー!?…………あ、そうか」


そして、二人がかりでパワーを使い、「とあること」をした。ヒントは、「棺桶みたい」という部分だ。


響「まったく。見事な犯人だよ」


一織「本当にそうですよね」


響「ま、これで赤間さんの方のトリックは見えてきたわけだ」


一織「あとは、山田さんの殺害の流れですか」


響「頑張ろう!」


一織「はい!」


そう言って、私たちは教会へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る