第18話

響「た、多分?」


蓮花「だって、死体を直接見たわけじゃないから…」


響「だとしたら、なんで殺されたなんてことが分かるんですか?」


蓮花「…見たの。怪しいものを」


響「怪しい…もの?」


私がそう言うと、一織ちゃんが驚いた様子でコテージに入ってきた。


あれ?さっきまでコテージにいたよな?いつの間にコテージから出ていたんだ?


一織「な、なんですか、あれ…あの煙は何ですか…!?」


煙?


響「煙…まさか…!」


和那「とにかく、急ぎましょう!どこで見たの?」


蓮花「儀式の祭壇のほう」


一織「よし、場所が分かったならそちらへ向かえますね!」


蓮花「着いてきて!」


私たちは走って儀式の祭壇へ向かった。コテージから遠いせいで階段を登るのもひどく疲れた。なんとか階段を登っていると、何か変なものを蹴った感じがした。


響「うわっ!」


空「なんだよ。驚かすなよ」


響「すみません、なんか、妙な感じが…」


一織「妙な感じ、ですか?」


和那「いやぁぁぁっ!な、なにこれ!」


響「っ!?これは!?」


私が蹴ったもの、それは、人の左足だった。まるで、山田さんの右腕を見つけたときのように、目の前のそれを信じることを躊躇うほどに凄惨なものだった。人の身体の一部を見て平気な人はいないだろう。


私は死体を見慣れているから平気だと思うかもしれないが、さすがに限度というものはある。


空「ど、どうするんだよそれは」


響「後で私が上に持ち運びます。皆さんは先に上に向かってください」


他の人たちは私の指示通りに上に向かった。そして、私は一人残って左足の様子を確認した。強く蹴ってしまったとばかり思っていたが、意外とそんなことはないようで、傷もほとんど目立たない程度のものだった。


しかし、私はそこまで傷をつけていなくても、先に犯人は傷をつけていた。山田さんの時のように、文字を刻み込んでいた。


犯人「しをもってつぐなえ


あずりえる」


私は思わず「うわっ…」と口に出していた。何に対しての感情かは分からない。しかし、私が見たそれが異質であることは疑いようがないだろう。


私はそれから目をそらそうとして、上を見た。すると、煙が上がっていることに気がついた。


響「煙…………そうだ!まずい…!」


私は思い出したように階段を駆け上がった。よくよく考えれば、なんで足を優先的に調べようなんて考えたのだろうか。


自分の行いに関して理解に苦しみつつ、私も儀式の祭壇へと登った。気持ちはあまり乗らなかったが、足取りはそこまで重たくなかった。やはり感覚がどうかしているのだろう。


そして、登った先には、予想こそできても信じることは容易ではないような、そんな光景が広がっていた。


一織「はぁ……はぁ……」


響「一織ちゃん、これは…?」


一織「あぁ、響さんですか。見たまんまですよ」


見たまんま…私の目の前にいた「それ」は、紛れもなく現実のものとなったのだ。


全身黒焦げになって左足が欠損した赤間 楓さんの死体があった。煙が少しずつ消えていたのを見るに、相当消化活動を頑張ったのだろう。


いや、待てよ。なんだかおかしくないか。私が見た左足は刻み込まれた文字がはっきり読めたぐらいにはまだ綺麗だったのに、こちらでは死体が黒焦げでとてもだが同じようにしては読み取れそうにない。


どうしてだろうか。もしかすると、犯人にとってそれだけ死体に文字を刻むことは重要なことなのだろうか?


すると、そこにいた剣持さんに話しかけられた。


蘭太郎「おい、探偵。これは一体どうなっているんだ?」


響「剣持さん…私にも、何が起きたのかは分かりません。ただ、確実に言えることがあるならば、この人が何者かによって焼き殺されたということだけです」


蘭太郎「焼き殺された、か。そこは間違いないだろうが、だとすると疑問が生じるだろう」


剣持さんは、そこにいた全員に伝わるように話した。


蘭太郎「この死体が焼き殺されたのならば、誰がそんなことをしたんだ?それに、誰にも見つからないように、どうやって犯行を行ったんだ?」


一織「ちょ、ちょっと待ってください。『誰にも見つからない』なんて、どうしてそんなことが言えるんですか?」


蘭太郎「事情はここに来る前にそこにいる、根室さんと種子島さんから聞いたのでね」


海「そうですね。気晴らしに外を歩いていたら煙が上がっているのに気づいて」


蓮花「たまたま私も外に出ていたときにばったりと種子島さんに会って。で、煙に気がついたので教会にいた剣持さんに相談したんです」


蘭太郎「というわけだ」


響「そうですか」


現状では埒が明かないかもしれない。そんな状況を打破するべく、蘭太郎さんは違う話題を提供した。


蘭太郎「そうだなあ。では、今朝の教会にいた死体について、何か知っていることはないか?」


和那「あれは、最初に私にメッセージが来たんです。殺された子から、教会の天使像が写った写真と『助けて!』っていうメッセージが」


蘭太郎「それはいつの出来事でしょうか」


和那「確か、五時ごろだったかと」


蘭太郎「なるほど。では、そのメッセージが送られてから死体発見までの間はどれほどの時間が?」


和那「一時間ぐらいかと」


蘭太郎「なるほど。では、その間、不審な行動をした人物は?」


一織「恐らくいないかと。もしコテージの正面から出たのであれば、私が確認しています」


蘭太郎「そうですか…どうしたものか」


すると、花園さんがこんなことを言い始めた。


空「やっぱり、今回の事件って、僕たちの中に犯人が…?」


響「間違いないでしょう。関係者が二人も殺されたならば、疑うまでもないです」


海「クソっ!『黒い天使・アズリエル』を名乗る奴め!」


蓮花「一体誰なの?『黒い天使・アズリエル』って。それに、本当に犯人なの?」


響「それは分かりません。ただ、今からそれを調べようかと」


私は、剣持さんの方を向いてこう言った。


響「剣持さんにお願いがあります。私が事件を解決するまで、私と一織ちゃん以外の全員をコテージから出さないでください」


蘭太郎「いいだろう。ただし、そこまで言うなら、事件を絶対解決しろ。できるか?」


響「できますとも。じゃあ、お願いしますね」


そう言って、私と一織ちゃんだけが儀式の祭壇に残った。先に一織ちゃんが口を開いた。


一織「響さん。私、犯人が分かったかもしれません」


響「奇遇だね。私もだよ」


クライマックスまであと僅かだ。黒い天使・アズリエル。お前の正体は必ず暴いてやるからな。羽を洗って待っとけよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る