第17話

響「うーん、なんだか引っかかるなぁ」


一織「引っかかる?」


響「杉本さんが言っていた『私と君たちとで結構違うかもよ』って発言。なんだか、真相を知ってるからできる発言な気がして」


一織「確かに、それは気になるところですね…」


互いに考え込んだため、しばらく無言の時間が流れた。静寂を壊したのは、一織ちゃんが何かに気づいたからだった。


一織「………あぁぁぁっ!完全に忘れていたことがありました」


響「忘れていたこと?」


一織「そうですよ。箱の中に入っていた紙です。なんで忘れてたんだろう」


響「それで、何かあったの?」


一織「一人だけ、一人だけ違う人がいるんです」


響「一人だけ…。誰のこと?」


一織「蓮花さんですよ」


響「え?根室さんが?」


一織「そうなんですよ。厳密に言えば、紫陽さんなのかもしれませんけど」


どういうことだ?蓮花さんの何が違うというのだ?


響「違うって、何がどう違うの?」


一織「書かれていた文章ですよ。本当にわずかな違いですけど」


響「わずか?じゃあ、大体は根室さんのと同じってこと?」


一織「実はそうなんですよね。だから忘れてたのかなぁ」


響「ちょっと、確認してみてもいいかな」


一織「いいんじゃないですか?というか、私が許可出すことでもないですし」


言われてみればそうだ。ここにいたから頼りまくっていたが、全部彼女に許可をもらわなくてもいいだろう。


一織ちゃんは箱の中から手紙を取り出した。その内容を蓮花さんとそれ以外とで比べてみよう。


まずは、蓮花さんに送られたものだ。


犯人「貴様の元に現れた死体、それは罪人、松原に報いを与えたものである。何の報いか?貴様らが共同で生活をしたあの時のことだ。忘れたとは言わせない。


そして、貴様は罪人である。我はそう思っている。そこでだ、己の潔白を証明したいのであれば、我が住居、境界島へと来い。


我が、直接、この目で貴様らの秘められし罪を暴き、罪深き者には相応の報いがもたらされるであろう。己の罪からは逃れられぬ。怯え、苦しみ、そして悔いながらの死を楽しみにしておくがいい。


我は『黒い天使・アズリエル』である」


そして、こちらがそれ以外の人に送られたものだ。


犯人「貴様の元に現れた死体、それは罪人、松原に報いを与えたものである。何の報いか?貴様らが共同で生活をしたあの時のことだ。忘れたとは言わせない。


そして、貴様は罪人である。我はそう思っている。そこでだ、己の潔白を証明したいのであれば、我が住居、境界島へと来い。


我が、直接、この目で貴様らの秘められし罪を暴き、罪深き者には相応の報いがもたらされるであろう。己の罪からは逃れられぬ。怯え、苦しみ、そして悔いながらの死を楽しみにしておくがいい。


恐れよ、死の業火を!悔いよ、己に秘められし邪心を!」


この二つでは最後の一文が明確に異なっている。前者では「黒い天使・アズリエル」という島の伝説に登場する怪物の名前を名乗り、後者ではそれまでの文章に付け足すように殺意を表現している。


響「へぇ。わざわざ文章書き換えたのか」


一織「そうなんですかね。そもそも、どちらが先なんでしょうか?」


響「え?さすがに蓮花さんの方じゃないの?」


蓮花さんのやつだけが異なった文章になっているんだし、てっきりそうだとばかり思っていたのだが…


一織「分かりませんよ。もしかしたら、犯人が無理やり自分以外の人に罪を擦り付けようとしているのかもしれませんし、実は順番なんて本当はないのかもしれませんし。なんなら、意味とかないかも?」


よくここまで考えつくなぁ。


響「そうかも。考えすぎてたかな」


一織「かもですね。私も、はっきりとは言えないですけど」


ここまで色々と話してきたが、ここであることに気がついた。


響「あ、そうだ!いいこと考えついちゃった!」


一織「いいこと?」


響「犯人をはめるのに利用するんだよ」


一織「はめる?どうやってですか?」


響「犯人に対して、『黒い天使・アズリエル』の名前を出すんだ。もしかしたら、そこからボロを出させることができるかも」


一織「そう上手くいきますかね」


響「さぁ?今なんとなーく考えただけだし」


一織「うーん、まぁ、悪くはないのかも?」


響「じゃあ、やれそうだったらやってみよう」


すると、誰かがコテージに駆け込んできた。


蓮花「誰か、誰かいないの!?」


響「根室さん?どうかしたんですか?」


蓮花「二人だけ?コテージにいるの」


響「あとは、杉本さんは把握してますけど、他の方はどうでしょうか…」


騒ぎを聞きつけたのか、杉本さんに加えて花園さんも姿を現した。


空「な、なんだよ、今度は」


和那「まさかとは思うけど、また誰か殺されたの!?」


少しの沈黙を経て、蓮花さんはこう返した。


蓮花「…たぶん」

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