第16話

響「そういえば、一織ちゃんはなんでここにいたの?」


一織「私ですか?私は…箱のことを調べようかと思いまして」


響「箱?」


一織「そう。箱」


箱か。気にはなるが、まさか夜に起きてまで調べていたとは。


響「箱について調べたなら、何か分かったことはある?」


一織「分かったことですか。ちょっと、中身を見た方が早そうなんですけど、いいですか?」


響「あぁ、じゃあそうしようかな」


私は一織ちゃんについて行った。そして、彼女は箱から中身を取り出そうとした。その時だった。


一織「嘘…そんなはずが…」


響「え?どうかしたの?」


一織「多いんですよ。腕が」


響「腕が多い?どういうこと?」


一織「箱の裏に、本来ないはずの右腕が入っていたんですよ」


彼女はそう言うと、右腕を私の前に見せた。どんなJKだ。あと、間違えても死体を見慣れていない人の前では絶対にそんなことしないでよ。


響「これが、元々なかったやつってこと?」


一織「うーん、さすがに分かんないですね。すみません」


響「…じゃあ、中身を見てみればいいのかな」


一織「あー、そうですね」


私たちは、箱を開けた。その中にあったのは、右腕だった。二つを比べたところで、箱の中にあったものに、犯人の仕組んだ罠が隠されていた。


一織「こ、これって…!」


響「なんだ、これ…」


一織「どうして、『こんなもの』を刻み込む必要が…!」


私たちが見たもの、それは死体に刻み込まれた犯人からのメッセージだった。


犯人「しをもってつぐなえ


あずりえる」


死体に刻み込むため仕方ないことだろうが、ひらがなばかりで読みづらい。


しかし、確実に言えることがある。やはり、佐倉 のあさんが動機に関係しているということだ。だとすると、殺された山田 つぼみさんはどのように彼女に関係していたというのだ…?


いや、この二つの腕、明らかに違う。


響「待って、一織ちゃん」


一織「え?何か分かったんですか?」


響「この二つをよく比べてほしいんだ。明らかに違う点があるから…」


一織「…ん?………あ!爪の違いですか?」


響「そうなんだ。箱の裏にあったのは特に何もされていないけど、箱の中にあったのはネイルがしっかりとされている」


一織「つまり、箱の裏のが松原さん、中のが山田さんってことですか」


響「そういうこと」


一織「だとしたら、なんでそんなことしたんですかね?」


響「分からないなぁ。そもそも、こんなの見るのせいぜい私たちぐらいしかいないのに」


そう考えると、奇妙な犯人だ。それとも、私たちが考えつかないだけで、何か意図がある行動なのか?


一織「うーん…あ、そういえば、私が調べて分かったことがもう一つあるんです」


響「え、何?」


一織「そのためには、中身を取り出した方が分かりやすいので、手伝ってください」


響「…ん?取り出すの?」


一織「え?はい」


サラッと言ってるけど、正気か?いや、というか、まさか実際に死体を出して確認したことを説明しようとか考えていないよな?


響「うっ…重い…」


一織「が、頑張り、ましょうね…」


腰に、腰にすごく負担がかかる。胴体とか特に重たい、というか胴体だけ極端に負担がかかる。成人男性の体重を舐めてはいけなかった。


響「はぁ…はぁ…しんど…」


一織「ありがとうございました…」


響「いいよ。それで、何か分かったの?」


一織「はい。今、二人がかりで松原さんのバラバラ死体を元の体型に合うように並べる作業をしていたんです。これで、何か分かりませんか?」


響「ん?何かって…あれ?首、短くない?」


一織「やっぱりそう思いますよね。ここ、首と胴体の境界を見てください。喉仏がないんですよ」


響「そうか!だから首が短いのか」


喉仏の部分を最初から切り落としていれば、ある程度はサイズを小さく出来る。どんな意図があるのかは定かではない。案外、入れるのに便利だからとか、その程度なのかもしれない。


響「しかし、これはどうしようか」


一織「何がですか?」


響「…戻さないといけないんじゃん?これ」


一織「…あ」


絶望していた私たちのところに、たまたま水を取りに来た和那さんが現れた。


和那「何して…わぁっ!!」


一織「す、すみません!まさか、ここに来ると思ってなくて」


和那「いや、いいんだけどさ。何してるの?」


一織「ちょっと、気になることがありまして」


和那「あぁ、そうなんだ」


そういえば、杉本さんって、多分一番最初に山田さんの死体を見ているはずなんだよな。だとしたら、どうして教会なんかに?


響「あの、杉本さん。少しいいですか?」


和那「え?どうかしたの?」


響「あなたは教会にいた山田さんの死体を最初に見つけましたよね。だったら、どうして教会にいたって分かったんですか?」


和那「あぁ、それ?それはね…」


彼女はそう言うと、自分のスマホを取り出した。


和那「これだよ。これを見たの」


彼女はそう言うと、メッセージアプリのトーク履歴を見せてくれた。そこにあったのは、「助けて!」という山田さんのメッセージと天使像が写っていた写真だ。送られてきたのは五時ごろだ。


一織「これを見て、教会だと思ったんですか?」


和那「うん。ここに来る途中でなんとなく見てた教会の屋根のがこれに似ていた気がして」


響「なるほど…」


和那「あ、あとね、これは私とつぼみのチャットなの」


響「じゃあ、あなた以外は知らなかった可能性が高いと?」


和那「かもね」


もし彼女のこれを信用するのならば、最初に見せる相手は杉本さんに決まっていたと言える。どうしてだ?どうして、杉本さんである必要があるんだ?


和那「そうだ。最後にもう一つ」


一織「なんですか?」


和那「もし私たちの誰かが犯人だと思うなら、多分、その箱の中をもっとしっかり見たほうがいいんじゃない?私と君たちとで結構違うのかもよ」


彼女はそう言って、自室に戻った。何者なのだろうか。

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